日本学術会議「幹事会だより No.115」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.115
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                            平成27年2月10日発行

                               日本学術会議会長
                                   大西 隆

 今回は1月29日(木)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受
け、12月26日(金)に開催されました第206回幹事会並びにメール審議により開催されま
した第207回幹事会の議事の概要を御報告いたします。


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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
 1月29日の幹事会で、課題別委員会「オープンサイエンスの取組に関する検討委員会」
の設置が決まりました。早速、副会長と各部に、検討委員会委員の推薦をお願いしたとこ
ろです。ご承知のように、このテーマは、公的資金によって行われた科学研究の成果公表
は如何にあるべきかをめぐる極めて重要なものであり、日本での議論は、欧米諸国に遅れ
をとっていると懸念されています。2013年6月にロンドンで行われたG8サミットの前段の
科学技術政策担当大臣と科学アカデミー代表の会合に私も参加しました。その折のテーマ
の4つのうち、2つが、オープンアクセスとオープンデータでした。この会合がきっかけと
なって、英国や欧州でのオープンサイエンスの議論が進展したということなので、世界で
の本格的な議論もそう長い歴史を持つわけではないのです。しかし、いうまでもなく、こ
の問題の背後には、科学研究の成果の公表に関わる商業主義の台頭にどのように対処する
のかというとても厄介な問題があります。研究者は良い研究をして、成果を公表し、Peer
Reviewによって評価を得たいと考えます。評価が高ければ、注目され、受賞の対象になっ
たり、何より研究費が獲得し易くなるので、もちろん研究者にとっては極めて重要です。
高い評価は長年にわたる様々な関連研究の蓄積によって定まるという正統派の議論もあり
ますが、短期的にはif(インパクトファクター)の高い論文誌に掲載されることで評価が高
いとみなされます。そして、いくつかの商業資本が、論文誌や論文webを傘下に収め、掲
載や購読のみならず、評価の寡占化が進んでいると指摘されています。昨年、我が国で大
きな問題になったSTAP細胞問題でも、Nature誌に何故不正論文が掲載されたのかが問われ
ました。しかし、そのことはとことん追求されないままに話が国内の責任問題に限定され
て進み、同じようなことが繰り返されかねない状況です。論文の評価(Peer Review)と
公表をどのように行えば、科学研究が最も発展するのか、商業主義の跋扈によって科学研
究の発展が阻害されないようにするためにはどうすればいいのか、オープンサイエンスの
問題は、実はかなり科学研究にとって根本的な問題を含んでいます。加えて、オープンデ
ータは、研究者にとっては貴重な財産である研究データの公開問題なので、一層深い議論
が必要です。日本での取組みはやや遅れているという嫌いはありますが、日本学術会議の
総力を挙げた取組みによって挽回していきたいと思っています。皆様の積極的な参加を期
待します。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 「科学と社会委員会課題別審議等査読分科会」では、提言等の「意思の表出」(案)の
提出に際して、作成者に内容を最終確認いただき、その後の査読を円滑に行うために、「
チェックシート」(案)を作成いたしました。表題と内容との一致、委員会や分科会設置
趣旨との整合性、論理展開、読みやすさ、データや出典等の掲載状況、引用の適切さ、既
