日本学術会議「幹事会だより No.143」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.143
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                           平成29年6月16日発行
                              日本学術会議会長
                                  大西 隆

 今回は5月26日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
4月28日(金)に開催された第245回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
 5月の第2週は、さながら国際会議デーだったらしく、日本学術会議のメンバーも
各地の会議に出かけていました。私も、ベトナム、上海、深センでの会議に誘われて、
結局最初に連絡が受けた深センに行くことにしたのです。深センには、20年ほど前に
行く機会があったのですが、その時は、確かベトナムでの用事が長引いて行けなかっ
たので、初めての地でした。会議の目的は、防災に関する国際会議で、日本での会議
と少し異なったのは災害保険がテーマの一つになっていたことでした。日本であれば、
予防、警報、避難、救助救援、さらに復旧復興などが主要なテーマになるところです
が、保険会社が共催団体となって、テーマにも入っていたのが印象的でした。
 この会議でもう一つ印象的だったのが、“One Road One Belt”という用語が中国
研究者・実務家の発表で連発されたことでした。会議の主題との関係はあまり明確で
なくとも、アジアの地図の上に、結ばれるべき都市を描き込んだ図面も何度も登場し
ました。ちょうど同じ時期に北京で一帯一路サミットと称する、60カ国からなる国
際会議が開催され、習近平主席が構想の内容を説明することになっていたのです。深
センでの会議は、直接の繋がりはないものの、最直近に行われる国際会議ということ
で、中国人の発表者が意識して一帯一路構想を盛り込んだようです。
 海外の研究機関に席を置く中国人の研究者の一人は、「中国では地域間格差が社会
問題となっている。しかし、その先の交流がなければ国境へ向かって道路や鉄道を充
実させることに熱心になる人はあまりいない。そこで、その先の国々との交流を展望
する一帯一路構想が登場した。構想では、中国の辺境の地は、その先の国々との交流
の橋頭堡という位置付けになるので、インフラ整備の価値が増す」、というような説
明をしてくれました。周辺地域を超えて四通八達する交通ネットワークができれば、
そのルートの防災も重要なテーマとなるでしょう。
 防災は、損害を与える自然災害を防いだり、軽減したりすることなので、発展的な
意味が少ないと受け取られがちです。それを補う意味で、一帯一路構想とワンセット
にして論じられたという意味もあったようです。一帯一路構想は中華思想ではなく、
互恵的な思想によって支えられていると中国は主張しています。会議でも中国の発表
者は限定な役割をもたせていたように思いました。日本やアメリカといった一帯一路
構想の周辺に当たる国々も参加して、これらの地域の国際間交通ネットワークが拡充
へのインフラ投資が行われることは、もちろん歓迎するべきことです。そのことが、
学術の交流を促すとも期待できます。構想の押し付けにならず、互恵主義で地域の各
国・各都市が発展していく道を探っていくための議論が始まったということかもしれ
ません。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 5月25日(木)、26日(金)の二日間に渡り、日本科学技術振興機構(JST)主催、学
術会議共催により、日本初開催となるジェンダーサミット10(GS10)が、東京、一橋
講堂にて行われました。参加登録者数は600名を超え、参加者の国籍も23か国。大き
なホールが、ジェンダーバランスのとれた(!)聴衆で埋まりました。開会の部
(Opening Welcome Address)の最後には、大西会長が挨拶に立ち、日本の学術(特に
理工学系)における女性研究者の実態、学術会議でのジェンダー平等実現の努力(会長、
副会長の半分が女性であることを含む!)などに言及されました。
 JST副理事の渡辺美代子さん(第三部会員)とともに共同議長を務めた私は、GS10
の企画・準備段階から関わってきたこともあり、ひときわ心に残る二日間を過ごしま
した。ジェンダーサミットという国際的枠組みは、毎回、開催地域をジェンダーの視
点で捉え直す企画が見どころとなっていますが、それを前面に押し出したのが、開会
式典直後に行われた全体セッション1、2です。
 全体セッション1に登壇した浅川智恵子さん(IBMフェロー)は、「アメリカ企業
で活躍する視覚障害を持つ日本人女性研究者」とよく紹介されますが、これらの言葉
に漂うマイノリティ感こそ、情報アクセシビリティ技術におけるイノベーションの鍵
であることは、彼女自身の経験が如実に物語ります。プレゼンテーション機器の巧み
な操作とともに、その大きな存在感は会場を大いに魅了しました。同じセッションで
は、香港大学のAngela Leungさんが近代以降のアジア地域における儒教とジェンダー
認識の関係を問いかけ、京都大学の山極寿一総長(第二部会員)は、専門のゴリラ研究
を通して、人類史より長く広いタイムスパンでジェンダーの問題を捉え直し、21世紀
における「共生」の意味を聴衆に語りかけました。3人が登壇したステージには、
「アジアに視点を置いた日本からの発信とは何か」が交錯していたように感じます。
 それに続く全体セッション2では、日本の科学技術におけるジェンダー平等、それ
が拓く可能性を早くから確信、推進してこられたJSTの濱口理事長の司会で、グロー
