日本学術会議「幹事会だより No.109」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.109
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                                 平成26年8月4日発行
                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

 今回は7月11日(金)及び7月25日に開催されました幹事会で、それぞれ議事要旨
が確認されましたことを受け、6月27日(金)に開催されました第195回幹事会及び
7月11日に開催されました第196回幹事会の議事の概要を御報告いたします。


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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
 7月11日に臨時総会が開かれました。臨時といっても、毎期この時期に行われ、幹事会
の求めに応じ、会員候補者を承認するのが目的の総会です。承認されれば、会長は、会員
候補者を内閣総理大臣に推薦します。今回も会員総数の半分に当たる105名の新規会員候
補者の推薦が決まりました。内容の特徴は、まず各部の会員を70名ずつに収めるための調
整を行ったことです。第一部と第三部で、改選数より1名ずつ少ない数を推薦し、その
分、第二部関係の推薦が増えました。もっとも、実際の所属部は会員からの申出に基づき
総会で定めることになっているので、選考の段階では、あくまで推薦する会員数の割り当
てです。
  女性会員数にも目標を置きました。もともと今回の改選者は女性会員が相対的に多かっ
たので、現状維持を目指し、最低でも2名減で留めようとしました。結果として、現状維
持となりました。内訳では第二部と第三部で女性会員が増えることになり、これまで第一
部に女性会員を依存していた状態が少し改善されました。女性会員増加の試金石となるの
は、実は次回2017年の改選です。この時は、改選数の倍増を目指さなければなりません。
さらに、地域バランスも改善しました。会員数が極端に少なかった中国・四国地区で、会
員が増え、地区会議の活動を活発にする基盤が整いました。
  このように、コ・オプテーションによる会員の努力で、種々の目標を達成しつつ新会員
候補者を推薦することができたのです。しかし、同時に、課題も明らかになりました。最
も重要と思うのが、新しい分野、部をまたぐ分野での推薦の困難さです。コ・オプテーシ
ョンは、既存分野の後継者を見出すことには適しているのですが、新たな分野や、境界領
域に位置する分野からは会員候補者が推薦され難いきらいがあります。この問題は予め分
かっていたので、各部の推薦だけで決めるのではなく、部横断的なメンバーからなる親委
員会(選考委員会)が一定の推薦枠を持つようにしたのです。この方法によって、少し改
善されたように思いますが、こうしたやり方をもっと強める必要があります。学術の継続
性や内的発展性という観点から、過半は既存分野でのコ・オプテーションで選ぶとして
も、一定の数は、既存分野を超えて選考する仕組みを導入しなければ、会員のカバーする
領域という点で日本学術会議が科学の先端から遠ざかるという問題を抱え込むことになり
ます。これは来期以降の課題ともなるでしょう。
  ともあれ、最終的には、今後、内閣総理大臣の任命によって新会員が決まり、10月1日
から第23期が始まります。少し早いですが、第22期で任期を全うする会員の皆様のこれま
でのご尽力に感謝します。そして、新たな会員を得て、第23期がますます活発に活動する
期になることに期待します。

〔 科学者委員会担当副会長 小林良彰 〕
 7月29日に学術会議講堂で学術フォーラム「研究倫理教育プログラム」が開催され、284
名が来場して講堂が満杯になる盛況でした。現在、日本学術振興会を中心に日本学術会議
や科学技術振興機構、文部科学省が協力して作成している研究倫理教育プログラムは、科
学が依って立つ基盤となる社会からの信頼を回復するための方策の一つです。
  研究不正の問題が起きると、罰則強化だけに目が行きがちですが、科学者が研究の自由
を奪われないためには、何よりも不正の「事前防止」を考えなくてはなりません。文部科
学省による新たな「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(案)
でも、「研究者、科学コミュニティ等の自律・自己規律」として「不正に対する対応は、
まずは研究者自らの規律、及び科学コミュニティ、大学等の研究機関の自律に基づく自浄
作用としてなされなければならない」と強調されています。つまり、他者による過度な取
り締まりで研究が束縛されないためには、私たち自身が自律的に研究健全化を考えて行か
なければなりません。
  研究不正の原因を調査すると、三割程度が故意ではなく「無知」によるものです。例え
ば、シニアの研究者にとっては「昔は、この程度は許された」という以前の感覚を引きず
っている方もいます。また、様々な文化で育った留学生の中には「自分の母国では、この
程度は問題ない」と考える者もいるかもしれません。したがって、明々白々な研究不正は
論外としても、グレーゾーンのどこからが研究不正でどこまでは不正でないのかの見極め
は簡単なことではありません。このため、シニアの研究者から大学院生に至るまで、あら
ためて研究倫理について学ぶ機会を設ける必要があるのではないでしょうか。こうした問
題意識に基づいて、今回のシンポジウムを開催した次第です。
  もちろん、研究倫理教育プログラムを実施したからと言って、故意な研究不正が根絶さ
れることにはならないかもしれません。それでも、科学に対する社会の信頼を取り戻し、
研究者人生を奪われたり不名誉な評価を得る方を少しでも減らすために、日本学術会議が
日本の研究健全化の先頭に立たなければならないと考えております。

 〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 家泰弘 〕
 この1ヶ月はフランスとのご縁が多い月でした。6月30日と7月1日に、学術会議講堂に
て、日仏合同シンポジウム「エネルギーの将来のための先端材料科学:エネルギー生産・
貯蔵のための高信頼性・耐久性・安全性の材料に向けて」が開催されました。フランスか
らは、科学アカデミー会員でフランス政府の原子力エネルギーHigh Commissionerを務め
るYves Brechet教授を団長とし、大学および産業界の研究者10数名からなる代表団が来日
しました。2日間のシンポジウムの後、7月2日と3日にそれぞれ筑波と仙台の研究機関を視
察するという日程でした。学術会議のシンポジウムでは、(1)グローバルな問題とエネル
ギー転換、(2)将来の原子力エネルギーのための先進材料、(3)再生可能エネルギーのため
の先進材料、(4)電力貯蔵と給配電のための先進材料、(5)熱エネルギーのための先進材料
:廃熱発電、といったサイエンスのテーマの他、両国のエネルギー政策に関する討論セッ
ションも設けられ、日仏双方からのレベルの高い講演と活発な議論が行われました。個人
的には、原子力関連分野の研究におけるフランスの懐の深さと、材料分野における日本の
先進的な研究成果が特に印象に残りました。今後、具体的な共同研究プロジェクトに発展
していくことが期待されます。
  フランス革命記念日(パリ祭)にあたる7月14日には、在日フランス大使公邸にて祝賀
レセプションが開かれ、政財界や文化界から700人近くの招待者がクリスチャン・マセ大
使ご夫妻をはじめとするフランス大使館の方々と懇談しました。上記の合同シンポジウム
の開催に際して在日フランス大使館の全面的な支援をいただきました(学術会議側にその
種の予算が全く無いためですが)ので、そのお礼を申し上げることができました。

〔 国際活動担当副会長 春日文子 〕
 関係された方も多いと思いますが、日本学術会議は毎年7、8件の国際会議を国内の学術
団体と共同主催しています。今期になって募集及び選考規定を見直し、より幅広い分野か
らの申請に対応できるようにしました。共同主催に選んだ会議については、海外招へい者
の滞在費や会場費の一部を負担するほか、開催に向けていくつかお手伝いをします。皇室
ご臨席のご希望がある場合には宮内庁とともにその準備もします。開会式には、ご臨席会
議の場合には会長が、そうでない会議の場合には国際担当副会長が、主催者挨拶に伺いま
す。先月末から来月にかけて、副会長の担当する国際会議が4つ連続します。それぞれに
特色があり、学術分野の雰囲気の違いを感じることができますが、いずれの会議でも、国
内準備委員会の先生方は開催に向けて長期間にわたり、大変な準備を重ねられています。
実は私も前期最後の2011年9月、国内準備委員会の末席に加わり、ある共同主催国際会議
の運営に携わった経験があります。そのため、主催者の先生方のご苦労がわかることに加
え、その時には知らなかった学術会議の役割について、その後理解するようになりまし
た。開会挨拶は短いものですが、会長も私も、できるだけその会議の歴史や背景、内容を
勉強し、関係する自分の経験も含めるなどして、国内外から集まられたその分野のエキス
パートの皆様の気持ちに、少しでも届くご挨拶となるよう、努力しています。


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 以下、第195回~第196回第幹事会の概要となります。

