日本学術会議「幹事会だより No.140」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.140
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                           平成29年3月16日発行
                              日本学術会議会長
                                  大西 隆

 今回は2月24日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
1月27日(金)に開催された第241回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
 今期も最終コーナーに入ります。前期もそうであったように、期末になると急増する
のが、提言等に関する審議です。提言等は、最終的には幹事会で審議、決定されて公表
されます。幹事会では、説明5分、質疑応答10分という時間を組んでいますが、質疑応
答が10分では終わらないのが常です。30分以上にわたって議論が続くことも珍しくあり
ません。前期も期末に100本近い提言等が出されたので、予定時間を大幅に超える幹事
会も出ました。期末の7月から9月にかけては月1回の定例の幹事会のほかに、提言等
の審議のために予備的な会議を複数回設定しているのですが、それでも夜までかかりま
した。
 そこで、委員会等でのまとめに関わっている役員の皆さんにお願いしたいことは、何
よりも、完成度の高い案を作成していただくことです。内容はもちろんですが、表現方
法や体裁について、そのままで公表できる、最終版に相応しいものが出されることを期
待しています。
 特に、最近では、日本学術会議の提言等が社会的に注目されるケースが増えています。
誰に何を提言するのか、あるいは改めてこの時期に何を報告するのか、狙いを明確にし
て、受け取る側が理解しやすい文書で公表したいとと思っています。
 よりよい提言を作るという目的で、提言等の作成にあたってはチェックリストを設け
ており、役員の皆様には、それに従って、改めて全文をチェックして頂くようにお願い
します。
 提言等を公表した後は、内容を関係者をはじめ多数の方々に理解していただくために、
説明の機会を設けたり、シンポジウムなどを開催して公開の議論を行ったりすることも
ご検討いただきたいと思います。記者発表の機会を設けることも有効な場合があります。
これらはそれぞれ準備が必要なので、少し早めに準備して、タイムリーにこうした関連
イベントが行われるようにしていただきたいと思います。第23期の活動を充実した形で
締めくくるために、これからの詰めをよろしくお願い申し上げます。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 2月24日午前に行われた外部評価委員会の有識者座長である尾池和夫先生は、昨年4
月の総会でアニメを使った刺激的な外部評価報告をされました。鮮烈なその記憶を今な
お留めていらっしゃる方も多いと思います。
 あの総会報告アニメの作者は、尾池先生が学長を務める京都造形芸術大学マンガ学科
の当時3回生の学生さんでした。彼女は学術会議に関する分厚い資料を尾池先生から渡
され、それを読み込むなかで、それまで縁もゆかりもなかった(おそらくは耳にしたこ
とさえなかった)学術会議なる空間に思いをめぐらせ、イメージを膨らませて、あのア
ニメを完成させたとのことです。研究や議論の成果を文字で表現することに馴れている
われわれには信じがたいことですが、昨今では、文字でうまく書けない講義メモをマン
ガで記す学生もいるとのこと。私たち世代の「落書き」は、文字通りのメディアへと進
化・深化を遂げて、伝える/記憶する/考えるといった役目をしっかり果たしているわけ
です。動画やSNSはじめ、多様化・多層化するメディアにあふれた現代において、「イ
ンパクト」を考えれば、学術会議の意思の発出にも、文書以外の媒体の可能性がないわ
けではありません。
 そんなことを思ったのは、過日の外部評価委員会で、学術会議からの提言等意思の表
出について、その量と質の関係、並びにその後の検証を問う声が上がったからです。提
言等学術会議のアウトプットはそれを受け取ってほしい場や人びと、委員会等の集まり
でどのように参照され、そこでの議論にどのような影響を与えているのか。提言等に書
かれた内容はどのように実現された/実現されなかったのか、参照されなかった/実現さ
れなかったとしたら、その理由はどこにあるのか。
 こうした検証の必要性は、これまでも内外から上がっていました。提言発出後一年ほ
どをめどに出される「インパクト・レポート」というのがありますが、その中身も書き
ぶりも多様です。そもそも学術会議の「インパクト」とは何か、それは何で測れるもの
なのかという私の疑問は、23期開始早々の「幹事会だより」でしたためて以来、今なお
解けておりません。現在、文部科学省の科学技術・学術会議審議会でも、何が研究者の
活動を評価する指標となりうるかについての議論が続いております。専門別・領域別に
細かく区分された研究成果を俯瞰してどう評価するかはとても難しいのですが、それは
成果を載せる/見せる「器」にもよるのだと、尾池先生のアニメ報告は教えてくれたよ
うに感じておりました。たとえば、まもなく発出予定の人文・社会科学の振興と関わる
提言をアニメや動画にしたら...?
 そんな私の夢想をさとられたのか、外部評価委員会修了後、尾池先生から、京都造形
芸術大学の卒業制作展を見にこないかというお誘いを受けました。もちろん二つ返事で
「行きまーす!」と私。アニメ、動画、キャラクター、表現プロデュースなどなど、
「4年間の学びのかたち」とそれを生き生きと説明する学生たちの声が、卒業論文を読
むことに少し疲れた私の頭に心地よく響きました。今年の4月総会でも、尾池先生はア
ニメを使って外部評価委員会報告をされる予定とのこと。さて、今年は何が飛び出すの
か、今からとても楽しみです!