バルな課題に挑戦するアジアの女性研究者・技術者が登壇されました。ミャンマー・
アカデミーのDaw Than Nweさん、カンボジアのSeng Momさんは、彼女たちがGS10と
いう場にいること自体によって、われわれに「今見るべき/考えるべき問い」を突きつ
けたのですが、報告内容のユニークさで聴衆の心を鷲掴みしたのは、インドで活躍す
る阿部玲子さんでした。阿部さんは、「オリエンタル・コンサルタンツ・グローバル」
のインド現地法人(Oriental Consultants India)の取締役社長、且つインドでただ
一人の女性土木技師です。地下鉄工事のエンジニアとして、また品質管理のエキスパ
ートとして、首都ニュー・デリーやインド第三の都市バンガロールの地下鉄建設プロ
ジェクトで総監督を務められました。現地の男性労働者たちは、彼女を「マダム・メ
トロ」と呼びます。そんな現地の働く男たちの安全・安心を気遣いながら、彼らの文
化や伝統にも寄り添いつつ、巨大プロジェクト全体を厳しく指揮する阿部さんの様子
は、日本語に近い発音(失礼!)で流暢にあふれ出す彼女の英語からばんばん伝わって
きました。
 岩盤工学を学んだ阿部さんが海外に出ていくきっかけは、日本では「女性には危険
だから」という理由で、女性エンジニアがトンネル工事現場に入ることができなかっ
たから、だとか・・・。アジアの建設現場を仕切る「マダム・メトロ」の活躍は、文
字通り、女性のエンパワメントにこそ世界各地の課題解決の鍵があることを教えてく
れます。
 さて、GS10の6つのテーマ別セッションに関しては、学術会議のジェンダー関連諸
分科会、並びに男女共同参画分科会のメンバーの協力を得て、中身を深めてきました。
私自身は、“Gender Dimensions in Sport”と題して、スポーツにおけるジェンダー
推進を多角的に考えるセッションの座長を務めました。セッションでは、世界経済フ
ォーラムが毎年公表しているジェンダーギャップ指数(GGI、最新の2016年版で日本は
144カ国中111位)とオリンピック・パラリンピックのメダル獲得順位を関連づける国
際比較を試みたのですが、これ自体が前代未聞の刺激的な試行錯誤です。GGIが各国
のスポーツ政策とどうリンクしているかは、とても複雑で一筋縄ではいかない課題で
す。それに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、それ自体は楽しい話題
ではあるのですが、超高齢化社会を迎えつつある日本にとって、スポーツについて考
えることは他にもたくさんあります。だからこそ、鈴木大地・スポーツ庁長官のご登
壇、そして長官がスポーツ行政トップとして口にされたジェンダー平等推進の発言は、
このセッション最大の成果、といえるかもしれません。GS10を終えた翌週の月曜日、
5月29日、(GS10を意識したわけではないでしょうが)スポーツ庁長官は「競技団体
でも女性役員の登用を30パーセントまで高めること」を確認されました。GS10の1週
間ほど前には、日本高校野球連盟が、その歴史上初めて女性理事2名を選出しています。
女性の視点が加わり、スポーツ界のダイバーシティが進むこと、そのなかで女性リー
ダーが育つことが、日本社会全体のジェンダー平等をどのように牽引していくのでし
ょうか。今後をしっかり見守りたいと思います。
 GS10終了後の記者会見では、各セッションでグローバルにあぶり出された日本の現
状に、「不安が深まるばかり」という率直な意見も出されました。ジェンダー平等が進
まなければ、学術界にも産業界にも、国としても、未来がないことは世界中で共有さ
れ、日本でも取組が始まっています。遅々とした歩みとの感はありますが、それでも、
国土も資源も限られ、超少子化・超高齢化の道を突き進むこの島国が凛として生き抜
くためには、ジェンダー平等を糸口とする以外ないことも事実です。
 問題は、常に祭りの後――学術会議のジェンダー関連諸分科会、並びに男女共同参
画分科会を中心にGS10の検証作業を行い、第24期につなげていきたいと思っています。
関係する会員、連携会員の皆様、どうかよろしくお願いいたします。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 毎年開催されるサミットに合わせて、サミット開催国のアカデミーが開催するGサ
イエンス学術会議が今年も開かれました。
 今回はイタリア国立アカデミー・リンチェイの主催で、3月23日から25日にかけて、
共同声明執筆のための会合がローマにて開催されました。今回のテーマは、
(1)「文化遺産:自然災害に対するレジリエンスの確立」
(Cultural heritage: building resilience to natural disasters)、
(2)「人口高齢化における神経変性疾患の課題」
(The challenge of neurodegenerative diseases in an aging population)、
(3)「新しい経済成長:科学、技術、イノベーション及び社会資本の役割」
(New economic growth:
the role of science, technology, innovation and infrastructure)
の3つでした。
それぞれの課題に対し、大窪健之立命館大学教授、鳥羽研二国立長寿医療研究センタ
ー理事長、宮川努学習院大学教授の方々に専門家としてご尽力いただきました。
 例年と同じように、まずテーマ案について主催アカデミーから打診があり、ついで
第一次ドラフトが送られてきました。日本側では前記の専門家の方々、日本学術会議
内の関連する委員会、関連省庁への意見照会を行い、コメントをとりまとめて主催者
側に送りました。その後、各国からのコメントを参考にしてイタリア側で作成した第
二次ドラフトが到着し、それに対してまたコメントをとりまとめてイタリアに送付、
その後作成された第三次ドラフトに基づき前述の執筆者会合が開かれました。
