日本学術会議「幹事会だより No.120」について
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幹 事 会 だ よ り No.120
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平成27年7月1日発行
日本学術会議会長
大西 隆
今回は6月19日(金)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受
け、5月22日(金)に開催されました第213回幹事会の議事の概要を御報告いたします。
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会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
日本学術会議の第23期の活動もかなり軌道に乗ってきた感じがします。近年では、分野
横断型のテーマを、課題別委員会や幹事会附置委員会の場で、第一部から第三部まで、全
ての部や関連した専門分野の会員・連携会員が審議するケースが増えてきており、全学術
分野を包含している日本学術会議の特徴を生かしていると評価されています。今期は、特
に科学技術政策、大学のあり方、研究資金のあり方等、学術研究の政策や制度論に関わる
議論が活発に展開されています。これらの成果がやがて提言や報告として発出されること
を期待したいと思います。
さて、今期も既に公表されているものの中に、大学教育の分野別質保証委員会がリード
する各分野における「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」に関
する報告があります。日本学術会議では 2010年8月に文部科学省の高等教育局長からの
審議依頼に回答して以降、自主的に各分野ごとの参照基準を報告することで、分野ごとの
大学教育の標準的な質を確保することを目指してきました。今年6月には、電気電子工学
分野で審議してきたものが案としてまとまったので、幹事会と同日に開催した「大学教育
の分野別質保証委員会」で審議しました。所要の修正を施して程なく公表されることにな
ると思います。実はこの報告書がちょうど20本目になります。第22期中に18本の報告がま
とまりました。今期に入って、つい先日、社会福祉学の報告が公表され、それに続くのが
電気電子工学というわけです。内容を読んでみると、まさに各分野で学ぶべき内容が基礎
から応用にわたって体系的に整理されており、それぞれの専門学部や学科にとって参考に
なるだけではなく、通読することで、現代の大学教育の全体像が分かるものとなってい
ます。
現在審議を継続している分科会が10程度あり、これらの報告がまとまれば、当初予定し
ていた分野がほぼカバーされ、とりもなおさず日本の大学の相当程度の教育分野について
日本学術会議が教育内容の基本的な部分を示すことになります。もちろん、これらの報告
をどう使うのかは、各大学学部・学科の自主的な判断です。日本学術会議としては、有効
に活用されて、日本の大学教育が国際的にも体系的に理解し易いものとなって、学ぶ者に
とって期待と実際が合致し、事前の十分な心構えによる学習意欲や成果の向上に役立つこ
とを願っています。
〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
6月幹事会散会後の懇談会では、緊急案件として、第3期中期目標・中期計画の作成に
関連して出された文部科学大臣からの通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直し
について」(平成27年6月8日付27文科高第269号)をめぐって、意見交換を行いました。
特に問題視されたのは、同通知にある以下の一節です。
「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減
少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画
を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めるこ
ととする。」(上記通知、別添1別紙1、3頁)
これについて、議論の口火を切った小森田秋夫・第一部部長は、以下3つの論点を明確
に示されました。
(1)この通知とそれに対する各大学の対応がどのような結果をもたらすかは、人文・社会
科学系の学問のゆくえのみならず、国公立・私立を含めた「大学という組織」自体のあり
方に関わる重大問題である。
(2)人文・社会科学系の学協会に与える影響についても無視できないものがある。
(3)個別対応を迫られる各大学を超えて、この問題を考える場が必要であり、その役割を
学術会議が果たすべきである。
第一部では、同通知の発令から時を置かず、役員会でこの問題への対応を検討し、まず
はメールを通じて、会員・連携会員に関連情報の提供や意見提出を呼びかけました。短期
間に実に多くの返信があり、その一つひとつから、この問題への関心の高さと深刻さが感
じられました。第一部部長の上記発言は、文字通り、それら会員・連携会員の思いを代弁
したものといえます。
これを受けた幹事会メンバーの意見交換では、第一部部長が提示した上記の論点を重く
みる発言が、第二部、第三部、そして会長から、相次いで出されました。学術会議は、人
