日本学術会議「幹事会だより No.97」について
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幹 事 会 だ よ り No.97
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平成25年10月8日発行
日本学術会議会長
大西 隆
今回は9月24日(火)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを
受け、8月22日(木)に開催されました第177回幹事会の議事の概要を御報告いたし
ます。
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会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
9月になって、一斉に諸活動が活発になりました。学術会議でも、ILCに関する審議依
頼への回答、科学研究の健全性強化に向けての議論、さらにFuture Earthへの取組のひ
とつとして国際事務局と地域拠点への応募と国内委員会の発足に向けた準備等の大きなテ
ーマに取り組んできました。これらは、それぞれ、家副会長、小林副会長、春日副会長に
中心になって進めて頂いたので、報告して頂く機会があると思います。
私からは学術会議の活動にも関連するものとして、9月に2回行くことになった東日本
大震災の被災地のひとつである釜石についてご紹介します。友人が、震災の記録ビデオを
作る企画を立てました。私も8巻物の一つとして釜石を手伝うことになり、検討の結果、
災害体験を忘れない、というテーマで、市内の唐丹(とうに)本郷地区と花露辺(けろべ
)地区を取り上げることにしました。唐丹本郷は、昭和三陸地震津波(1933年)の被
災体験から、安全な場所に住むという教訓を導き、当時の復興事業で高台移転を実現した
地区です。今回の津波では高台地区は建物も無事でしたが、第2次大戦後に、低地にも再
び家が建ち、それらが全滅しました。教訓を守り通すことができなかったのです。花露辺
は、港に直交する坂道に家並が張り付くような階段状の漁村集落で、低い方の10数軒が
流されました。復興に当たっては、最上部の土地に災害公営住宅と宅地を用意して、被災
した地域の住宅を移し、その後、被災地域には住宅は建てないという方針です。しかも、
防潮堤も設けずに、低地には人が住まないことで、次の大津波から生命と財産を守ろうと
しています。既に、宅地造成や公営住宅の事業は進んでおり、年末には利用できるという
ことです。恐らく、早期復興事例の一つになるでしょう。体験した災害の教訓を生かした
復興事業が早く完成することを期待します。
学術会議の東日本大震災復興支援委員会でも各分科会が復興支援について現地調査を含
めた活動を展開しています。9月の幹事会では、新たに汚染水問題対応検討分科会を設置
しました。東電福島原発での放射能汚染水の発生と海への流出を如何に防ぐかという緊急
性のあるテーマを扱います。復興支援に向け学術会議の総力を結集していきたいと思いま
す。
〔 組織運営・科学者間の連携担当副会長 小林良彰 〕
データねつ造や改ざんなどの「不正行為」と預け金やプール金などの「不正使用」から
成る「研究不正」が続発していることを受け、9月26日に文部科学省「研究における不
正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」が「中間取りまとめ」(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/09/__icsFiles/afieldfile/2013/09/26/
1339981_02_1.pdf)を公表しました。それによると、不正を事前に防止する取り組みと
して倫理教育の強化が求められており、具体的には「学術会議の取組とも連携しながら、
標準的なプログラムや教材の作成を進める」と記載されています。また、「組織の管理責任
の明確化」が強く求められ、研究費の管理・執行責任者だけでなく倫理教育責任者を置く
ことが要請され、「組織としての責任が果たせない機関に対して、国が何らかのペナルティ
を課すことも検討することが必要である」と従来に比べて一歩、踏み込んだ表現となって
います。そして、研究不正が起きた場合には、「不正調査の期限を設定」することで
スピーディな対応が必要とされるとともに、競争的資金制度に関する管理条件を満たさない
組織に対しては「間接経費を相応に削減することが考えられる」として、組織に対する措置
の発動も念頭に置かれています。この他、一定期間の研究データの保存・公開や研究不正
調査への第三者的な視点の導入など、いずれも適切な内容が盛り込まれています。
こうした国側の対応に対して、まず何よりも研究者側が自ら研究不正を根絶するための
方策を検討し、再発防止と研究不正が生じた場合の対応策を打ち出していかなければなり
ません。そして、学術会議が「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(学術会議法第
二条)を標榜するならば、その先頭に立って行かなければならないことは言うまでもあり
ません。今年1月に発出した「科学者の行動規範―改訂版―」を実質化するためにも、7
月幹事会で設置した幹事会附置「科学研究における健全性の向上に関する検討委員会」を
中心とする各領域における議論に対する皆様のご協力を重ねてお願い致します。
〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 家泰弘 〕
9月の幹事会では、回答と提言がそれぞれ1件ずつ承認されました。
回答「国際リニアコライダー計画に関する所見」は文部科学省研究振興局長からの審議
依頼に応えるべく設置された「国際リニアコライダー計画に関する検討委員会」の審議を
取りまとめたものです。私自身が委員長を務めましたので、(「副会長報告」からはやや
逸脱しますが)委員長としての感想めいたものを述べます。同検討委員会の審議と同時期
に、ILC計画を推進する研究者で組織された立地評価会議による立地候補地(北上山地か
