日本学術会議「幹事会だより No.141」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.141
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                           平成29年4月10日発行
                              日本学術会議会長
                                  大西 隆

 今回は3月24日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
2月24日(金)に開催された第242回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
 新聞各紙でも報道されたように、3月24日(金)の幹事会で、「軍事的安全保障研
究に関する声明」を決定しました。メディアによっては不正確な報道があるので、幹
事会議長として、審議経過と私の考えをお伝えします。
 日本学術会議の現在の制度では、あらゆる「意思の表出」(意思の表出という語に
は批判があることは承知していますが、会則等にも使われている学術会議用語です)
の決定は、幹事会に委任されています。日本学術会議法に、総会の権限の一部を幹事
会へ委任することができるとの規定があり、会則で、委任する事項が列記され、その
1番目に意思の表出が明記されているのがその根拠です。したがって、この度、幹事
会で声明について審議して決定したのは、法・会則に基づいた手続きに従ったもので
す。例えば、直近の声明は、「科学者の行動規範」(改訂版、2013年1月決定)であ
り、これも幹事会で審議・決定しました。
 しかし、現行の法・会則になってから、声明等を総会で決定したことはないかとい
えば、そのような例が3件ありました。これらは、声明をまとめた委員会の委員長が、
総会への議案提案者(細則に定められている)である会長や副会長でした。ただ、声
明等を審議した委員長が、会長や副会長を兼務していて、議案を提案する権限がある
からといって、幹事会に委任されている審議・決定事項を総会に提案することができ
るかについては、私は疑問と思っています。
 さて、今回の件については、まず、この件を審議してきた「安全保障と学術に関す
る検討委員会」の委員長が、“総会で審議するべき”ということを幹事会に要望しま
した。幹事会は、声明の審議・決定を総会から委任されているものの、自らの意思で
総会に審議・決定の場を戻すことにすれば、総会での審議・決定も可能と、(明文規
定がないのでやや超法規的な感じもしますが)議長である私は考えていました。そこ
で、幹事会の場で、幹事会か総会か、この件をどちらで審議・決定することが適当か
という観点で議論を行いました。
 その結果、幹事会は声明の決定を委任されているという責務を果たすべきであるこ
と、総会での議論は、この件の総会での報告後、時間をとって行えば可能であること、
という意見が次第に多数を占め、最終的には本件議案の説明者であった検討委員会委
員長も同意して、本件に関する幹事会での審議が行われ、検討委員会からの原案に1
か所の修正を施した後に、反対なしで決定しました。
 休憩をはさんで、時間をかけて得られた結論でした。最終的には、私も、会長・副
会長、各部の部長・副部長・幹事という選挙や指名承認の手続きによって選ばれた役
員で構成する幹事会が意思決定の責務を果たすのは現在の日本学術会議に求められて
いる役割からすれば必要なことと、考えました。1年に2回の総会、しかも限られた時
間で、意思の表出に関わる審議を尽くすのは容易ではありません。委員会での審議・
決定の上で、幹事会での審議・決定を基本的な意思決定のプロセスとすることは合理
性があります。当初は、総会での審議の準備もしていましたが、こういう考えから、
幹事会の議論の中で強くなった意見に基づいて、声明の決定について採決を行いまし
た。
 いずれにしても、次回の総会では、この件の報告を行い、一定の時間をとって議論
する予定です。また、安全保障と学術に関するテーマを“50年に一度”議論するので
はなく、もっと濃い密度で議論する必要があると考えています。その意味では、次回
の総会をこうした議論の出発点にしたいと思います。

○声明「軍事的安全保障研究に関する声明」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-s243.pdf


〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 今年も4月総会が近づき、副会長報告のために資料を作成しています。2014年10月
の就任以来、毎年2回、総会用PPTを作成するこの時間は、半年間に学術会議で何が
あったのか、何をし、何ができなかったのかをふり返るとてもよい機会です。第23期
最後の1年の半分(2016年10月1日から2017年3月末日までの半年間)が対象である
今回の報告は、残りの半年で何ができるかを考える重要な手がかりともなります。よ
って、気合も入ります。
 そんな気合のなかで、発見してしまいました・・・。私が担当する科学と社会委員
会が査読を預かる15の課題別委員会のうち、提言等「意思の発出」を済ませた3委員
会を除き、昨年10月以降、2017年3月までの半年間の発出は、3月の幹事会で承認さ
れてこの総会で報告される「安全保障と学術に関する検討委員会」の声明1つに留ま
るということを・・・。ということは、あと半年間のうちに意思の発出が連続するこ
とになります。
 残り半年間に意思の発出が集中すること自体の良し悪し、というわけではありませ
ん。ただ、ここしばらくの外部評価委員会報告を思い起こすと、昨年10月からの半年
間で課題別委員会からの意思の発出が1つ、というのはやはり気になります。今年3
月に公開された外部評価報告書曰く、「日本学術会議の提言・報告、シンポジウム等
の活動は、関係者に周知され、実際に活用されることで、初めて役に立つものである。
しかし、日本学術会議の活動は提言・報告を発出したり、シンポジウムをすることで
終わりとなりがちであり、広報・フォローアップが十分に行われていないとみられ
る。」
 課題別委員会のみならず、分野別委員会・分科会を含めて、第23期の外部評価委員
会は、学術会議における委員会・分科会の「質と量」のバランスをずっと問題視して
きました。「質と量」のアンバランスな関係は、委員会・分科会の数の多さに可視化
されているわけですが、それは、各委員会・分科会が扱う課題を複雑化させている時
代のせい、もあるでしょう。委員会・分科会で決めた課題に集中できない先生方の
「多忙さ」も、意思の発出時期のアンバランスさと関係しているかもしれません。学
術会議における「質と量」、両者のバランスとは何か――それ自体難しい問題です。
 もっとも、意思の発出「量」がどうあろうと、私の役割は、その量(数)にひけを
とらない学術会議としての「質」の担保に努めることにあります。「質」の保証に関
して、幹事会で求められた修正意見に、作成に当たった委員会・分科会としては異論
があるかもしれません。修正に要する時間を気にする向きもあるでしょう。それらを
含めて、あと半年間、意思の発出における「質と量」の問題と向き合っていかねばと、
気持ちを新たにしております。
 会員、連携会員のみなさま、引き続きよろしくお願いいたします。


〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 WSSF (World Social Science Forum)の第4回大会が2018年9月25~28日の間、福岡
市で開催されます。WSSFはISSC(国際世界社会科学評議会)が数年に一度開催する世界
大会で、これまでに2009年、2013年、2015年に開催されています。前回2015年は南ア
フリカ・ダーバンで開催され、アフリカ諸国からも大勢の研究者が参加し、参加者数
は1000人に達したと聞いています。
 今回の会議は主催者九州大学を中心とした組織委員会によって準備されており、日
本学術会議も主催者の一つになる予定です。今回この世界会議について取り上げたの
は、ICSU(国際科学会議)とISSCの統合という世界のアカデミーの大きな潮流の中の非
常に重要なタイミングでこの会議が開催されるからです。
 ICSUとISSCの組織統合については、学術の動向2017年1月号「国際学術団体の統合
の趨勢」に詳しく書かせていただきました。主として理系の学術分野を横断する組織
であるICSUと社会科学の横断組織であるISSCが統合する事によって、補完的な効果が
期待され、世界的な課題への取り組みが強力になる事が期待されています。統合に向
けて、2016年の10月に開かれた両団体の総会で「基本的に賛成」を可決し、現在統合
に向けた具体的な検討が急ピッチで進められており、2017年の10月に台北で開かれる
両団体の総会で、統合承認の最終的な投票が行われます。そして、計画されたタイム
スケジュールでは2018年10月よりも前のタイミングに統合新組織の設立総会が開かれ
る事になっています。このスケジュールに照らして考えると、福岡でのWSSFは両組織
の統合直前のタイミングで開催される事になります。この機会に新組織の設立に関わ
るイベントを行おう、という動きもあり、日本学術会議としても対応していく必要が
あると考えています。
 ところで、WSSFの今回のテーマはSecurity and Equality for Sustainable Futures
で、持続可能な未来をめざして、幅広い分野の研究発表をこれから募集します。まず
第一歩として、セッション提案の募集を2017年6月に始める予定になっており、会議
のウェブサイトが開設されています(http://www.wssf2018.org/)。
 日本で開催されるこの世界大会に、多くの人文・社会科学に携わる方々が積極的に参
加される事を願っています。

 
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SCJ Member Forum (会員・連携会員専用掲示板)
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http://www.scj.go.jp/index.html

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 以下、第242回幹事会の概要となります。

◎第242回幹事会(平成29年2月24日(金)13:30~17:30)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 「委員会の分科会等の設置提案をする際に用いる付属様式等について」の一部を
改正することを決定しました。
(2) 「部が直接統括する分野別委員会合同分科会について」の一部を改正することを
決定しました。
(3) 「日本学術会議アドバイザー等について」の一部を改正することを決定しました。
(4) 「日本学術会議の行う国際学術交流事業の実施に関する内規」の一部を改正する
ことを決定しました。
(5) 分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件)および小委員会委員
(新規1件)を決定しました。
(6) 提言「人口減少時代を迎えた日本における持続可能で体系的な地方創生のために」
について、地域研究委員会人文・経済地理学分科会石川委員長及び松原幹事より説明
があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(7) 提言「学術の総合的発展をめざして―人文・社会科学からの提言―」について、
第一部人文・社会科学の役割とその振興に関する分科会佐藤委員長及び三成幹事より
説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(8) 日本学術会議協力学術研究団体を指定することについて決定しました。
(9) 地区会議運営協議会委員の追加について決定しました。
(10) 平成29年度代表派遣実施計画の決定及び実施計画に基づく4-6月期の会議派遣者
の決定について決定しました。
(11) 平成28年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することについて決定しま
した。
(12) 「フューチャー・アース評議会、関与委員会、科学委員会合同会合」に会員を派
遣することについて決定しました。
(13) 日韓アカデミー若手科学者会合へ若手アカデミー会議委員を派遣することについ
て決定しました。
(14) ラオス、ブルネイの学術機関等との会合へ会員を派遣することについて決定しま
した。
(15) 平成30年度共同主催国際会議候補の追加について決定しました。
(16) 平成31年度共同主催国際会議候補の決定及び保留について決定しました。
(17) 平成29年度アジア学術会議関連出張計画について決定しました。
(18) 5件のシンポジウム等の開催、2件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として、杉田第一部長から「安全保障と学術に関する検討委員会」の審
議経過の報告及び大西会長から今後の幹事会日程について確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われた。
(1) 定年により退任する会員の連携会員への就任について決定しました。
(2) 分野別委員会における小委員会委員(1小委員会)を決定しました。
(3) 若手アカデミーにおける特任連携会員(8件)の任命を決定しました。
(4) 国際業務に参画するための特任連携会員(1件)の任命を決定しました。