日本学術会議「幹事会だより No.135」について

 

 

---------------------------------------------------
幹 事 会 だ よ り No.135
---------------------------------------------------
                                平成28年9月30日発行
                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

 今回は9月16日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
8月26日(金)に開催された第233回幹事会の議事概要を御報告いたします。


====================================================
  会長・副会長より
====================================================


〔 会長 大西隆 〕 
 9月後半に、北京でIAPの会合がありました。IAPは、現在はInter Academy
Partnershipと名乗っています。その下に、IAP for Science, IAP for Research,
IAP for Health が存在し、さらに欧州、アジア、アフリカ、南北アメリカに地域
組織が存在する科学アカデミーの国際組織です。現在はIAPのS、R、Hとなってい
る三組織は、かつては互いに連携しつつも独立した組織だったのです。それが、
数年前から統合の議論が始まり、今年の3月に現在の形になりました。北京の会
合では、それぞれの執行委員会及び理事会が開催されたほか、これらの合同会議
も開催され、いくつかの委員会を共有するなど、一体的活動を強めようとしてい
ます。
 アカデミーの国際会議には、このほかに、ICSUやISSCがあります。ICSUは、最
も長い歴史を持つ科学アカデミーの国際組織です。またISSCは、International
Social Science Council という名が示すように、社会科学系の組織です。実は
、この両者にも統合の話が起きています。未だ決定には至っていませんが、今年
10月にオスローで開催されるISSCの総会に合わせて、ICSUも同所で臨時総会を開
催し、さらに、来年、台北で予定されているICSUの総会時にISSCも同所で臨時総
会を開催するなど、統合へ向けた段取りが整えられているのです。
 これらがそれぞれ統合されることになるとすれば、その先に、再編によってで
きる2つの国際組織をさらに1つにして、科学者の単一の声を国際社会に発信する
ことができるようにすべきという意見があります。既に、Science International
という枠組みができてはいるものの、この議論が具体化するには、少し時間が
必要かもしれません。
 というのは、統合されたり、統合されつつあるこれらの二つのグループには、
組織上大きな違いがあるからです。IAPが国別の科学アカデミーを会員としてい
るのに対して、ICSUとISSCは国別のアカデミーに加えて、UNIONと呼ばれる分野
別学会の国際組織が会員になっているのです。これには、歴史的な経緯がありま
す。ともあれ、現実には、国単位の関心事に加えて、分野ごとの関心事にも影響
されざるを得ないという複雑な意思決定過程が生ずることは避けられません。も
ちろん国別の科学アカデミーにも、その中に様々な科学分野があって、議論を集
約するのは難しいという問題は起こり得るとはいえ、それが国際舞台に持ち込ま
れれば、合意形成はなお複雑になります。
 日本学術会議は、これらの多くの国際組織に加盟し、理事を務めたりしていま
す。科学者の声をより強いものにすることが望ましいという観点から、統合化に
は積極的な立場をとってきています。もちろん、ここに述べたような問題の存在
も十分に認識しており、焦らずに、議論を積み重ねて、成果を上げていきたいと
考えています。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 9月23日に開かれた国際人権対応分科会では、クーデター後のトルコで深刻さを
増す学術関係者への弾圧について意見交換をいたしました。「科学者に関する国際
人権問題委員会」のもとにある同分科会は、NPO国際人権ネットワーク(IHRN)か
ら出されるアクション・アラートへの対応検討を主たる活動としています。とはい
え、今回のトルコ案件は、これまでのアラート内容とかなり趣を異にしています。
 少数民族クルド人問題を抱え、シリア内戦をはじめとする中東情勢と深く絡むト
ルコでは、これまでも度々、科学者や研究者に対する人権侵害(逮捕・拘束・投獄
、劣悪な環境でのその長期化)が問題視されてきました。しかしながら、2016年7
月15日のクーデター失敗後、トルコ政府は、国内の大学に対して、1550名を超える
学部長の辞任命令、1万5000人を超える教職員の解雇、学術関係者の渡航禁止と海
外からの引上げといった措置をつぎつぎと打ち出しました。職を追われた科学者、
研究者、高等教育関係者の数そのものが、トルコの学術界の危機的状況を伝えてい
ます。
 すでに7月28日、国際科学会議(ICSU)、その委員会のひとつであるCFRS(科学
者の自由と責任に関する委員会)をはじめ、いくつかの国際学術団体は連名で声明
を出し、トルコ情勢への「深刻な懸念」を表明するとともに、「教育関係者や研究
者の市民的自由、学問の自由」を守るよう、トルコ政府に要請しました。しかしな
