日本学術会議「幹事会だより No.129」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.129
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                                平成28年4月11日発行
                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

 今回は3月24日(木)に開催されました幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受
け、2月26日(金)に開催されました第225回幹事会の議事の概要を御報告いたします。


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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
 2月と3月の幹事会で、日本学術会議が日本での議論をリードしてきた2つの分野の提
言がまとまりました。2月にまとまった「防災・減災に関する国際研究の推進と災害リ
スクの軽減-仙台防災枠組・東京宣言の具体化に向けた提言」(国際委員会防災・減
災に関する国際研究のための東京会議分科会、土木工学・建築学委員会IRDR分科会)
は、昨年3月に仙台で行われた第3回国連防災世界会議で採択された仙台枠組み(SFDRR)
、あるいはその前段の会議として開催された日本学術会議等が主催した東京会議(防災
・減災に関する国際研究のための東京会議)で取りまとめられた東京宣言の中で述べら
れた科学技術の成果を防災・減災対策に活用することの重要さを踏まえて、これから何
をしていくべきかを提言したものです。特に、各国が、災害に関する基礎的情報の収
集、災害対策の効果分析、そして国際的な連携に取り組む体制を整えることを強調し
ています。こうした現場での取り組みを重視しつつ、国際的な支援体制や科学者のネ
ットワークを重視するアプローチは、防災・減災分野において日本が積極的に提案し
てきているもので、災害体験国や災害の危険がある国の支持を得て、取り組みが広が
っているものです。
 3月には、「持続可能な地球社会の実現をめざして―Future Earth(フューチャー・
アース)の推進―」(フューチャー・アースの推進に関する委員会)がまとまりまし
た。FEは4年ほど前から日本学術会議が積極的に取り組んでいる地球環境問題に関する
研究・社会連携活動です。ICSUや国連組織がリードしているもので、日本学術会議も
国際事務局やアジア拠点の設置を進め、現在、東京大学や総合地球環境研究所(京都)
とともに、これらを担っています。提言をまとめた委員会は、日本におけるFEの科学
委員会という役割を果たしています。提言では、 学際・超学際研究を推進し、国際的
リーダーシップを担うことが必要という認識の下で、(1)長期的視野に立った地球環境
の持続性を支える技術・制度の策定、(2)持続可能なアジアの都市および生活圏の構
築、(3)エネルギー・水・食料連環(ネクサス)問題の同時的解決、(4)生態系サービ
ス(脚注)の保全と人類の生存基盤の確保、(5)多発・集中する自然災害への対応と減災
社会を見据えた世界ビジョンの策定を進めるとしています。
 それぞれの提言は、日本学術会議のHPで見ることができます。ぜひご一読ください。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 昨年秋頃からでしょうか、防衛省の安全保障技術研究推進制度に対する学術会議の対
応が、研究者や大学関係者の間で注目されるようになっております。学術会議は、「戦
争を目的とする科学研究を行わない声明」(1950年)、及び「軍事目的のための科学研究
を行わない声明」(1967年)を原則としていますが、この半世紀ほどの間、軍事研究をめ
ぐる提言等、意思の表出を行ってはいません。その一方で、この半世紀の間に、国際情
勢の基軸も覇権のありようも、国防をめぐる考え方も大幅に変化し、またそれ以上に、
科学研究の場、とりわけ大学を取り巻く研究環境は劇変しました。基礎研究に関する研
究費の確保が難しくなったことは、諦め半分ながら、大学人の間で「常識」とも化して
おります。外部資金頼みの現状を考え合わせれば、防衛省の安全保障技術研究推進制度
だって、産官学共同に「軍」が付け加わっただけ・・・との見方ができるかもしれませ
んが、過去と未来をつき合わせて考えれば考えるほど、「軍学共同」と「産学共同」と
を同等に捉えることはできません。学術研究サイドからすれば、防衛省を含み、どの省
庁の募集であろうと、研究助成申請の窓口を「文部科学省」に一本化してくれれば・・
・という気持ちもあるのですが、3月の幹事会前に設定された文部科学省関係者との意
見交換からは、それもまた不可能なように感じております。
 それゆえに(でしょう)、文部科学省との意見交換の後、アメリカの歴史と外交の専
門家である西崎文子氏(第一部会員、東京大学教授)の話は、非常に興味深いものでし
た。「防衛省研究制度とアカデミアについて―米国の例から考える」と題した同氏の報
告によれば、「日米同盟」、「日米安全保障」という(我が国で)人口に膾炙した言葉
とは裏腹に、こと大学における軍事研究については、その成立もその後の展開について
も、アメリカは日本のモデルにはならないとのこと。西崎氏自身、予想外だったという
この分析結果は、「科学の両義性(デュアル・ユース)」という概念についても、防衛省
と科学研究に従事する者たち(もちろん、人文・社会科学研究者を含む)との間に存在
する、ある種の齟齬を言い当てているのかもしれません。
 科学技術はその開発者の意図とはまったく違う場所、違う形で「横領(appropriate)」
され得ることを、歴史は教えてくれます。それを自覚すること、意識することこそが、
「研究の自由」を守るための「研究者の責任」でもあると考えます。幅広い専門分野を
網羅する学術会議で多角的、多面的、多層的に意見交換を重ね、暴力的な昨今の世界で
参照される「何か」を発出できればと願いながら、4月総会に臨みたいと思います。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 去る2月末から3月のはじめにかけて、IAP関連の執行委員会、2日間のシンポジウム、
及び総会が開かれました。日本学術会議からは、大西会長、私、および鈴木参事官が参
加しました。IAPは組織改編中で呼称がややこしいのですが、今回は、アンブレラ組織
である新生IAP(InterAcademy Partnership)としての会議の前後に、傘下となる旧IAP
(今後はIAP for Scienceの名前の元で活動を続ける)の執行委員会と総会が開かれま
した。
 今回はこれらの会議が南アフリカ科学アカデミーをホスト役として開かれました。
アフリカ諸国のアカデミーの参加も多数見られました。これらのアカデミーの方々の意
見を聞く機会は決して多くないのですが、今回は公の場でも、またレセプションなどの
場で非公式にも、話を聞くことができました。まだアカデミーが作られていない国もあ
りますが、アフリカは伸びてきていることを感じました。
 今回の2日間にわたるシンポジウム-IAP Conference on Science Advice-では社会
と科学の関係が取り上げられ、とりわけ科学はどのように何をアドバイスするか、とい
う点が議論になりました。このテーマは他のアカデミーの会議などでもしばしば取り上
げられていますし、日本学術会議でも日々課題として考慮しているところです。このテ
ーマは、今後も科学界の課題として議論されて行くと思います。
 ところで日本学術会議は旧IAPの執行委員を務めており、今回は3年に一度の改選の選
挙が総会で行われました。この執行委員は組織としてアカデミーが務めるもので、先進
国5組織、開発途上国6組織が務めます。2期まで続けて務めることができます。選挙は
1アカデミーが1票の権利を持って行われました。先進国からは、日本学術会議、カナダ
(以上再任)、オーストラリア、韓国KAST、イギリスが、開発途上国からはブラジル 、
キューバ、南アフリカ(以上再任)、チリ、イラン、アフリカ科学アカデミーが選出され
ました。
 また、旧IAPは先進国と開発途上国の2名が共同議長を務めることになっており、3年
毎にどちらかが交代するという形になっています。今回選挙が行われ、ドイツのVolker
ter Meulen氏が再任、インドのKrishan Lal氏が新たに選出されました。
 日本学術会議としてはこれらのアカデミー間の活動に対して貢献し、また国内の活動に
反映していきたいと考えております。


