日本学術会議「幹事会だより No.134」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.134
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                                平成28年9月13日発行
                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

今回は8月26日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
7月29日(金)に開催された第232回幹事会の議事概要を御報告いたします。


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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
 「学術の動向」9月号の会長からのメッセージに夏季部会の様子を書きました。豊
橋で行われた第三部の夏季部会は高校生の参加など新しい要素も付け加わったもので
(花木副会長の掲載文に詳細解説)、中部地区会議も主催者になりました。そこで地
区会議に注目してみます。会長就任以来、できるだけ地区会議の公開イベントには参
加するように心がけています。副会長の皆さんと手分けして出かけているので、会長
・副会長の参加率は相当高いのではないかと思います。豊橋のイベントでは高校生が
参加しましたが、企画によっては、もっと若い世代、つまり小中学生が父母とともに
聴講するといった光景も見られます。経験では、宇宙・天文というキーワードが並ぶ
と相当幅広い年齢層の聴講者があるようです。日本学術会議の大きなミッションのひ
とつが国民生活に科学を反映浸透させることなので、未来の科学者を含めた幅広い方
々がイベントに参加してくれるのは大事なことと思っています。日本学術会議は、一
方で、社会性の高いテーマ、科学の最先端のテーマも取り上げなければならないので
、参加者の多くが専門家というイベントも多く、若い世代を対象としたイベントが充
実しているとは言えない状況かもしれません。特に、地区会議が主催して行う日本全
国での公開講演会は、それぞれの地域にとっても第一線の科学者の話を直接聴く貴重
な機会です。それをきっかけに、科学の研究を志す人が現れるケースも少なくないで
しょうから大事にしなければならないと思います。
 日本学術会議では、限られた予算の中で、できるだけ地方でのイベント開催を重視
してきたいと考えています。そのためには、イベントの企画だけではなく、そもそも
各地でそれを担ってくれる会員・連携会員が活動していることが必要です。つまり、
各地の大学、研究機関、企業の研究部門などで活躍している研究者を発掘して、会員
や連携会員になってもらい、日本学術会議の活動の裾野を広げていかなければなりま
せん。年末から来年にかけては、第24期からの会員・連携会員の選考が本格化します
。地区会議を中心とする各地の活動を強化するという観点にも十分に配慮した選考を
行うことができればと考えています。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 3つの部が夏季部会を終え、8月幹事会の前後ともなると、第23期2年目の活動報
告書の多くが出揃い、全体像が見えてまいりました。執筆いただいた皆様に心より感
謝申し上げます。ご協力、ありがとうございました。
 「年次報告分科会」委員長という立場もあって、私自身、報告書作成に追われるな
か、ずっと頭の片隅にあったのは、「第23期の活動を特徴づけるものとは何だろうか
」ということでした。1年目にはまだまだぼんやりとしていましたが、2年目の報告
書では、多少特徴めいたものが形をとり始めたように感じています。
 たとえば、昨年の6.8文科大臣通知への対応のなかで議論された人文・社会科学
の振興、教養と専門、基礎と応用といった教育・研究のバランス、それらと相まって
再編が進む(進めねばならなくなった)大学という場、そこでの研究資金の問題、そ
のなかで比率を高める競争的資金、それと絡みながら学術に接近する軍事――こんな
「物語(narrative)」が見えてきます。10月総会の委員会報告に耳を傾けてみてくだ
さい。
 あるいは、第22期の英知を結集した東日本大震災復興支援が、その活動を内包しつ
つ、それ以外の自然災害へも射程を広げて、防災・減災のネットワークを構築すると
いう「物語」にも、第23期の特徴が読み込めるかもしれません。8月幹事会後の懇談
会では、国際的な科学連携にキャッチアップすべく、「放射性核種による汚染に係る
環境浄化の基礎科学に関する委員会」(仮称)という新しい課題別委員会の設置案が会
長から出されました。これも、ポスト東日本大震災を見すえる第23期だからこその展
開、と見ることができるでしょう。
 さらに、8月の幹事会には、25本目の大学教育の質保証参照基準として、「物理学
・天文学分野」が出されました。2つの専門分野をまたぐ「共通参照基準」は初めて
のことであり、それゆえの作成上のご苦労は察して余りあります。それでも、私はこ
の試みに、物理・化学・生物・地学という4教科に分かれている理科教育の現状を問
題視し、それら4つを統合して、21世紀市民が持つべき科学リテラシーの向上をめざ
した提言「これからの理科教育のあり方」(2016年2月、広報・科学力増進分科会・
小松久男委員長)に通じるものを感じました。
 10月総会に向けて集まってきた報告書全体を見渡してみれば、専門分野の間でどこ
か風通しをよくしようとする動きが見える気がします。私の深読みでしょうか?
 いいえ、「学術会議でしか議論できない課題とは何か」が少し見やすくなった気が
するのは、私だけではないはずです。
 現在私は、学術会議草創期の総会速記録を読み込んでおりますが、設立まもない19
50年代の総会では、「学術会議で何を議論すべきか/議論すべきではないか」が、時
に会員間に大論争を巻き起こしていました。議論すべきでない問題として「高度の政
治性」があげられていますが、何がそれに該当するかの具体的な判断はさまざまです
。判断基準となった(であろう)国際情勢の読み方や緊迫感も、時代認識も、会員の
背景同様、極めて多様です。この多様性が日本学術会議の魅力であり、また学術会議
としての姿勢を求められる際の難しさでもあるのでしょう。
 ただし、発言のひとつひとつに感じるのは、学者・科学者としての気概です。それ
なくして学術会議という場にあらず――。総会準備と相まって、「過去と現在の対話
」から教えられることが多い今日この頃です。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 第三部では「科学技術の光と影を生活者との対話から明らかにする」というテーマ
で部の中を横断して議論を継続的に行っています。去る8月2~3日に開催された夏
季部会でも、このテーマを取り上げ、市民講演会も含めて議論が交わされました。
 前期の22期には、第三部に関連を持つ各専門分野ごとに、それぞれが関連する学協
会と協力しながら「理学・工学分野における科学・夢ロードマップ2014」を作成しま
した。これは、震災前に作成された2011年版のロードマップの改訂版で、震災によっ
て新たに現れた課題なども含まれる内容になりました。
 科学者、特に若い次世代の科学者が夢を持つことは非常に重要だという発想がこの
ロードマップ作成の源としてありました。しかし、科学技術がもたらしてきた「影」
の側面もあるということも、科学技術に携わる者がそれぞれの分野で経験してきまし
た。光だけでなく影も生じるのなら、それを知り、その解決につなげていこう、とい
うのが現在の議論の生い立ちです。確かに影があるとしても、その影ばかり強調して
、光をもたらしてきた科学技術を否定してしまうのでは、社会の進展が見込めません
。バランスが取れ、長期的な視野に立った科学技術のスマートな(賢い)マネジメント
がまさに求められています。
 古くからある光と影の例としては、自動車が人間社会にもたらしたさまざまな可能
性と交通事故の例があげられます。その影を消すために新たな光を注ぐ、という科学
技術の取り組みとしては、交通事故を防ぐ自動運転技術があげられます。また、社会
の問題として最近大きくなってきたのは、情報通信技術がもたらす人工知能の実現と
、それによって生じる、セキュリティを始めとしたさまざまな社会の問題が挙げられ
るでしょう。これは、科学技術の変化の速度に人間社会の習慣や規則がついて行けな
いことによって生じている問題の典型と言えるでしょう。また、根本的には、産業革
命以来の科学技術による人間の生活の発展と、それを支えてきた化石燃料がもたらし
た気候変動の問題も、光と影の例です。
 これら光と影の問題については、即座に出る結論というものがありませんが、議論
を重ねていき、理工学の分野に携わる者が社会との関係を常に頭に置き、理解を深め
ることに意義があると考えています。
 このような思考実験は、理工学分野だけではなく多くの学術分野においても意義を
持つものです。第三部における議論が、更に幅広い面からの議論につながっていくこ
とを願っています。