脊振山地)の選定が最終段階を迎えていたこともあって、候補地地元やマスコミの関心が
高く、検討委員会には毎回多くの傍聴登録がありました。専門家からの意見聴取も含めて
計7回の検討委員会を開催して審議を進めましたが、途中2回は非公開審議としました。
ILC計画の学術的意義や、学術全体における位置づけ、国内および国際的な準備状況、我
が国で実施するための必要条件等に関する所見を述べた回答を、9月30日に文科省に手
交するとともに発出しました。
基礎医学委員会・総合工学委員会合同放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会内に
設置された研究用原子炉のあり方検討小委員会(柴田徳思委員長)における審議を取りま
とめた提言「研究用原子炉の在り方について」では、研究用原子炉が果たしている役割、
発電用原子炉との特性の違いを考慮した合理的な安全規制、燃料問題や更新計画も含めた
適切なグランドデザインの必要性、などが論じられており、現在、公表に向けて一部修正
作業が進められています。
〔 国際活動担当副会長 春日文子 〕
9月26、27日の両日、パリのICSU本部で開かれた、Committee on Scientific
Planning and Review (CSPR) 会合に出席してきました。CSPRはICSUに3つある
ポリシー委員会の一つであり、年に2回開かれて、ICSUの様々な活動方針について審議し、
執行理事会に助言を行います。ちなみに、他の2つのポリシー委員会は財務委員会と科学
の自由と責任委員会です。CSPRはICSUの横断的委員会やプログラムの科学者委員会委員
を選考し、またユニオンが実施するプロジェクトの事前ならびに事後評価も行います。
ICSUの計画立案と評価担当のMakgoba副会長を委員長として計15人の委員から構成されて
います。任期は3年間、1回の再任が認められます。
今回は、ICSUが新たに力を入れている諸プログラムの評価やユニオンとの連携強化、フ
ューチャーアース実施にあたっての他のアライアンスメンバーとの関係、来年夏にニュー
ジーランドのオークランドで開かれる第31回ICSU総会のプログラムなどに関して、真剣
な議論が行われました。2日間で18の議題をこなす、密度の濃い会議でした。
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以下、第177回幹事会の概要となります。
◎第177回幹事会(平成25年8月22日(木)13:40~15:50、17:50
~18:40)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 前回の幹事会以降の諸報告事項について確認が行われました。
3 以下の公開審議が行われました。
(1) 科学研究における健全性の向上に関する検討委員会運営要綱の一部改正(新規設置1
件)を決定しました。
○新規設置
・臨床試験制度検討分科会
(2) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置2件、調査審議事項の追加1件)及び分
科会等委員(2分科会、1小委員会)を決定しました。
○新規設置
・地域研究委員会 アジアの地域協力の学術的ネットワーク構築分科会
・総合工学委員会・機械工学委員会合同 計算科学シミュレーションと工学設計分科会 ポ
ストペタスケール高性能計算に資する可視化処理小委員会
○調査審議事項の追加
・情報学委員会 情報科学技術教育分科会
(3) 人口減少が社会の諸システムに及ぼす影響に関する長期展望委員会における委員を決
定しました。
(4) 我が国の研究力強化に資する研究人材雇用制度検討委員会における委員を決定しまし
た。
(5) 科学者からの自律的な科学情報の発信の在り方検討委員会における委員を決定しまし
た。
(6) 日本学術会議の第三者評価機能に関する検討委員会における委員を決定しました。
(7) 報告「我が国における歯科医学の現状と国際比較2013」について、歯学委員会の
山口朗幹事より説明があり、審議の結果、所要の修文を条件に承認しました。
(8) 提言「無煙タバコ製品(スヌースを含む)の蔓延による健康被害の防止に向けて」に
ついて、健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会の矢野栄二委
員長、望月友美子委員より説明があり、審議の結果、所要の修文を条件に承認しました。
(9) 報告「全員加盟制医師組織による専門職自律の確立-国民に信頼される医療の実現の
ために-」について、医師の専門職自律の在り方に関する検討委員会の樋口輝彦副委員
長、桐野高明委員より説明があり、審議の結果、所要の修文を条件に承認しました。
(10) 平成25年度代表派遣について、実施計画に基づく10-12月期の会議派遣者を決定しま
した。
(11) 第6回世界科学フォーラムに会員を派遣することを決定しました。
(12) 日本学術会議協力学術研究団体の指定(5団体)を承認しました。
(13) 16件のシンポジウム等の開催、2件の国際会議及び4件の国内会議の後援を決定
しました。
(14) フューチャーアース事務局誘致に関して、学術会議が申請の主体となることを決定
しました。
(15) 第11回産学官連携功労者表彰授賞式を主催することを決定しました。
4 その他事項として、春日副会長から、トルコへの人権問題嘆願書を出した後の報告並
びにICSU地域事務所レビューパネル及びフランス学士院財団への専門家の推薦について
の報告がありました。また、今後の幹事会の日程について確認しました。
5 以下の非公開審議が行われました。
(1) 東日本大震災復興支援委員会における分科会委員(特任連携会員)を決定しました。
(2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)及び小委員会委員を決定しまし
た。
(3) 日本学術会議が加入する国際学術団体の脱退及び加入を決定しました。
(4) 第6回世界科学フォーラムへの派遣に関連し、国際業務に参画するための特任連携会
員を決定しました。