日本学術会議「幹事会だより No.119」について
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幹 事 会 だ よ り No.119
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平成27年6月3日発行
日本学術会議会長
大西 隆
今回は5月22日(金)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受
け、4月24日(金)に開催されました第212回幹事会の議事の概要を御報告いたします。
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会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
5月の半ばに、カンボジアのシェムリアップで第15回アジア学術会議(SCA)国際シンポジ
ウムが開催され、花木啓祐副会長をはじめ、多くの日本からの参加者とともに、私も3日
間にわたって出席しました。全体のタイトルは「文化のための科学技術」とされ、その下
に、(1)文化遺産の保全と防災、(2)気候変動期における食品・健康・環境保全、さらに、
(3)持続可能な開発とエネルギー利用という3テーマが設けられ、研究成果の発表と討論が
行われました。この会議が各国研究者の国際的な研究発表の場になっていることと、折角
各国のアカデミー代表や指導的な科学者が集まるので、国際的な重要テーマについて時間
をかけて議論したいという、やや異なる方向の要請をうまく結びつけて、メーンタイトル
の下で、集約的な議論が行われ、大きな成功を収めたと思います。
ご存知のように、シェムリアップは、世界遺産となっているアンコールワットをはじめ
とするクメール王朝時代のアンコール遺跡の地であり、データでは400万人ほどの外国人
観光客が訪れるとのことです。3日目に行われた現地視察でも体験したのですが、現在は
遺跡群のかなりの場所に立ち入って、遺跡に触れることが許されています。そのことが観
光の魅力を高めているのは事実ですが、多数の人があまりにも身近に遺跡に接するので、
長く維持することができるのかと心配になるほどです。カンボジアの研究者や、ここをフ
ィールドとしている日本人を含む外国人研究者の間でもこの点は議論されており、今回の
発表や討論においても、アンコール遺跡の持続的な管理、あるいは長期の視点に立った観
光資源としての適切な在り方というテーマが取り上げられました。しかも、その切り口
は、この地の形成や水の流れなどに関わる地質学的な観点から、観光産業における地元の
人々の係わり方に至るまで幅広いもので、この会議の成果が生かされることに期待がかか
ります。
アジア学術会議は、その設立から今日に至るまで、日本学術会議が積極的に関わってき
ており、吉野博会員が事務局長・財務担当として日本学術会議の事務局とともに運営の中
心になっています。また、カンボジアでの受け入れ態勢づくりのために、カンボジア工学
院(ITC)のOm Romny院長がSCA副会長として指揮をとってくれました。この場を借りて感謝
とお礼を申し上げます。
SCAでは、2年ごとに開催される総会開催地の科学アカデミー代表が会長を務めることに
なっており、現在は来年の開催地であるスリランカのVijaya Kumar先生(スリランカ科学
アカデミー会長)が会長です。加盟国アカデミーも18国・地域、31団体になりました。研
究発表とメーンテーマの緩やかな統合という今年の成果を踏まえて、来年の大会がさらに
意義あるものとなるよう期待しています。
〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
5月の幹事会後に開催された懇談会の場では、私から「科学と社会委員会」での議論を
2つ紹介し、方向性において賛同を得ました。一つは現在運用中の「提言等の提出チェッ
クシート」(http://www.scj.go.jp/ja/scj/kisoku/119.pdf)の一部改訂、もう一つは提
言等の記者発表用の資料に関する提案です。提言等、学術会議からの意思の表出がその後
どうなったかが見えづらい、フォローアップがうまくできていないという声をよく耳にし
ます。その改善のために、提言等の作成者にさほど負担を強いずにできることは何か--
この2つはこの観点からの提案です。
具体的には、まずは、「運用しながらバージョンアップ」を試行錯誤中のチェックシー
トについてです。現行では、「3.論理展開2」の項目に、「提言については、『誰』に
対して『何』をするべきか、提言対象が明確で具体的である」という問いがあり、「はい
・いいえ・提言ではない」のいずれかにチェックを入れることになっています。それをよ
り踏み込んで、「提言(あるいはそれ以上)については、政策等への実現にあたり、具体
的な行政等の担当部局を想定していますか(例:文部科学省研究振興局等)」として、担
当部局名の記入をお願いしようと考えています(「特になし」という選択肢も設ける予定
です。)。作成者側に政策等への反映をより強く意識してもらうとともに、学術会議の提
言等が、同じ課題を扱う政府関係審議会等の机上に参照資料として置かれ、広く読んでも
らえればと思うのです。そのために、過去に学術会議から出された「関連する提言等」も
示したいと考えております。
もう一つは、記者発表用の資料として「提言等のタイトル・要旨・キーワード」を「日
本文・英文併記でA4一枚にまとめる」という提案です。短い英文要約を加えることで、外
国プレスの注目を集めるとともに、英文を考える過程で日本語表現をより論理的に見直す
ことにもなると考えます。その背景には、懇談会の場で、事務局から、フォーリン・プレ
スセンター(FPCJ)での記者発表の場の設定、外務省を通じて在外公館へ情報提供を行う
という新たな公表ルートを開拓したとの説明があったことがあります。
この「A4一枚もの」は、あくまで、学術会議の提言等の存在をメディアに知ってもらう
「入口」です。よって、日本文・英文ともに、提言等の問題意識や中身を的確かつ簡潔に
伝えるものであれば十分です。とはいえ、プレスの記事のような「的確かつ簡潔に」は、
とても難しいことです。また、書式について、現行の「日本学術会議の意思の表出におけ
る取扱要領」(http://www.scj.go.jp/ja/scj/kisoku/30.pdf)で定められた様式との整
合性がまだ詰められていません。幹事会では、「英文についてはブラッシュアップをして
ほしい」との声も上がりました。その人材、経費をどうするか--もう少し練ってみま
す。
