日本学術会議「幹事会だより No.94」について

 

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.94
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                                平成25年7月8日発行

                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

  今回は6月28日(金)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
5月31日(金)に開催されました第174回幹事会の議事の概要を御報告いたします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
  既にご覧いただいたと思いますが、去る6月21日に日本版NIHに関連した会長談話を公表しま

した。生命科学、特に基礎研究の成果を元に、新しい医療技術や創薬に結び付けるイノベーション
に係る研究開発を促進することが日本の課題であることは、研究者はもとより、政策立案者も
共有しています。しかし、この議論が昂じて、基礎研究の資源を臨床研究や医薬品開発に回して
いくことになれば、イノベーションの源が枯渇してくことになりかねないという懸念が強いこと
を知らされました。談話では、イノベーションの推進と基礎研究の堅持の二兎を、敢えて共に
追うことが大事なことを強調したつもりです。これからの政策レベルの議論がその方向で進んで
いくことを強く期待します。
  しかし、心配なニュースが伝えられています。ノバルティス社の社員が、日本の大学の研究室
に入り、承認後効果検証において重要な役割を果たしたものの、身分を隠して論文発表したり、
使用したデータそのものにも疑惑が生じているというものです。詳細は調査結果が報告される
のを待たなければなりませんが、上記のイノベーションと基礎研究とを車の両輪とした研究体制
の構築に水を差すような話になりかねないので、科学者の行動規範に基づいた健全な研究推進を
広く訴えて、皆で実践していくことがとても重要です。日本学術会議としても、行動規範を公表
して普及を図ることから一歩進めて、その実践を促す取組みを進めていきたいと思っています。
  6月も海外出張が多かったのですが、学術会議の用件で行ったロンドンとアムステルダムに
ついて春日副会長に紹介して頂いているので、JICAの用件で行ったミャンマーについて少し触れ
ます。今年に入って2回目のミャンマー出張で、首都ネピドーと前首都で経済・文化中心の
ヤンゴンを訪ねました。私の仕事はヤンゴン都市圏の総合計画に関するアドバイスですが、
学術関係者にもお目にかかりました。今、ミャンマーの大学や研究機関は夜明けともいえる時期
を迎えています。これまで強い軍事優先政策の中で停滞していた高等教育や科学研究が次第に
復活し、活発に展開されようとしています。日本学術会議としても、協力を惜しまず、特に次代
を担う若い研究者が日本との学術交流の中で成果を上げることができるようにしてくことが重要
と感じました。
  6月23日には、京都で、日本学術会議も主催した「世界生物学的精神医学会国際会議」が開催
され、開会式には天皇・皇后両陛下がお出でになりました。私も主催団体の代表として開会の挨拶
を行い、両陛下にご出席頂いたことへのお礼を申し上げました。今年も日本学術会議が主催する
国際会議が各地で開催され、私たちの国際活動の重要な柱となります。今回の世界生物学的精神
医学会国際会議がそうであったように、準備に当たってきた関係者の皆さんの努力が報われ、
全ての会議が成功裡に行われることを心から願っています。


〔 組織運営・科学者間の連携担当副会長 小林良彰 〕 
  日本学術会議では、今年の1月に声明として「科学者の行動規範―改訂版―」を作成し、発出
した。その後、各大学でこの行動規範を参考にした倫理綱領作りなどが行われている。しかし、
その一方で、データのねつ造などの新たな研究不正が様々な分野で起きている。このため、文科省
は今年度から研究者が公的な研究費を不正使用するのを防ぐために罰則を強化する方針を明らか
にした。
  その中には、プロジェクトの研究代表者の善管注意義務違反として、自ら不正使用に関与して
いない場合でも、研究資金の管理責任者としての責務を全うしなかった場合に最大2年間の応募
資格制限となることが新設された。また、研究費を私的流用した研究者に対しては、応募資格
停止の期間を現状の5年から10年に延長された。研究費の応募資格停止が10年になると、研究者
として研究活動を継続することは不可能に近いことになる。
  こうした状況の中で、学術会議は「科学者の行動規範」を出しただけで良いのだろうか。
むしろ「科学者の行動規範」は研究不正根絶の出発点であり、「科学者の行動規範」を実質化
することが求められているのではないだろうか。
  具体的には、大学院入学時や新任教員就任時に、「科学者の行動規範」を学ぶための授業や
講習を受けてもらい、きちんと理解しているかどうかを確認する研修プログラムを開発し実施
することである。特に、研究者が科研費などに応募する際に、こうした研修を終えていること
を応募の要件とすることが重要である。そうしたプログラムの内容は、分野によらず共通する
項目もあれば、分野によって異なる項目もある。そうしたプログラム作りを分野横断的に協力
して作成し、優れた研究者が研究不正で研究の道を絶たれることがないようにするために、
わが国の研究者の代表である学術会議がそうした任務を引き受けるべきなのではないだろうか。


〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 家泰弘 〕
  先月の幹事会だよりに書きましたように、科学と社会委員会のもとに設置する課題別委員会
の審議テーマを公募したところ何件かの提案がありました。科学と社会委員会の課題別審議
検討分科会にて検討を経て、4件が幹事会に提案され設置が承認されました。
各々の設置趣旨は以下のようなものです。
・「人口減少が社会の諸システムに及ぼす影響に関する長期展望委員会」は、少子高齢化に
よる我が国の人口減少傾向という現実を見据え、その中長期的な予測と、それらが社会・経済
に及ぼす影響の分析に基づき、採るべき対策の検討を行う。
・「我が国の研究力強化に資する研究人材雇用制度検討委員会」は、次世代を担う若手研究者
のキャリアパスや人材育成の観点から、本年4月に施行された新労働契約法がプロジェクト
予算による雇用や任期制などに及ぼす影響など最近の状況を踏まえ、問題点の分析と対策の
検討を行う。
・「科学者からの自律的な科学情報の発信の在り方検討委員会」は、東日本大震災と原発
事故による一連の状況の中で、さまざまな情報が錯綜する一方、国民が真に求める科学情報
を学術界から適時に発信するという点において機能不全が生じたことの分析・反省に立ち、
信頼すべき科学情報を適切に国民に伝え,かつ施策に反映させて行く仕組みについて検討する。
・「日本学術会議の第三者評価機能に関する検討委員会」は、種々の評価の公正性に関する
社会的要請が強まる中、重要な研究課題や研究施策について総合科学技術会議や各府省等
からの依頼に基づいて日本学術会議が学術的水準の高い中立な第三者評価の役割を担うこと
について、適切に対応できるよう予めその仕組みを検討する。
  これらの課題別委員会の委員公募が近々行われますので、上記のテーマに関心を持ち審議
に参加してくださる会員・連携会員の積極的な応募をお願いいたします。


〔 国際活動担当副会長 春日文子 〕
  6月も忙しい月でした。
  6月11、12日、英Royal Society (RS)主催のG8 UK会議があり、G8国の科学技術大臣と
アカデミー会長が集まって、科学研究成果へのオープンアクセスなど4つのテーマについて
の議論があり、共同声明が出されました。大西会長のご出席にあたり、多くの会員、連携会員
の皆様から作業文書へのご意見をいただき、RSとの事前準備にご貢献いただきました。
  6月18日には、日本学術会議学術フォーラム「Future Earth:持続可能な未来の社会へ
向けて」を開催しました。320人を超える参加があり、2階の大会議室を第二会場として講堂
の様子をスカイプ中継しました。司会、挨拶を含め26人の登壇という大フォーラムでしたが、
企画の安成先生や司会の江守先生のご尽力により、テンポ良く進行しました。Future Earth
は持続可能な世界のための課題解決型研究であり、学際的研究と社会との協働により進め
られるものというコンセプト図が繰り返し示され、しっかりと参加者の印象に残ったものと
思います。同日午前に開かれた合同5分科会では、Future Earth委員会の設置が提案され、
28日の第175回幹事会で幹事会附置委員会として承認されました。今後、ステークホルダー
との協議も重ね、Future Earth日本委員会の設立を目指します。これは国際的な対応母体
ともなるものです。
  24-26日には、アムステルダムにあるオランダ王立科学アカデミーにおいて、インター
アカデミーカウンシル(IAC)理事会が開かれ、大西会長とともに出席してきました。
IACとIAP、さらにIAMPの将来の統合が議論され、国際アカデミーの新たな潮流を感じました。
大西会長からは10月に企画している日本学術会議とIAC、 IAP、 ICSUそして国連大学共催
国際会議の計画について、提案がありました。最後に理事メンバーのメール選挙結果が承認
され、日本学術会議は理事に再選されました。これで、IAPとIACともに理事国となりました
ので、国際社会でもさらに大きな責任を果たしていきたいと思います。
 