文・社会科学、生命科学、理学・工学等、あらゆる学術分野の専門家によって構成され
る、文字通り「日本の科学者コミュニティの代表機関」であることを改めて実感した次第
です。
同通知の内容については、すでに昨年秋から取り沙汰されており、また、佐和隆光・滋
賀大学長が指摘される(『日本経済新聞』2015年6月22日朝刊)ように、全く同じことが
半世紀前、1960年代の日本でも試みられようとしました。それが実現しなかった理由につ
いて、佐和先生の「日本は民主主義国家だから」という説明は、実に明快です。
私自身は、以下のような発言をしました。
(1)同通知の一節は、国立大学のみならず、日本の学術体制の根幹に大きな変革を求める
ものであり、(各大学の対応とは無関係に)この観点から、学術会議はメッセージを発す
るべきである。
(2)日本を含めて、現代世界が直面している問題は、一つの専門知で解決できるものでは
なく、総合知こそが求められており、その意味でも、分野横断的、領域融合的な視点―
―文系には理系の目が、理系には文系の目が――が必要である。
(3)その一方で、昨今の人文・社会科学が、国民や社会に対する発信力を低下させている
ことも事実であり、学術会議発のメッセージや提言は、その反省に立った人文・社会科学
の活性化を含めて、学術の未来全体を展望する内容でなければならない。
幹事会メンバー間の議論の結果、まずは幹事会として緊急メッセージを発信し、それと
並行して、「学術振興の観点から国立大学の教育研究と国による支援のあり方を考える検
討委員会」といった既存の委員会や、6月幹事会で設置が決定した「学術研究推進のため
の研究資金制度のあり方に関する検討委員会」や、「第一部人文・社会科学の役割とその
振興に関する分科会」で具体的な議論を行い、できるだけ早く提言にまとめるという2段
階で、この件に対処することになりました。会員・連携会員の皆様、部を超えた、専門分
野を超えた意見交換を、引き続きよろしくお願いいたします。
悩んだ時には原点に戻るべし――「日本学術会議憲章」第2項にはこう書かれていま
す。
「日本学術会議は、任務の遂行にあたり、人文・社会科学と自然科学の全分野を包摂する
組織構造を活性化して、普遍的な観点と俯瞰的かつ複眼的な視野の重要性を深く認識して
行動する。」
〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
フューチャー・アースプログラム(FE)の運営に関する一連の会議が、去る6月の初めに
ウィーン近郊のIIASA(国際応用システム分析研究所)で開かれました。FEは、従来から
進められてきた地球に関する人文・社会科学、自然科学の研究を統合し、更に様々なステ
ークホルダーと協働していくところに特徴があります。暫定的な移行組織を経て、2015年
5月から新たな組織で本格スタートしました。
運営面では、科学的な内容を議論する科学委員会(Science Committee, SC)、ステーク
ホルダーの関与を促進する関与委員会(Engagement Committee, EC)、これらを統括する評
議会(Governing Council, GC)が設置されています。FEの活動を支える事務局は日本、ア
メリカ、カナダ、スウェーデン、フランスの5ヶ国から構成され、「24時間、誰かが起き
ている」緊密なネットワークにより運営されています。この日本の事務局は、研究機関、
大学等で構成される日本コンソーシアムが担っており、具体的な所在地は東京大学サステ
イナビリティ学連携研究機構に置かれ、日本コンソーシアムの代表として日本学術会議が
リードする形で運営されており、春日文子連携会員が、「グローバル・ハブダイレクター
(日本)」として本年5月半ばより日本事務局の代表を務めています。また、アジア、中
近東/北アフリカ、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカに地域事務局が置かれ、京都の総合
地球環境学研究所がアジアの事務局を務めています。
6月1日の国際シンポジウム・公開講演に引き続き、6月2~4日にSCとECの合同会合が、
そして、6月4~5日にGC会合が開かれました。日本からは、SC委員の安成哲三氏、EC委員
の長谷川雅世氏、GC構成機関であるSTSフォーラムを代表して尾身幸次氏、ベルモントフ
ォーラムを代表してJSTの大竹暁氏が参加しました。日本事務局としては、春日文子氏、
福士謙介氏と東大及び日本学術会議のスタッフが、日本コンソーシアムを代表して花木が
参加しました。
立ち上がり段階にあるFEでは、従来のIGBP、IHDP、DEVERSITASの各国際プログラムがFE
に統合されるため、そこで行われてきたプロジェクトを引き続き推進しつつ、新たな活動
を進めようとしています。FEの2025 Visionで打ち出した8つの挑戦に対応する形でKAN (
Knowledge-Action Network)を形成していく、という構想も示されました。
FEの最大の特徴はプログラムの進め方で、ステークホルダーの関与を得ながら、
Co-design(協働企画)、Co-production(協働生産)、Co-delivery(協働普及)を行
う、という基本方針で進められています。今回の一連の会議は、新体制としての最初の会
議で、協働の進め方を実践する最初の本格的機会でもありました。従来の、トップダウン
あるいは各分野が独立した物事の進め方に比べると非常に複雑で、時間がかかります。今
