日本学術会議「幹事会だより No.138」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.138
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                                平成28年12月28日発行
                                   日本学術会議会長
                                       大西 隆

 今回は12月16日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
11月25日(金)に開催された第238回幹事会の議事概要を御報告いたします。


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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕 
 今年は12月22日に2017年度政府予算案が閣議決定されました。日本学術会議は、
10億5,100万円で対今年度4,000万円増です。といっても、解釈には少し注意が必
要です。ご承知のように、来年度は会員半数改選、連携会員の選考が行われます。
3年毎の改選の年には、選考関係の経費が上乗せされてきました。改選年だけを
比較すると、2008年度12億9千万円、2011年度10億9千万円、2014年度10億
3千万円と減少してきたものが、微増に転じたことになります。
 概算要求では、新たに、若手アカデミー、地区会議をはじめとした地方創生に資
するような地域における活動を掲げ、それぞれ一定の額が配分されました。昨年度
から予算措置されているフューチャー・アースをさらに推進することとも合わせて
、これらの予算を活用して、各地での学術の普及や、科学者の連携に関わる活動を
強めていくことにします。予算確保に尽力してくれた、日本学術会議事務局の皆さ
ん、特に管理課の方々には感謝します。今後とも、日本学術会議の諸活動を的確に
予算要望に結び付けていく作業を怠らないようにしたいと思います。
 また、今年度から、審議関係の手当、旅費を各部関係や課題別委員会関係等に割
り当てて、執行管理する方法をとっています。いうまでもなく、ここ数年常態化し
ている手当・旅費の不足が、日本学術会議の活動を大きく阻害する問題へ対処する
ためです。その成果もあって、今年度は、昨年度に比べると財政状況は良好で、ま
だ、財務危機と認識する段階には至っていません。しかし、年度末までには、何ら
かの財務危機回避措置を実施する必要が出てくるという見込みなので、その際には
ご協力をお願いします。
 今年も残りわずかとなりました。今年は、様々な点で日本学術会議が注目される
年になりました。特に海外のアカデミーからは、Gサイエンス学術会議の成功等と
ともに日本学術会議への注目が高まったと感じています。「幹事会だより」や「学
術の動向」でも何度か述べてきたように、現在国際的な学術団体の統合が進んでい
ます。このことは、各国政府、国連組織、NGO等の国際社会に影響力のある機関に
対する国際学術界の発言力を強めることになるとの観点から、日本学術会議として
も統合を促進する立場に立ってきました。もちろん、国際的なリーダーシップを強
めるには、国内での存在感向上が不可欠です。この観点から、来年も、国内外で日
本学術会議が役割を高められるように、与えられた予算を活用して活動していきた
いと思います。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 2016年12月11日(日)午後、公開シンポジウム「科学者・技術者と軍事研究」
(@明治大学駿河台キャンパス・グローバルフロント)に参加してきました。主催は、
史学委員会の分科会のひとつ、「科学・技術の歴史的理論的社会的検討分科会」
です。会場を埋め尽くした聴衆には、科学者や技術者、大学・メディア関係者のみ
ならず、一般市民や若者の姿も多く、「学術に接近する軍事」という問題への関心
の高さを、改めてうかがい知ることができました。
 シンポジウム報告は近いうちにWEB上に、あるいは出版物として公表されるで
しょうが、私にとって興味深かったのは、いずれの報告も、第二次世界大戦以前、
そして戦時中、あるいは戦後において、科学者・技術者が、意識するとしないとに
かかわらず、どのように軍事研究に関わっていったのか、それによって何を得て何
を失ったのか、具体的かつ多様な角度から光を当てようとしていたことです。