がら、その後、科学・学術関係者を取り巻く状況が改善されたとの報告はありませ
ん。
 以前私は、やはり幹事会だよりNo.133(今年8月発行) で、IHRNとは別のNPO組
織、“Scholars At Risk”から出された人権侵害批判のアピールに対して、トルコ
教育相が「われわれは独裁国家ではなく民主主義国家であり、法に従い、民主的に
行動している」と返信したことを紹介しました。そうした「対話」があるうちはま
だしも、クーデター失敗後は、トルコ国内の情報そのものが国外に伝わりづらくな
っていることが気になります。トルコには(にも)「平和を求める学者の会
(Academic for Peace)」という組織がありますが、この会のメンバー、及び今年1
月、トルコ政府のクルド人攻撃に反対する声明(“We will not be a party to this crime”)
に署名した学者らが、国家緊急事態の下にある9月初旬、「テロ支援」を理由に職
を追われ、パスポートまで取り上げられる危険性が憂慮されると聞きます。
 民主主義の形はさまざまです。その一方で、21世紀に入ってから、世界各地で
(科学者や研究者を含む)市民への「暴力」のあり方も中身も大きく変容し、そ
れにわれわれの思考や想像が対応しきれていないことも事実でしょう。学者は「
考える人」であり、「行動する人」ではない・・・のではなく、その二つが求め
られている気がします。内政干渉にならず、「学問の自由と自律」という原則を
確保するために、われわれは今何をすればいいのでしょうか。
 2016年10月6日~7日、学術会議総会と同じ日程で行われるCFRSで、この問題
により踏み込んだ議論をするとの連絡が入っています。議論の様子を次回の幹事
会だよりでお届けできればと思います。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 9月下旬に、何件かの用務のためにヨーロッパに出張してきました。そのうち、
ルーヴル美術館の講堂で行われたフランス科学アカデミーの350周年記念式典と、
それに合わせて開かれたシンポジウムWorld Science Dayについてご紹介したいと
思います。なんと言ってもまず驚くのはその350年という歴史の長さです。設立さ
れた1666年はフランス革命の100年以上前、日本では鎖国が始まってまもなくの頃
です。イギリスの王立協会(The Royal Society)は1660年、ドイツの自然科学アカ
デミー・レオポルディーナは1652年設立で、ほぼ同じ頃です。イタリアの科学ア
カデミーLincei(リンチェイ)は更に歴史が長く、1603年設立で、ガリレオ・ガリ
レイが初期の頃の会員だったそうです。今回のフランス科学アカデミーの記念式
典では「最古の科学アカデミー」としてLinceiの代表が式辞を述べました。もっ
とも、フランスを含めこれらのアカデミーについては、創立時から今日まで、必
ずしもその形態や地位が一貫していたと言うことではありません。戦争・革命な
どの社会の大変化、役割の変化、合併、分離という紆余曲折を経て今日の姿に至
っています。とは言え、どのような社会情勢においても科学者コミュニティおよ
び社会がアカデミーの存在の重要性を認めてきたからこそ今日まで続いているの
でしょう。
 これらのアカデミーと比較する形で歴史の対照表を作るとすれば、日本のどの
ような学術上の事柄を1600年代に書くことになるのでしょうか?ご存知の通り日
本学術会議の設立は1949年であり、日本学士院の前身の東京学士院が設立された
のが1879年で、上記のアカデミーに比べ、200年以上も時代が下っています。し
かし、日本の学術の歴史が浅いわけではありません。学校としては、足利学校が
少なくとも1400年代の前半には存在していました。ただ、科学者個人個人が集ま
って形成するアカデミー、あるいは学会のような形態を中心とする方向に日本の
学術は進まなかったのが、このアカデミーの歴史の長さの相違の原因であるのか
もしれません。
 さて、儀式に続いて行われたシンポジウムでは、健康と人口動態、デジタル化
・ロボティクスと雇用、環境、資源、リサイクル、宇宙の理解、という、科学技
術と社会が当面している現代の課題が取り上げられ、短い時間ながらもさまざま
な見解が何人かの演者から示されました。ちょっと浮世離れした350周年という
歴史的な機会に、今日および近未来の現実的な課題を話すという組み合わせは新
鮮でした。
 今回の式典には、日本学術会議と日本学士院が招かれており、後者からはフラ
ンス科学アカデミーの会員でもある広中平祐先生が参加されました。これら日本
の2団体を含む58団体の賛同を得て、350周年の共同声明が出されました。
 2011年3月の福島第一原子力発電所の事故に対してフランス科学アカデミーが
作成した報告書のことを忘れてはなりません。金澤会長の海外アカデミーへのメ
ッセージ及び同月にフランスで開かれたG8サイエンスへの日本学術会議からの
派遣者との対話を経て、Solidarity for Japan(日本への連帯)というワーキン
ググループが同アカデミー内に組織され、The major accident at Fukushimaと
いう報告書が翌年発刊されました。英語およびフランス語で作成され、付録を含
め90ページ(英語版の場合)に及ぶ報告書です。今回の式典では触れられません
でしたが、参加者に電子ファイルとして配付された5本のレポートのうちのひと
つとなっていました。
 それぞれの国のアカデミーには特徴があり、その交流はわが国の学術活動の幅
を拡げることに役立ちます。各国のアカデミーとの協働を更に続けていきたいと
考えています。