出の提言等との関係など、このシートを構成する11項目は、会長メッセージ「提言等の円
滑な審議のために」(2014年5月30日)(http://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/140530.pdf
)をベースとしており、「はい」と「いいえ」での記入になります(「いいえ」を記入し
た場合、その理由があればお書きいただきます。)。
  先月の幹事会の際、幹事会メンバーにこのシート(案)をご覧いただいたところ、その
目的や項目内容などをめぐり、様々なご意見を頂戴しました。修正を加えて、今後、幹事
会で審議いただき、学術会議からの発信強化の一助としたいと考えております。
  学術会議の発信力をめぐっては、学術会議の今後の展望を検討すべく内閣府の大臣官房
に置かれた「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」でも、その「弱さ」が指摘
されてきました。学術会議が何にどのような重きを置いてきた/いるのか、それはその後
どうなったのか、政策等に反映されたのか――副会長に就任して以来、そんな質問を数多
く受けるようになりました。改革10年目の検証と絡めて、また「学術会議という組織の記
憶と継続性」のためにも、学術会議の「意思の表出」全体を俯瞰的に眺めることが急務と
なっています。各委員会や分科会で議論された中身をわかりやすく「外部」に伝えるため
に、引き続き、具体的な工夫に努めたいと思います。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 本年1月にわが国で開催された国際会議・会合について紹介したいと思います。
  第一は防災・減災に関する国際会議です。
  本年3月に仙台で開催される国連防災世界会議に向けて、学術分野を中心とした議論を
行うために「防災・減災に関する国際研究のための東京会議」が1月14~16日に東京で開
催され、日本学術会議が主催団体の一つを務めました。皇太子殿下の御臨席を賜り、世界
各国から多数の研究者が参加し、最後に東京宣言を採択し、東京行動指針が示されまし
た。
  この防災・減災の分野では多くのステークホルダーの連携の重要性が指摘されており、
またそれぞれの地域、国による問題とその解決方法の多様性も強く認識されました。この
課題が持つ学術分野の広さと学際性は、まさに今日の学術のあり方を示しています。
  国内においては、震災復興を機に、日本学術会議を核とした30の学協会の連絡会が形成
され、防災・減災についての活動を進めています。これは、学会間の連携のあり方を実現
したものといえるでしょう。
  第二はフューチャー・アースプログラム(FE)関連の活動で、関連するさまざまな国際会
合が日本で開かれました。
  2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で提案され、国際科学会議(ICSU)や国際
社会科学評議会(ISSC)などが主導して進めているFEに対して、日本学術会議は積極的に関
与しています。
  アジア・太平洋地域の研究活動のハブとして総合地球環境学研究所(京都)があり、5
ヶ国の連携で運営される国際ネットワーク型事務局の一つを日本学術会議が東京大学サス
テイナビリティ学連携研究機構と共同して担っています。FEの特徴は、学術全領域にわた
る学際性に加えて、社会のさまざまなステークホルダーと共に研究を計画し、実行し、ま
たその成果を活用するという超学性にあります。”Earth”なので「地球」の研究をして
いる研究者だけが関係する、と考えるのはまったく違います。人間活動、生態系、物理的
事象を対象に、過去-現在-未来にまたがり、ミクロからマクロまで広がりを持つプログ
ラムです。
  第一部から第三部まで、学術の全領域の科学者がそろっている日本学術会議は、この防
災・減災とFEの研究を発展させて行く条件を満たしています。各会員・連携会員のご専門
分野と、必ずやつながりがあると思います。皆様には、是非関心を持っていただきたいと
思います。