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 以下、第232回幹事会の概要となります。

◎第232回幹事会(平成28年7月29日(金)14:30~17:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 科学と社会委員会の委員を決定しました(追加1件)
(2) 国際委員会運営要綱の一部改正(新規設置3件)及び分科会委員(追加1件)
を決定しました。
(3) 分野別委員会運営要綱の一部改正(名称及び調査審議事項の変更1件)及び
委員会、分科会及び小委員会委員(1分科会、2小委員会)を決定しました。
  ○名称及び調査審議事項の変更
  ・地域研究委員会・環境学委員会・地球惑星科学委員会合同
     地球環境変化の人間的側面(HD)分科会KLASICA小委員会
(4) 報告「高レベル放射性廃棄物の処分をテーマとしたweb上の討論型世論調査」
について、社会学委員会討論型世論調査分科会の今田高俊委員長、坂野達郎幹事
より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(5) 報告「大型レーザーによる高エネルギー密度科学の新展開」について、総合
工学委員会エネルギーと科学技術に関する分科会の犬竹正明委員、三間圀興委員
より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(6) 日本学術会議が加入する国際学術団体について調査結果の報告が行われ継続
加入を適当と認めました。
(7) 平成28年度代表派遣について、実施計画の変更、追加及び派遣者を決定しま
した。
(8) International Data Week(IDW)の共催及び外国人の招聘について決定しまし
た。
(9) 大気化学と地球汚染に関する国際委員会(iCACGP)科学運営委員会、地球大
気科学国際協同研究計画(IGAC)科学運営委員会2016、同科学委員会2016の共催
及び外国人の招聘について決定しました。
(10) 日本‐イスラエル・ワークショップの開催について決定しました。
(11) ネパールの学術機関等との会合に会員を派遣することを決定しました。
(12) 14件のシンポジウム等の開催、1件の国際会議の後援、6件の国内会議の後
援を決定しました。
(13) 「実験研究の再現性向上に関する声明案」に賛同することを決定しました。
3 その他事項として、第172回総会及び今後の幹事会日程について確認が行われ
ました。