 1950年4月28日、学術会議第6回総会は、「戦争を目的とする科学の研究には絶
対従わない」という決意表明(声明)を出しましたが、この決意を支えたのは、声明
に明記されたように、「これまで日本の科学者がとりきたった態度について」の強
い「反省」でした。「反省」は過去と真摯に向き合わなければ生まれ得ないもので
あり、また、機会あるごとに言語化、文字化しなければ、風化し、忘れられていく
ものです。だからこそ、21世紀の今なお、歴史的な検証が重要なのです。
 たとえば、「生物兵器と関わる研究をしていた」という事象の背後には、「嘱託
研究者」と「戦時研究員制度」という科学者を取り巻く「制度の問題」が浮かび上
がってきます。目先の効率や成果にとらわれて「失敗」のデータを隠した事実から
は、「失敗」の中にあるであろう「将来の可能性の芽」もまた摘み取られてしまっ
たことが抽出されます。自ら発掘した貴重な史料を駆使して、731部隊という「軍
事研究の中の科学者」を考えた常石敬一氏の報告に、われわれは今何を見るべき/
考えるべきなのでしょうか。
 現在月に一度のペースで行われている「安全保障と学術に関する検討委員会」で
は、研究の透明性や公開性、デュアルユースといった言葉が目を引きますが、「軍
学接近」に関する基本的な構図は、1950年声明の時代とさほど変わっていない気が
します。
 「科学そのものは手段であり道具であるかもしれないが、科学者までが手段なり
道具なりになっていけない、というのが新しい反省の帰結である」とは、学術会議
草創期に会員を務めた経済学者、都留重人氏の言葉(「科学と政治」『思想』1952
年4月、3頁)ですが、この「反省」こそ、学術会議声明に刻まれた「反省」でも
あったはずです。しかしながら、「科学者は政治や軍事の道具になってはいけない
」という決意は常に、研究費や人事の問題に阻まれ、挫かれてきました。半導体国
際会議への米陸軍極東研究開発局の資金援助のスクープ(『朝日新聞』1967年5月
5日第1面)によって暴露された「軍事の学術への接近」の事実から、1967年10月
20日、学術会議が2度目の声明を出さねばならなくなった構図そのものは、防衛装
備庁の委託研究制度に揺れる21世紀の今とさほど変わっているようには見えません。
 歴史的検証を大切にした本シンポジウムは、何がどう問題なのかを、表面的な時
代変化にとらわれず、また時代を言い訳にせずに、物事の本質を見直すという点で
非常に有益だったと思います。そこで確認されたことは、1949年1月の設立ととも
に学術会議に埋め込まれた大きな使命――日本学術会議法(1948年7月)にも書かれ
ている「平和の希求」でした。今問われているのは、この「学術会議の本質」にほ
かなりません。
 「安全保障と学術に関する検討委員会」の委員として、そして何よりも歴史研究
者として、私は学術会議草創期の総会速記録を読み込んできました。そのなかで、
いくつかの「発見」もありました。検討委員会では時間的制約から話せなかった内
容の一部をまとめた文章が、来年1月刊行の『世界』(岩波書店)2月号に掲載予定
です。どうかご笑覧ください。
 最後になりましたが、今年も委員会や分科会、提言等の発出に関して、会員・連
携会員の皆様には大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。まだ皆様の
お力をお借りしなければならない課題がたくさんございます。どうか来年も引き続
きよろしくお願いいたします。よい年の瀬、年の初めをお迎えください。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 イスラエル科学・人文アカデミー(Israel Academy of Science and Humanity, IASH)
と日本学術会議は、2組織間の協力の覚書を交わしており、その活動の一環として11
月30日と12月1日の両日、ワークショップが沖縄で行われました。IASHはいわゆる理
系・文系の双方の分野をカバーしており、前の会長のRuth Arnon氏は免疫学の方、現
在の会長のNili Cohen氏は法学分野の方で、共に女性です。
 少し歴史をひもとくと、2013年10月にArnon会長が来訪し、覚書を締結したところ
から両組織の正式の交流が始まりました。半年後の2014年4月には家副会長(当時)
を含む代表団が先方を訪問し、意見交換をしました。そして、2014年8月には、今年
のワークショップの中心になったYossi Loya教授が来訪されました。その後、開催地
およびテーマを検討し、水管理をテーマとして、最初のシンポジウムをイスラエルで
開催することを決定しました。2015年3月にエルサレムおよびテルアビブで開かれた
