日本学術会議「幹事会だより No.101」について

 

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.101
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                                平成25年12月27日発行

                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

今回は12月17日(火)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたこと
を受け、11月22日(金)に開催されました第183回幹事会の議事の概要を御報告い
たします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
 今年も間もなく終わりますが、最後の報告として、本年12月に研究開発力強化法(研
究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等
に関する法律)と任期法(大学の教員等の任期に関する法律)の一部改正によって、労働
契約法の特例が設けられたことを取り上げます。
  去る4月に施行された労働契約法の改正で、有期労働契約が反復更新されて通算5年を
超えた時は、労働者の申込みにより無期労働契約へ転換できることになったのですが、こ
の度、前記2法の改正で、研究開発法人や大学及び大学共同利用機関等に所属する研究者、
技術者、教員、あるいはリサーチアドミニストレーター(専門的な知識・能力を要する業
務に従事する者)、さらに民間企業の研究者等で研究開発法人又は大学等との共同研究に
もっぱら従事する者を対象に、無期労働契約に転換する期間を5年から10年に延長しまし
た。これで、大学等で心配されていた、外部資金等での研究が継続しているのに、5年間
で雇い止めすることになるという事態は回避されたといえます。しかし、一方で、10年間
も有期雇用を続けた後に、果たして無期雇用の就職口が見つかるだろうか?もし見つから
なければ、徒に若者の不安定状態を長期化するだけではないかという疑問も生まれていま
す。
  一般論としては、近年、大学等の研究現場で特任職等の有期雇用が増えた結果、若者が
不安定な状態に置かれるという社会問題が大学などにも現れた反面、雇用される若者の数
そのものは増加し、流動性も高まったという面があります。それぞれの大学における無期
雇用のポストはそう増えることはないので、博士課程修了者やポスドク研究者が、大学教
員だけではなく、民間の研究機関や、行政等の専門職に就くという就職先の拡大がなけれ
ば、不安定状態は解消されません。労働契約法が提起した問題を、今回の2法改正で解決
したとするのではなく、あくまで問題解決の時間を確保するための緊急的措置が行われた
に過ぎないと認識して、科学技術立国を標榜する国にふさわしく、高度に教育を受け、研
究を通じて問題を解決する資質を持った若者が、社会の各所で活躍できるように、意識、
制度のより根本的な改革を行っていくことが必要だと思います。



〔 組織運営・科学者間の連携担当副会長 小林良彰 〕  
 日本学術会議には地域の科学者と意思疎通を図るとともに学術の振興に寄与することを
目的として、7つの地区会議(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖
縄)が設置されて活発に活動を行っています。その中で、私は、11月29日に長崎大学で
開催された九州・沖縄地区会議学術講演会「地球市民としてのあなたへ~フクシマの復興
に向けたアカデミアの挑戦~」に出席しました。
  冒頭、私のほうから学術会議の活動について説明した後、片峰茂・長崎大学長より3.
11以降における「科学と社会の信頼」という重要なテーマについての問題提起が行われ
ました。そして、IAEA・Incident and Emergency Centreの Eduardo Daniel Herrera
Reyes氏から「急被ばく医療の国際的取り組みと国際原子力機関の緊急時対応援助ネット
ワーク」について紹介があり、大津留晶・福島県立医科大教授から「原発事故後の現況
と健康への取り組み」について福島原発事故がもたらす問題と、それに対する長崎大学医
学部の貢献について詳細なデータに基づく講演が行われました。さらに、高村昇・長崎大
学教授から「放射線健康リスク科学のこれから:長崎、チェルノブイリから福島へ」とし
て、長崎大学がこれまで被爆県である長崎やチェルノブイリにおける研究の成果を福島に
活かすためにどのような活動を行っているのかについて紹介が行われ、最後に、Gregory
K. Clancey ・シンガポール大准教授より、「福島の歴史的予見の視点から:日本と自然
災害」 として総括が行われました。当日は、100名を超える聴衆に対して各登壇者が
専門的な内容をわかりやすく説明して頂き、フロアからも多くの質問が出て活発な議論が
行われた。
  また、学術講演会に先立って開かれた地区会議懇談会では、研究不正への対応策や東日
本大震災からの復興支援、無煙タバコの健康被害などについて私と田口事務局長から概要
を報告した後、地区会議との質疑応答を行いました。その際、地区会議構成員のアンバラ
ンスに対する意見や大型研究マスタープランに対する質問が多く寄せられました。特に、
九州・沖縄地区会議は熱心な活動を行っている地区会議の一つであることから、同地区会
議に所属する会員・連携会員の絶対数が不足していることへの危惧が寄せられ、来期の新
しい会員と連携会員の選考に際して、ジェンダーのバランスとともに各地区会議における
活動への配慮も必要であることを実感した次第です。さらに、長崎大学の伝統ある熱帯医
学研究所や原爆後障害医療研究所の研究施設や研究活動についても拝見する機会を得て、
長崎大学の意欲的な姿勢に感銘を受けました。



〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 家泰弘 〕
 11月から12月にかけて、多くの地区会議が開催されています。私は、11月18日に鹿
児島大学で開催された九州・沖縄地区会議と、11月20日に名古屋大学で開催された中部
地区会議に出席いたしました。いずれも地区会議に続いて学術講演会が開催され、多くの
学生や市民が聴講しました。鹿児島大学稲森会館での講演会は「かごしまの水を考える―
鹿児島大学『水』研究最前線―」と題し、水資源・水害・水質保全という、地域と生活に
密着したテーマが採り上げられました。名古屋大学物質材料国際研究センターでの講演会
は「大学からの知の発信―文理融合の視点から―」と題し、バラエティに富む内容でし
た。
  学術講演会に先立って開かれた地区会議懇談会では、最近の学術会議の主な活動(研究
不正への対応策、東日本大震災からの復興支援、原子力利用の将来、大型研究計画マスタ
ープラン策定など)について概要を報告した後、地区会議の活動状況についてお話を伺
い、種々意見交換を行いました。地区会議の構成員(会員・連携会員)の絶対数の不足や
分野の偏りによって、活動に手薄なところが生じるとの悩みの声もお聴きしました。実
際、会員・連携会員の分布は首都圏に一極集中しており、地区会議によっては限られた数
のメンバーに負担が集中しがちです。年明けから会員・連携会員の半数改選の選考が始ま
ります。学術会議が我が国の研究者を代表する組織であるためには、見識を持った方々が
学問分野や男女比や地域といった観点からバランス良く選ばれ、会員・連携会員として活
動していただくことが必要です。それを実現するためには、なんといってもまず会員・連
携会員に相応しい候補者を数多く推薦していただくことが重要です。特に女性や地域バラ
ンスにも配慮した積極的な推薦をお願いいたします。推薦書類の提出は1月末ですので、
年末年始の期間を活用して準備を進めていただければ幸いです。なお、推薦および選考に
関する情報は下記に掲載されています。
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/senko/23senkou.html


〔 国際活動担当副会長 春日文子 〕
 前回幹事会だよりを書いたのは、世界科学フォーラム(World Science Forum: WSF)
2013に出席中のリオデジャネイロからでした。WSFは2003年から隔年でブダペストで開
催されてきましたが、第6回目となる今回は、初めてブダペスト以外で開かれました。今
後は2回に1回はハンガリー以外での開催となる予定で、2017年にはヨルダンで開催され
ることが決まりました。今回、“Science for Global Sustainable Development”をテー
マとして11月24日~27日に開かれたWSFには、日本学術会議から大西会長、第三部会員
の黒田玲子先生、特任連携会員の小野裕一先生、事務局の担当者、そして春日とで参加
しました。詳しい報告はまもなくHPに公開されますので、そちらをご参照いただきたいと
思いますが、大西会長と黒田先生はプレナリーセッションで、それぞれ日本の科学技術イ
ノベーション政策から学術会議の取組、また減災に役立つ日本ならではの科学技術の事例
から科学者と市民双方に求められるリテラシーなど、インパクトのある紹介や訴えをされ
ました。また学術会議がICSUとUNESCOと共同で担当した災害リスク低減のパラレルセッシ
ョンでは、小野先生がユーモアのあるスライドを交えつつ、兵庫行動枠組みなど包括的な
仕組みから津波警戒システムによる警報を受けた市民の行動が様々であることまでを紹
介され、フロアとの質疑応答も盛り上がりました。
  最後にDeclaration & Recommendationsを採択して終了したWSF 2013でしたが、これま
でと同様、日本学術会議は次回のWSF 2015に向けた準備委員会に参加を求められていま
す。他にもこれに匹敵する大きな国際科学会議が開かれるようになった今、WSFは何を特
徴としてどのように開催すればよいのか、日本としてどう関わっていけばよいかを慎重に
考え、講演において日本のプレゼンスを示すとともに、必要なリーダーシップをとってい
くべきだと思いました。