 そして、若干の修正を経て確定した3つの声明をもとにして、5月26-27日開催の
G7タオルミーナ・サミットに約一ヶ月先立つ形で、G7 Science Conferenceが5月
3日にリンチェイで開かれ、私が参加して来ました。この会議では、3つの声明の紹
介に加えてアカデミーの役割に関する発表がG7各国のアカデミーとアカデミーの国際
組織からなされ、学際的、超学際的活動をアカデミーがどのように活性化するか、と
いうテーマで日本学術会議からの発表を私が行いました。この会議の中で、イタリア
の経済・財務大臣および文化遺産大臣に声明が手渡されました。更に、同日夕刻に大
統領府において、マッタレッラ大統領への声明手交式が行われました。
 G7各国の首脳に声明をほぼ同時に手渡すというのがG7アカデミー間の理想的合意
ですが、実際には各国首脳の予定等によって若干ずれ込みます。わが国においては、
大型連休後の安倍内閣総理大臣の日程と調整の上、5月11日に大西会長、私、および
声明作成会議に参加いただいた専門家の方々で都合のつく方に参加いただき、大西会
長から総理に手交しました。
なお、声明の詳細は http://www.scj.go.jp/ja/int/g8/index.html に示されています。
 今年はもう一つ、類似のアカデミー間の共同作業として、今年7月に開催されるG20
に先だって、主催国であるドイツの科学アカデミー・レオポルディーナが声明の作成を
企画しました。テーマは「世界の健康を改善する:伝染性及び非伝染性疾患と戦うため
の戦略と手段」 (Improving global health:
strategies and tools to combat communicable and non-communicable diseases)で、
Gサイエンスと同様の手順を経て、本年1月末に共同声明の執筆会合が開かれ、大内
尉義虎の門病院院長および岡部信彦川崎市健康安全研究所所長のお二人に専門家として
声明案の作成に携わっていただき、1月末の執筆者会合に参加いただきました。この声
明は本年3月22日にドイツにおいて、メルケル首相に手交されました。
 共同声明の概要、全文はhttp://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/division-13.html
あります。
 このようなアカデミーの国際協力は、国際的な意思決定の場に科学的な根拠をもって
問題の指摘と解決策を提案するものです。これは、世界的に取り組む課題へのアカデミ
ーの貢献の姿の一つの例だと考えており、今後も力を入れていきたいと考えております。

 
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SCJ Member Forum (会員・連携会員専用掲示板)
http://www.scjbbs.go.jp/bbs/index.php?sid=a2c3ea40e52950b0a4c8409bd62cdaff
ログインには、会員・連携会員に郵送でお送りしたユーザー名とパスワードが必要です。

日本学術会議HP
http://www.scj.go.jp/index.html
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 以下、第245回幹事会の概要となります。

◎第245回幹事会(平成29年4月28日(金)13:30~17:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 「日本学術会議の運営に関する内規」の一部を改正することについて、所要の
修正を行った上で決定しました。
(2) 「日本学術会議の行う国際学術交流事業の実施に関する内規」の一部を改正す
ることについて決定しました。
(3) 「国際委員会運営要綱」の一部を改正することについて決定しました。
(4) 科学と社会委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件)および分科会
委員(新規1件)を決定しました。
(5) 分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置2件)および分科会委員
(新規1件)を決定しました。
(6) ワイルドライフサイエンス分科会の地方開催について決定しました。
(7) 提言「子どもの動きの健全な育成をめざして」について、健康・スポーツ科学
分科会寒川副委員長及び宮地幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行う
ことを条件に承認しました。
(8) 提言「地名行政の統合強化と地名委員会の設置」について、IGU分科会春山委
員長及び同分科会地名小委員会田邉副委員長より説明があり、審議の結果、所要の
修正を行い、再度の幹事会審議を要することとしました。
(9) 平成29年度代表派遣について、実施計画の変更、追加及び派遣者を決定するこ
とについて承認しました。
(10) 第17回アジア学術会議へ会員等の派遣及び外国人を招聘することについて承
認しました。
(11) ブルネイの学術機関等との会合へ会員を派遣することについて承認しました。
(12) ベルモントフォーラムへ会員を派遣することについて承認しました。
(13) 14件のシンポジウム等の開催、1件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として、今後の幹事会及び総会の開催日程について確認が行われま
した。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 科学と社会委員会における分科会委員(特任連携会員)(1分科会)を決定し
ました。
(2) 分野別委員会における小委員会委員(2小委員会)を決定しました。
(3) 国際業務に参画するための特任連携会員(1件)の任命を決定しました。