シンポジウムには、水の専門家として私も参加しました。
 その後、先方のArnon会長の来訪を経て、先方から希望が出ていたサンゴ礁のテー
マで、今回沖縄にてワークショップを開催することになったものです。サンゴ礁とイ
スラエルは、専門外の人にはイメージ的にすぐに結びつかないかもしれませんが、紅
海に面するイスラエルの南端、エイラト湾(アカバ湾)エイラト周辺にはサンゴ礁が
存在します。今回のワークショップでLoya教授が「サンゴ礁の沿岸長さあたりの論文
数は一番多い」とジョークを言っておられたように、同国にとっては貴重な唯一のサ
ンゴ礁です。
 今回、初日には沖縄科学技術大学院大学(OIST)における丸一日のワークショップを
開き、2日目は琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底(せそこ)研究施設を見学し、
夜に日本サンゴ礁学会と合同で3時間のワークショップを那覇市内で開きました。OI
STには会議施設およびさまざまな経費を負担していただき、瀬底および日本サンゴ礁
学会の方々にはワークショップの内容面を中心にご尽力をいただきました。また、見
学の途中に寄った美ら海水族館でも、水族館所属の研究者の方に説明をいただき、い
ろいろな方に助けられたワークショップでした。
 今回はイスラエルから、Loya教授を団長に、8名もの研究者が来日しました。日本
側からも、日本サンゴ礁学会で中心に活躍されている研究者、前述のOISTおよび瀬底
の研究者を中心に、経験豊富な研究者から若手まで、さまざまな立場で発表、意見交
換が行われました。イスラエルから来訪した研究者のうちの何名かはワークショップ
終了後、水中に潜ってサンゴを観察されたようです。さすがにフィールド研究者です。
 このような2国間の交流については、特別な予算の措置がないため、継続して実施、
あるいは対象国を拡大していくことは容易ではありませんが、共同事業が発展するた
めの種になれば、と願っております。


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 以下、第238回幹事会の概要となります。

◎第238回幹事会(平成28年11月25日(金)13:30~16:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 「サイエンスカフェに関する今後の対応について」の改定について決定しました。
(2) 会員候補者・連携会員候補者の推薦書様式を決定しました。
(3) 選考委員会における分科会委員(新規4件)を決定しました。
(4) 分野別委員会における委員会等委員(追加3件)を決定しました。
(5) 提言「学術研究の円滑な推進のための名古屋議定書批准に伴う措置について」に
ついて、農学委員会・食料科学委員会合同農学分野における名古屋議定書関連検討分科
会大杉委員長及び奥野副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを
条件に承認した。
(6) 日本学術会議協力学術研究団体を指定すること(新規3件)を決定しました。
(7) 平成28年度代表派遣について、実施計画に基づく1-3月期の会議派遣者を決定しま
した。
(8) 平成28年度代表派遣について、実施計画の変更、追加及び派遣者を決定しました。
(9) フューチャー・アース国際本部事務局の事務局体制会議に会員を派遣することを
決定しました。
(10) 「地理空間に関するSDGsに対応した意思決定支援システム」及び「都市をよりレ
ジリエントに:ハビタットIIIその後」国際会議に会員を派遣することを決定しました。
(11) 9件のシンポジウム等の開催、1件の国際会議及び4件の国内会議の後援を決定
しました。
3 その他事項として、花木副会長から第3回AASSA総会及びICSU臨時総会についての報
告、大西会長から今後の幹事会日程について確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 補欠の連携会員候補者を決定しました。
(2) 補欠の会員(1名)の候補者を推薦する部を第一部とすることを決定しました。
(3) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(1分科会)及び小委員会委
員(4小委員会)を決定しました。
(4) 平成28年度1-3月期の代表派遣及び、追加の代表派遣会議派遣者に関連し、国際
業務に参画するための特任連携会員の任命の決定を決定しました。
(5) 日本学術会議連携会員の辞職の承認を同意しました。