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 以下、第225回幹事会の概要となります。

◎第225回幹事会(平成28年2月26日(金)14:10~17:20)
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 科学と社会委員会における分科会委員(1分科会)を決定しました。
(2) 国際委員会運営要綱の一部改正(名称及び審議事項の変更1件)を決定しました。
〇名称及び審議事項の変更
・国際委員会 アジア学術会議等分科会
(3) 第三部「科学技術の光と影を生活者との対話から明らかにする」分科会の委員の構成
を修正することを決定しました。また、事務局より、第223回幹事会(平成27年12月18日
開催)の資料(科学と社会委員会科学力増進分科会高校理科教育検討小委員会の設置期間
)の訂正について報告がありました。
(4) 分野別委員会における分科会委員(3分科会)を決定しました。
(5) 提言「防災・減災に関する国際研究の推進と災害リスクの軽減―仙台防災枠組・東京
宣言の具体化に向けた提言―」について、国際委員会防災・減災に関する国際研究のため
の東京会議分科会及び土木工学・建築学委員会IRDR分科会の小池委員長より説明があり、
審議の結果、承認しました。
(6) 平成30年度共同主催国際会議候補及び保留会議を決定しました。
(7) フューチャー・アース国際ハブ事務局長会議に連携会員を派遣することを決定しまし
た。
(8) AASSA地域ワークショップに会員を派遣することを決定しました。
(9) 平成28年度の代表派遣実施計画及び実施計画に基づく4‐6月期の会議派遣者を決定し
ました。
(10)国連安全保障理事会決議1540(大量破壊兵器の不拡散に関する決議)に関するアカデ
ミアと市民との対話会議に連携会員を派遣することを決定しました。
(11)25th KAST International Symposiumならびに韓国Future Earth National Committee
設立記念行事に連携会員を派遣することを決定しました。
(12)日本学術会議協力学術研究団体の指定(8団体)を承認しました。
(13)6件のシンポジウム等の開催、1件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として、花木副会長より、平成29年度共同主催国際会議候補については、
保留会議から追加を行わないことについて報告がありました。また、大西会長より、第
4回世界地すべりフォーラムの名誉議長に就任することについて報告がありました。さら
に、今後の幹事会開催日程について確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 補欠の連携会員候補者を決定しました。
(2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(11分科会)及び小委員会委員(
1小委員会)を決定しました。
特段の事情を考慮し、以下の分科会に、複数名の特任連携会員が任命されました。
・農学委員会・食料科学委員会合同 IUSS分科会
・農学委員会・食料科学委員会合同 PSA分科会
・臨床医学委員会 手術データの全国登録と解析に関わる分科会
・数理科学委員会 数学教育分科会
(3) 平成28年度代表派遣4-6月期の会議派遣者に関連し、国際業務に参画するための特任
連携会員の任命を決定しました。
(4) 日本学術会議連携会員の辞職の承認を同意しました。


◇◆◇次回の総会日程について◇◆◇――――――――――――――――――――――

次回以降の総会について、以下日程で開催が予定されております。
  会員の皆様におかれましては、ご参加をどうぞよろしくお願いいたします。

  「第171回総会」 平成28年4月14日(木)~4月16日(土)
  「第172回総会」 平成28年10月6日(木)~10月8日(土)
  「第173回総会」 平成29年4月13日(木)~15日(土)

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