各分科会の提言等の意思の表出が殺到する前の、まだ少しゆとりのある今のうちに、中
身を政府や社会、国民に広く届ける「器」をさまざまに整え、学術会議のプレゼンスを高
める一助としたいと思います。
〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
幹事会だよりNo.116(平成27年3月10日発行)で途中経過を報告させていただいたG7学術
会議の共同声明文が完成しました。それぞれの提案を簡単にまとめると以下のようになっ
ています。
「感染症と抗菌剤耐性:その脅威と対策」
(1) 新しい抗菌剤、ワクチン、診断法の研究開発と生産の促進
(2) 主要疾患に関する情報不足を解消するための研究の優先
(3) 地球規模でのサーベイランス(監視)・プログラムの設定
(4) 社会認識の啓発
(5) 大流行発生への迅速な組織的対応
「顧みられない熱帯病(NTD)」
(1) これらの病気に苦しんでいる国々に対し、対応能力を構築強化できるようさらに支援
する
(2) NTD研究の強化
(3) 低価格でアクセスしやすい治療法の開発と提供
(4) 持続可能な開発目標(SDG)にNTD を重要事項として盛り込む
「海洋の未来:人間の活動が海洋システムに及ぼす影響」
(1) CO2 排出量を国家レベルで抑制する
(2) 人為的な海洋汚染を削減し、規制を強化する
(3) 水産物の乱獲を防止し、科学的調査に基づいた管理によって海洋の生物多様性と生態
系の機能を維持する
(4) 国際的な科学協力を推進し、海洋の変化及び人間社会と環境への影響を予測・管理・
緩和する
なお、声明の詳細は日本学術会議HP内(http://www.scj.go.jp/ja/int/g8/index.html)
に掲載されています。
例年この声明は、参加した各国で同時に首脳に伝えることになっています。今年はゴー
ルデンウィークのために少し時間差が生じ、主催国のドイツでは4月29日にメルケル首相
に、日本では5月7日に安倍総理に手交されました。ドイツでは、その手交の機会にシンポ
ジウムを開催し、この3つのテーマについて討議が行われ、私も参加してきました。
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以下、第212回幹事会の概要となります。
◎第212回幹事会(平成27年4月24日(金)13:30-16:45)
1 冒頭、事務局の人事異動(事務局次長)に伴う挨拶が行われました。
2 前回議事要旨の確認が行われました。
3 以下の公開審議が行われました。
(1) 東日本大震災に係る学術調査検討委員会における委員(1委員会)を決定しました。
(2) フューチャー・アースの推進に関する委員会における分科会委員(1分科会)を決定
しました。
(3) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置2件、委員構成の変更1件)及び分科会等
委員(9分科会、4小委員会)を決定しました。
〇新規設置
・物理学委員会 物理学分野の参照基準検討分科会
・総合工学委員会・機械工学委員会合同 フロンティア人工物分科会 フロンティア人工物
ビジョン小委員会
〇委員構成の変更
・総合工学委員会・機械工学委員会合同 計算科学シミュレーションと工学設計分科会 計
算音響学小委員会
(4) 提言「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定
保管」について、高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会の今田
委員長及び柴田幹事より説明があり、審議の結果、承認しました。
(5) 提言「未来を見すえた高校公民科倫理教育の創生-考える「倫理」-の実現に向けて
-」について、哲学委員会哲学・倫理・宗教教育分科会の氣多委員長及び直江委員より説
明があり、審議の結果、分科会において改めて検討することとなりました。
(6) 提言「東京都受動喫煙防止条例の制定を求める緊急提言」について、健康・生活科学
委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会の矢野委員長及び望月幹事より説明が
あり、審議の結果、所要の修正を行い、幹事会議長(会長)及び第二部の確認を得ること
を条件に承認しました。
(7) 平成27年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することを決定しました。
(8) 第15回アジア学術会議(15th Science Council of Asia Conference)への外国人の
招聘者を追加することを決定しました。
(9) 日本学術会議協力学術研究団体の指定(2団体)を承認しました。
(10)4件のシンポジウム等の開催を決定しました。
4 その他事項として、科学者委員会・科学と社会委員会合同広報・科学力増進分科会の
小松委員長から、日本学術会議が編集協力を行っている「学術の動向」について報告があ
り、意見交換を行いました。また、今後の総会及び幹事会の開催日程予定について検討を
行いました。
5 以下の非公開審議が行われました。
(1) フューチャー・アースの推進に関する委員会における分科会委員(特任連携会員)を
決定しました。
(2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(8分科会)及び小委員会委員(
4小委員会)を決定しました。
特段の事情を考慮し、以下の分科会に、複数名の特任連携会員が任命されました。
・基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同 ワイルドライフサイエンス分科会
・基礎医学委員会・臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同 医学分野の参照基準検
討分科会
・総合工学委員会・機械工学委員会合同 工学システムに関する安全・安心・リスク検討
分科会
(3) 日本学術会議連携会員の辞職を承認することに同意しました。
◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇
次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。
「第170回総会」 平成27年10月1日(木)-10月3日(土)
「第171回総会」 平成28年4月14日(木)-4月16日(土)
「第172回総会」 平成28年10月6日(木)-10月8日(土)
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