=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=
SCJ Member Forum (会員・連携会員専用掲示板)
http://www.scjbbs.go.jp/bbs/index.php?sid=a2c3ea40e52950b0a4c8409bd62cdaff
ログインには、会員・連携会員に郵送でお送りしたユーザー名とパスワードが必要です。

日本学術会議HP
http://www.scj.go.jp/index.html

--------------------------------------------------------------------------------
  
 以下、第233回幹事会の概要となります。

◎第233回幹事会(平成28年8月26日(金)13:30~18:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 「日本学術会議の運営に関する内規」の一部改正について、必要修正を行った
うえで次回幹事会にて再度審議することを決定しました。
(2) 「選考委員会運営要綱」、「科学者委員会運営要綱」、「科学と社会委員会運
営要綱」、「国際委員会運営要綱」及び「分野別委員会運営要綱」の一部改正につ
いて決定しました。
(3) 補欠の連携会員の選任の要望を承認し、推薦を行う部をそれぞれ第一部・第二
部に決定しました。
(4) 国際委員会分科会委員(新規3件)を決定しました。
(5) 分野別委員会運営要綱の一部改正(新規設置1件)を決定しました。
  ○新規設置
  ・地球惑星科学委員会地球惑星科学人材育成分科会地学地理教育用語検討小委員会
(6) 平成28年度代表派遣について、実施計画に基づき10-12月期の会議派遣者を決
定しました。
(7) 第3回AASSA総会に会員を派遣することについて決定しました。
(8) 7件のシンポジウム等の開催、4件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として、今後の幹事会日程について確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 機能別委員会における分科会委員(特任連携会員)(2分科会)を決定しまし
た。
(2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(4分科会)及び小分科会
委員(2小委員会)を決定しました。
  ○特段の事情を考慮し、以下の分科会に、複数名の特任連携会員が任命されました。
  ・基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会合同
   遺伝資源分科会
(3) 科学技術を生かした防災・減災政策の国際的展開に関する検討委員会における
分科会委員(特任連携会員)を決定しました。
(4) 若手アカデミー構成員(特任連携会員)を決定するとともに、若手アカデミー
における分科会委員(特任連携会員)を決定しました。
(5) 国際業務に参画するための特任連携会員の任命を決定しました。