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 1月27日開催の「持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた超学際研究とマルチス
テークホルダー協働の推進」に引き続き、今年度の持続会議の第2弾が、去る3月1日
から2日にかけて開催されました。会議はIAPのアジア地域組織であるAASSAの地域ワー
クショップを兼ねて開催されました。AASSAへの参画については、これまでも幹事会だ
よりで何度か取り上げさせていただきました。AASSAにとって日本学術会議は新しいメ
ンバーで、今回の地域ワークショップは日本で開催される初めてのAASSA会合になりま
した。
 今回のワークショップは、「包摂的な社会のための科学の役割
(Role of Science for Inclusive Society)」という、SDGsを意識したテーマ設定に
しました。一般向けの会議ではなく、AASSAに加盟しているアカデミーと日本の研究者
の間の専門的な会合としました。ワークショップの内容について、以下に簡単に紹介
させていただきます。
 私とAASSAのYoo Hang Kim会長の開会あいさつに引き続き、Future Earthアジア地域
事務局の安成教授からFuture Earthの紹介、AASSAのAbdullah副会長からマレーシアに
おける移民問題、Praeger理事から理系分野におけるジェンダー公平性について、それ
ぞれ基調講演が行われました。そのあと、身体障害者のための科学技術、高齢社会の
ためのイノベーション、2050年の農業、社会と密接な関係を持つ科学、アジアの移民
と文化的側面、アジアでのワーク・ライフバランス、都市のくらしと健康、の7つのセ
ッションが続けて行われ、専門的な議論が行われました。このセッション構成から分
かるように、人文・社会科学、生命科学、理学・工学の領域にわたってセッションが
企画されました。日本学術会議が持つ学術的な多様性を生かすことができたと思いま
す。また、基調講演を含むスピーカーのうち、女性の比率が半数近くに達した事も印
象的でした。これらのセッションは一つの会場で行われたため、参加者各自は非常に
多様な分野の議論に接することができたと思います。
 このワークショップの終盤、大西会長の閉会あいさつの前に、以下の5項目を宣言
として採択しました。すなわち、1.包摂的な社会の実現には、科学研究の際に多様性
に更に注意を払う事が重要、2.研究を深めるためには科学者は既存の枠組みを超えた
協働が必要、3.長期的視点と社会のビジョンを持ってアジアにおける研究を進めるべ
き、4.科学技術を社会の発展に役立てるためには、科学の自由とコミュニケーション
が必要、5.アジアにおける包摂性の追求を通じて科学はSDGsの実現に貢献すべき、と
いう内容です。
 さて、もう一つ別の話題をお知らせします。海外で開かれる国際学術団体の総会、
理事会などに皆様に参加いただく「代表派遣」についてです。平成29年度の代表派遣
の実施計画が幹事会で認められ、54会議、延べ60名の方に行っていただくことになり
ました。この代表派遣に行っていただく方は会員または連携会員で、それ以外に適切
な方がおられる場合には特任連携会員として行っていただいておりますが、これらの
身分には日本国籍が求められており、外国籍の方には行っていただけないしくみにこ
れまでなっておりました。しかし、日本の研究機関で働く外国籍の方が増加しており
、外国籍の方に行っていただく場合も生じるようになってきました。そこで、このた
び規則を改め、外国籍の方には外国人アドバイザーという身分で代表派遣として海外
の会議に行っていただけるようになりました。国際交流が更に活発化することを願っ
ております。
 一点訂正です。前回の幹事会だよりNo.139の私の記事において、元副会長の岸輝雄
先生のお名前の表記が誤っておりました。ここにおわびして訂正申し上げます。


 
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  以下、第241回幹事会の概要となります。

◎第241回幹事会(平成29年1月27日(金)13:30~16:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1)選考委員会における分科会委員(追加1件)を決定しました。
(2)分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件、調査審議事項の変更
1件)および分科会等委員(追加1件、新規1件)を決定しました。
(3)提言「第23期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2017
)」について、科学者委員会学術の大型研究計画検討分科会相原委員長より説明があ
り、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(4)提言「日本型産業化支援戦略」について、地域研究委員会国際地域開発研究分科
会大塚委員長及び三重野幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うこと
を条件に承認しました。
(5)提言「わが国の獣医学教育の現状と国際的通用性」について、食料科学委員会獣
医学分科会尾崎委員長及び吉川委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行
うことを条件に承認しました。
(6)Woman in Science Without Borders(WISWB)に連携会員を派遣することについ
て決定しました。
(7)9件のシンポジウム等の開催、4件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として大西会長から4月総会日程及び今後の幹事会日程について確
認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1)分野別委員会における小委員会委員(1小委員会)を決定しました。
(2)国際業務に参画するための特任連携会員(1件)の任命を決定しました。
(3)外部委員候補の推薦者を決定しました。