◎第195回幹事会(平成26年6月27日(金)13:30~20:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 前回の幹事会以降の諸報告事項について確認が行われました。
3 以下の公開審議が行われました。
(1) 科学者委員会における分科会委員(1分科会)を決定しました。
(2) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置1件)及び分科会委員(1分科会)を決定
しました。
○新規設置
・総合工学委員会 エネルギーと科学技術に関する分科会 「大型レーザーによる高エネル
ギー密度科学研究の新展開」に関する小委員会
(3) 提言「科学と社会のよりよい関係に向けて―福島原発災害後の信頼喪失を踏まえて―
」について、第一部福島原発災害後の科学と社会のあり方を問う分科会の島薗委員長、杉
田幹事及び吉川特別委員より説明があり、審議の結果、提言(案)の扱いについて、会長
において第一部及び福島原発災害後の科学と社会のあり方を問う分科会と相談の上、検討
することとなりました。
(4) 報告「社会理論の復興をめざして」について、社会学委員会社会理論分科会の友枝委
員長及び遠藤副委員長より説明があり、審議の結果、報告(案)の扱いについて、会長に
おいて第一部及び社会理論分科会と相談の上、検討することとなりました。
(5) 提言「最近の対外的緊張関係の解消と日本における多文化共生の確立に向けて」につ
いて、地域研究委員会地域研究基盤整備分科会の小松委員長及び酒井委員より説明があ
り、審議の結果、分科会において改めて検討することとなりました。
(6) 提言「人文学的アジア研究の振興に関する提言」について、言語・文学委員会・哲学
委員会・史学委員会・地域研究委員会合同アジア研究・対アジア関係に関する分科会の久
保委員長及び小松副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修文を行い、会長の確認
を得ることを条件に承認しました。
(7) 報告「福島原発事故による放射能汚染と森林、林業、木材関連産業への影響-現状及
び問題点-」について、農学委員会林学分科会の川井委員長及び田中幹事より説明があ
り、審議の結果、所要の修文を行うことを条件に承認しました。
(8) 提言「超高齢社会における運動器の健康-健康寿命延伸に向けて-」について、臨床
医学委員会運動器分科会の中村委員長及び戸山委員より説明があり、審議の結果、所要の
修文を行い、会長及び第二部の確認を得ることを条件に承認しました。
(9) 提言「昆虫分類・多様性研究の飛躍的な拡充と基盤整備の必要性」について、農学委
員会応用昆虫学分科会の嶋田委員長及び多田内委員より説明があり、審議の結果、所要の
修文を行い、会長及び第二部の確認を得ることを条件に承認しました。
(10)提言「健やかな次世代育成に関する提言」について、臨床医学委員会出生・発達分科
会の桃井委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行い、会長及び第二部の確認
を得ることを条件に承認しました。
(11)報告「植物における新育種技術(NPBT : New Plant Breeding Techniques)の現状と
課題」について、農学委員会・食料科学委員会合同遺伝子組換え作物分科会の佐藤委員長
及び西尾副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行い、会長及び第二部の確
認を得ることを条件に承認しました。
(12)報告「わが国における消化器疾患の近未来の動向と対策」について、臨床医学委員会
消化器分科会の幕内委員長及び三輪委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行
い、会長及び第二部の確認を得ることを条件に承認しました。
(13)提言「放射能汚染地における除染の推進について~現実を直視した科学的な除染を~
」について、農学委員会土壌科学分科会の三輪委員長及び森委員より説明があり、審議の
結果、提言(案)の扱いについては、会長において第二部と相談の上、検討することとな
りました。
(14)提言「教育における多文化共生」について、地域研究委員会多文化共生分科会の山本
委員長及び関根副委員長より説明があり、審議の結果、提言(案)の扱いについて、会長
において第一部と相談の上、検討することとなりました。
(15)日本学術会議細則の一部改正について総会の議決を求めることを決定を決定しまし
た。
(16)日本学術会議事務局組織規則の一部を改正する規則について総会の議決を求めること
を決定しました。
(17)日本学術会議協力学術研究団体の指定(5団体)を承認しました。
(18)21件のシンポジウム等の開催、7件の国際会議及び5件の国内会議の後援を決定しまし
た。
4 その他事項として、第167回臨時総会の次第及び今後の幹事会開催日程について確認
が行われました。また、春日副会長から、日本学術会議が推薦を行った第三部の吉野博
会員が、第14回アジア学術会議(14th Science Council of Asia Conference)におい
て、アジア学術会議事務局長に選任されたとの報告がありました。
5 以下の非公開審議が行われました。
(1) 会員候補者の選考について総会の議決を求めることを承認しました。
(2) 東日本大震災復興支援委員会における分科会委員(特任連携会員)を決定しました。
(3) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)及び小委員会委員を決定しまし
た。
  特段の事情を考慮し、社会学委員会社会学分野の参照基準検討分科会に、複数名の特
任連携会員を決定しました。
(社会学部や社会学科のない大学での教育体験がある人材が不可欠であるため。)

 
◎第196回幹事会(平成26年7月11日(金)16:15~18:25)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 前回の幹事会以降の諸報告事項について確認が行われました。
3 以下の公開審議が行われました。
(1) 分野別委員会における小委員会委員(1小委員会)を決定しました。
(2) 報告「科学者コミュニティから見た職務発明制度のあり方と科学者に対する知財教
育の必要性」について、科学者委員会知的財産検討分科会の有信委員長より説明があ
り、審議の結果、承認しました。
(3) 提言「人文社会系学術研究成果の海外発信のためのプロジェクト」について、哲学
委員会芸術と文化環境分科会の外山委員長及び西村委員より説明があり、審議の結果、
分科会において改めて検討することとなりました。
(4) 提言「環境リスクの視点からの原発事故を伴った巨大広域災害発生時の備え」につ
いて、健康・生活科学委員会・環境学委員会合同環境リスク分科会の那須委員長より説
明があり、審議の結果、所要の修正を行い、会長及び第三部の確認を得ることを条件に
承認しました。
(5) 3件のシンポジウム等の開催、3件の国内会議の後援を決定しました。
(6)日本学術会議の活動状況等に関する年次報告(平成25年10月~平成26年9月)の作成
の方針を了承しました。
4 その他事項として、今後の幹事会開催日程について確認が行われました。
5 以下の非公開審議が行われました。
(1) 第23-24期連携会員候補者を決定し、その任命を会長に求めることを決定しました。
(2) フューチャー・アースの推進に関する委員会における委員(特任連携会員)を決定
しました。
(3) 分野別委員会における小委員会委員を決定しました。
(4) 外部委員候補を推薦することを決定しました。



◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇――――――――――――――――――――― 

次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。

○第168回総会(第23期・第1回) 平成26年10月1日(水)~3日(金)