回の一連の会議によって、なかなか運営は容易ではなく、改善を要する面も見えてきまし
たが、意見交換を行いながら、仕組み自身を考え、変えていくという、FEの本質的な活動
がスタートした証だと考えられるでしょう。
なお、これらの会合の次回は、本年11月に日本で開催する予定となっております。
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以下、第213回幹事会の概要となります。
◎第213回幹事会(平成27年5月22日(金)14:00~16:05)
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 東日本大震災復興支援委員会分科会における小委員会委員(1小委員会)を決定しま
した。
(2) 科学と社会委員会運営要綱の一部改正(廃止1件)を決定しました。
○廃止
・科学と社会委員会 政府、社会及び国民等との連携強化分科会
(3) 国際委員会運営要綱の一部改正(新規設置1件)及び小分科会委員(1小分科会)を決
定しました。
○新規設置
・国際委員会 Gサイエンス及びICSU等分科会 Gサイエンス学術会議(2016)対応小分科会
(4) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置2件、名称の変更2件)及び委員会等委員
(2委員会、14分科会、3小委員会)を決定しました。
〇新規設置
・法学委員会 法学分野における国際交流のあり方を考える分科会
・経営学委員会 経営学分野における研究業績の評価方法を検討する分科会
〇名称の変更
・基礎生物学委員会・統合生物学委員会合同 進化学分科会
・情報学委員会 ITメディア社会基盤・メディアアーカイブ分科会
(5) 高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会設置要綱の一部を改
正し、同委員会の設置期限を延長することを決定しました。
(6) 東日本大震災復興支援委員会汚染水問題対応検討分科会が現地調査を実施することを
承認しました。
(7) 提言「未来を見すえた高校公民科倫理教育の創生-<考える「倫理」>の実現に向けて
-」について、第一部の小森田部長より、第212回幹事会での議論を踏まえた、その後の
調整結果の説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(8) STSフォーラム ASEAN-Japan Workshopに連携会員を派遣することを決定しました。
(9) 国際連合総会における非政府組織等のヒアリングに連携会員を派遣することを決定し
ました。
(10)フューチャー・アース統治審議会、連携委員会、科学委員会合同会合に会員等を派遣
することを決定しました。
(11)平成27年度代表派遣について、実施計画に基づく7-9月期の会議派遣者を決定しまし
た。
(12)日本学術会議協力学術研究団体の指定(1団体)を承認しました。
(13)11件のシンポジウム等の開催、1件の国際会議及び3件の国内会議の後援を決定しまし
た。
3 その他事項として、科学者委員会・科学と社会委員会合同広報・科学力増進分科会の
小松委員長から、「サイエンスアゴラ2015(10年記念年次総会)」の公募企画募集について
情報提供があり、その後、学術会議の対応について意見交換を行いました。また、今後の
幹事会の開催日程について確認を行いました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(4分科会)及び小委員会委員(
8小委員会)を決定しました。
特段の事情を考慮し、臨床医学委員会出生・発達分科会に、複数名の特任連携会員が任
命されました。
(2) 高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会における委員会委員
の任期を延長することを決定しました。
(3) 平成27年度代表派遣7-9月期の会議派遣者に関連し、国際業務に参画するための特任
連携会員を任命することを決定しました。
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日本学術会議事務局からのお知らせ:「なりすましメール」にご注意ください。
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に発信されるという事例が発生しています。
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ール」を受信された場合は、ウイルス感染や不正アクセスなどの危険がありますので、添
付ファイルの開封やメール本文中のURLのクリックを行わず、メールごと削除していた
だくようお願いいたします。
◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇―――――――――――――――――――――
次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。
「第170回総会」 平成27年10月1日(木)~10月3日(土)
「第171回総会」 平成28年4月14日(木)~4月16日(土)
「第172回総会」 平成28年10月6日(木)~10月8日(土)
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