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 以下、第206回~第207回幹事会の概要となります。

◎第206回幹事会(平成26年12月26日(金)13:30~17:20)
1 前回議事要旨の確認を行いました。
2 以下の公開審議を行いました。
(1) 科学者委員会・科学と社会委員会合同広報・科学力増進分科会委員を決定しました。
(2) 科学と社会委員会における分科会委員(1分科会)を決定しました。
(3) 分野別委員会分科会の名称変更等に伴う国際委員会運営要綱の一部改正(委員会名、
調査審議事項及び備考欄の変更1件、備考欄の変更7件、廃止2件)を決定しました。
○委員会名、調査審議事項及び備考欄の変更
・国際委員会 IUHPST分科会
○備考欄の変更
・国際委員会 SCOR分科会
・国際委員会 IMA分科会
・国際委員会 COSPAR分科会
・国際委員会 SCAR分科会
・国際委員会 IASC分科会
・国際委員会 IHDP分科会
・国際委員会 STPP分科会
○廃止
・国際委員会 IUOAS分科会
・国際委員会 IALS分科会
(4) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置7件、委員構成の変更4件、所属委員会の
追加及び主たる委員会の変更1件、調査審議事項の変更2件、廃止1件)及び委員会等委員
(2委員会、52分科会、18小委員会)を決定しました。
〇新規設置
・情報学委員会 国際サイエンスデータ分科会 データ拠点小委員会
・情報学委員会 ソフトウェア工学分科会
・総合工学委員会・機械工学委員会合同 計算科学シミュレーションと工学設計分科会 計
算音響学小委員会
・総合工学委員会 原子力事故対応分科会 福島第一原発事故調査に関する小委員会
・材料工学委員会 新材料科学検討分科会
・材料工学委員会 バイオマテリアル分科会
・材料工学委員会 材料工学ロードマップのローリング分科会
〇委員構成の変更
・社会学委員会 メディア・文化研究分科会
・史学委員会 歴史学とジェンダーに関する分科会
・地球惑星科学委員会 地球惑星科学人材育成分科会
・地球惑星科学委員会 地球惑星科学国際連携分科会 STPP(太陽地球系物理学国際共同計
画)小委員会
〇所属委員会の追加及び主たる委員会の変更
・基礎医学委員会・総合工学委員会・機械工学委員会・電気電子工学委員会合同 生体医
工学分科会
〇調査審議事項の変更
・総合工学委員会 原子力事故対応分科会 原発事故による環境汚染調査に関する検討小委
員会
・電気電子工学委員会 URSI分科会 電離圏電波伝搬小委員会
○廃止
・法学委員会 「政治的表現と開かれた社会の基礎的法制度」分科会
(5) 若手アカデミー構成員を決定しました。
(6) 平成26年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することを決定しました。
(7) 平成26年度代表派遣について、派遣会議の追加並びに派遣者を決定しました。
(8) 「会長補佐及び会長アドバイザーの指名等について」の一部改正を決定しました。
(9) 「部、課題別委員会及び幹事会の附置委員会による勧告・要望・声明・提言・報告の
作成手続きに関するガイドライン」等の一部改正を決定した。
(10)7件のシンポジウム等の開催、1件の国際会議及び3件の国内会議の後援を決定しまし
た。
3 その他事項として、今後の幹事会の開催日程について確認を行いました。
4 以下の非公開審議を行いました。
(1) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(12分科会)及び小委員会委員(
22小委員会)を決定しました。
特段の事情を考慮し、以下の分科会に、複数名の特任連携会員を任命しました。
・哲学委員会 哲学・倫理・宗教教育分科会
・社会学委員会 社会福祉学分野の参照基準検討分科会
・食料科学委員会 水産学分科会
・地球惑星科学委員会 IUGG分科会
・情報学委員会 国際サイエンスデータ分科会
・情報学委員会 情報科学技術教育分科会
(2) 若手アカデミー構成員(特任連携会員)を決定しました。
(3) 平成26年度追加の代表派遣の会議派遣者に関連し、国際業務に参画するための特任連
携会員の任命を決定しました。
(4) 2015年ボルボ環境賞受賞候補者を推薦することを決定しました。
(5) 会長アドバイザーの指名に同意することを決定しました。
5 その他事項として、大西会長から独立行政法人日本学術振興会評議員候補者及び国立
感染症研究所村山庁舎施設運営協議会委員候補者の推薦について報告がありました。


◎第207回幹事会(平成27年1月26日(月))
(会則第26条による幹事会における議決方法の特例により、メール審議を行いました)

公開審議事項
1 後援
提案1 国際会議の後援をすること

提案1について原案のとおり承認しました。



◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇――――――――――――――――――――― 

次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。

  「第169回総会」 平成27年4月9日(木)~4月11日(土)
  「第170回総会」 平成27年10月1日(木)~10月3日(土)
  「第171回総会」 平成28年4月7日(木)~4月9日(土)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――◆◇

日本学術会議HP
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