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  以下、第174回幹事会の概要となります。

◎第174回幹事会(平成25年5月31日(金)13:30~17:40)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認を行いました。
2 前回の幹事会以降の諸報告事項について確認を行いました。
3 以下の公開審議を行いました。
(1)若手アカデミー委員会運営要綱の一部改正(新規設置1分科会)及び委員会等委員
(親委員会及び若手研究者ネットワーク検討分科会)を決定しました。
○新規設置
・若手研究者ネットワーク検討分科会
(2)国際委員会における分科会委員(持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議
2013分科会)を決定しました。
(3)分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置4分科会・1小委員会、定数変更1分科会、
設置期限の延長1分科会)及び分科会等委員(1委員会、8分科会、2小委員会)を決定
しました。
○新規設置
・心理学・教育学委員会 心理学分野の参照基準検討分科会 
・社会学委員会 討論型世論調査分科会
・地域研究委員会 地域学分科会 大学地域学課題検討小委員会
・農学委員会・食料科学委員会合同 農学分野の参照基準検討分科会
・基礎医学委員会・臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同 医学分野の参照基準検討
分科会
○定数変更
・心理学・教育学委員会 社会のための心理学分科会
○設置期限の延長
・経営学委員会 高齢者の社会参画のあり方に関する検討分科会
(4) 医師の専門職自律の在り方に関する検討委員会設置要綱の一部改正(委員会の設置期限
の延長)を決定しました。
(5) 課題別委員会「国際リニアコライダー計画に関する検討委員会」を新規に設置すること
とし、設置要綱を決定しました。また、同委員会委員を決定しました。
(6) 課題別委員会「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」を
新規に設置することとし、設置要綱を決定しました。
(7) 提言「原発災害からの回復と復興のために必要な課題と取り組み態勢についての提言」
について、社会学委員会東日本大震災の被害構造と日本社会の再建の道を探る分科会の
舩橋晴俊委員長、吉原直樹副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修文を条件に承認
しました。
(8) 日本学術会議の運営に関する内規の一部改正を決定しました。
(9) G8科学技術担当大臣及びG8科学アカデミー会長会合へ会長を派遣することを決定
しました。
(10) 平成25年度代表派遣について、実施計画に基づく7-9月期の会議派遣者を決定
しました。
(11) 地区会議構成員の所属地区の変更を決定しました。
(12) 16件のシンポジウム等の開催、2件の国際会議及び3件の国内会議の後援を決定
しました。
4 その他事項として、今後の幹事会開催日程について確認を行いました。
5 以下の非公開審議を行いました。
(1) 若手アカデミー委員会における分科会委員(特任連携会員)を決定しました。
(2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)及び小委員会委員を決定しました。
   特段の事情を考慮し、農学委員会・食料科学委員会合同農学分野の参照基準検討分科会
に、複数名の特任連携会員を決定しました。
(民間や国際機関との研究、教育活動の経験が豊富で、若手世代というだけでなく、企業や
国際的視野を持った人材が不可欠であるため。)
(3) 医師の専門職自律の在り方に関する検討委員会における委員(特任連携会員)の任期の
延長を決定しました。
(4) 平成25年度代表派遣7-9月期の会議派遣者に関連し、国際業務に参画するための特任
連携会員を決定しました。
(5) 賞候補者の推薦を決定しました。



◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇――――――――――――――――――――― 

次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
  会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。

  「第165回総会」 平成25年10月2日(水)~4日(金)