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 以下、第183回幹事会の概要となります。

◎第183回幹事会(平成25年11月22日(金)13:30~15:40)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 前回の幹事会以降の諸報告事項について確認が行われました。
3 以下の公開審議が行われました。
(1) 東日本大震災復興支援委員会における分科会委員(1分科会)を決定しました。
(2) フューチャー・アースの推進に関する委員会運営要綱の一部改正(新規設置1件)を
決定しました。
○新規設置
・持続可能な発展のための教育と人材育成の推進分科会
(3) 分野別委員会運営要綱の一部改正(所属委員会の追加1件、新規設置1件、設置期限
の延長1件)及び分科会等委員(1小委員会)を決定しました。
○所属委員会の追加
・基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会・臨床医学委員会
合同 総合微生物科学分科会
○新規設置
・環境学委員会 都市と自然と環境分科会 地域環境情報の整備・統合・活用に関する小委
員会
○設置期限の延長
・土木工学・建築学委員会 土木工学・建築学分野の参照基準検討分科会
(4) 提言「科学者から社会への情報発信のあり方について」について、総合工学委員会・
機械工学委員会合同計算科学シミュレーションと工学設計分科会の萩原委員長及び今田委
員より説明があり、審議の結果、提言(案)の扱いについて、会長において計算科学シミ
ュレーションと工学設計分科会と相談の上、検討することとしました。
(5) 提言「臨床研究にかかる利益相反(COI)マネージメントの意義と透明性確保につい
て」について、臨床医学委員会臨床研究分科会の宮坂委員長より説明があり、審議の結
果、所要の修文の上、提言(案)の扱いについては、会長において検討し、決定するこ
ととなりました。
(6) 日本学術会議協力学術研究団体規程の一部を改正することを決定しました。
(7) 平成25年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することを決定しました。
(8) 平成25年度代表派遣について、実施計画に基づく1-3月期及び平成26年4月の会議派遣
者を決定しました。
(9) 8件のシンポジウム等の開催を決定しました。
4 その他事項として、今後の幹事会開催日程について確認しました。
5 以下の非公開審議が行われました。
(1) 東日本大震災復興支援委員会における分科会委員(特任連携会員)を決定しました。
(2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)の任期の延長及び分科会委員(特
任連携会員)を決定しました。
  特段の事情を考慮し、基礎医学委員会・臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同医
学分野の参照基準検討分科会に、複数名の特任連携会員を決定しました。
(医学教育の開発・実践等で高い評価を得ている若手人材が不可欠であるため。)
(3) 平成25年度代表派遣1-3月期の会議派遣者に関連し、国際業務に参画するための特任
連携会員を任命することを決定しました。

 

◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇――――――――――――――――――――― 

次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
  会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。

  ○第166回総会(第22期・第6回) 平成26年4月10日(木)~12日(土)
  ○第167回総会(第22期・第7回) 平成26年7月11日(金)
  ○第168回総会(第23期・第1回) 平成26年10月1日(水)~3日(金)

  ※第167回総会は、第23-24期会員選考のための臨時総会です。