日本学術会議「幹事会だより No.144」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.144
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                           平成29年7月7日発行
                              日本学術会議会長
                                  大西 隆

 今回は6月23日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
5月26日(金)に開催された第246回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
 日本学術会議は会員と連携会員からなる研究者の組織と事務局とで構成されて
います。会員・連携会員には任期がありますが、トータルでは結構長くメンバー
を務めることが多いことになります。一方で、事務局は、日本の公務員制度の常
で、2―3年、場合によってはもっと短く交代していきます。このサイクルは、
やはり短すぎるという感じです。日本学術会議のアウトプットの一つは提言や報
告です。これらは3年程度、場合によってはもっと長く審議してまとめることが
多いので、それらの名簿に紹介される関係事務局職員は同一ポストの方でも、前
任者、前々任者という形で複数人が名を連ねることが少なくありません。日本学
術会議は政府機関なので、こうした短期の人事異動はある程度止むを得ないとい
う前提で、事務局の役割を再考してみたいと思います。
 日本学術会議は、省庁の仕事で言えば審議会ばかりが集まったような組織です。
審議会であれば、諮問・答申という形で、テーマは省庁側から与えられて、資料
も提供されて委員が審議に当たることが通例で、場合によっては、結論の方向付
けも省庁の側が行うこともあるというのが経験的に理解していることです。
 しかし、日本学術会議では、テーマも、多くの資料も、議論の方向も委員であ
る会員・連携会員が決めるので、事務局の役割は限定されたものとなります。そ
こで、事務局の役割は何かという点は、これまでの繰り返し議論されてきたよう
です。恐らく、行政の経験から、十分な議論が尽くされていない分野、行政部局
では種々のしがらみや経緯の中で、きちんと取り上げられていない分野があるこ
とを事務局は把握しているのではないかと思います。そうした行政実務の経験を
生かして、日本学術会議で取り上げるべき課題などを提起することを事務局がも
っと行ってもいいのかもしれません。日本学術会議が事務局をこれまで以上に活
用する余地があるように思います。
 もちろん、折衝や連絡、あるいはイベントの切り回しが業務の重要な一角を占
める国際業務や、文字通り会員・連携会員の活動を支援する管理業務などのよう
に、事務局の役割が独立して明瞭に位置付けられる活動も少なくありません。審
議のための諸会議の設営も重要な役割です。しかし、責任意識が強く、きっちり
した仕事をするという美徳を持った我が国の国家公務員が事務局を支えているの
で、行政実務で懸案となっていたり、そうなりそうな課題の発掘など、日本学術
会議にとっての審議テーマ設定の場面においても、会員・連携会員と事務局が協
力して力を高める余地がありそうな気がしています。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 ついにやってきました! 提言等、意思の発出ラッシュの時期です。6月の幹
事会では、12件の提言・報告が提出され、それぞれについて熱心な審議が行われ
ました。
 23期の終わりが見えてきたこともあり、会員、連携会員の皆様にとって、目下
最大の関心事(のひとつ)は、提言等の作成と発出にあると思われます。作成母
体となる委員会、分科会にとって、23期の3年間に何を考え、何を議論してきた
かを示す大切な機会です。
 今後、臨時日程を含め、9月末までに予定されている6回の幹事会では、皆様
から提出された提言等の審議が大きな仕事になります。特に政府や社会、国民と
の接点を預かる私にとって、委員会や分科会から発出される提言等の「最初の読
者」であることは、何よりの重大任務です。
 科学と社会委員会のもとに置かれた課題別委員会からの発出については、私自
身が直接査読に当たり、気になる点があれば、幹事会への提出以前に修正等をお
願いできるため、幹事会では、科学と社会委員会の査読とは「別の読み」が気に
なります。一方、各部・各分野別委員会に属する分科会等からの提言・報告につ
いては、各部での査読を終えた後に幹事会メンバーに発信されますので、査読時
間がきわめて限られており、しかも、提言等の多くが専門外であるため、IT等を
利用して大まかな内容把握に努めながら、査読に(文字通り)汗を流します。
 「査読に汗を流す」って、大げさ・・・ではありません。学術会議からの意思
の発出は、「専門家以外に理解できなくてもいい/仕方ない」ものではないから
です。
 提言等が「政策への反映」を目指すものである以上、それなりの「わかりやす
さ」が求められます。「わかりやすさ」とは、簡単に言うこと、ではありません。
提言等における「わかりやすさ」とは、何がどう問題なのか、学術会議はその問
題とこれまでどのように向き合ってきたのか、そこに今回どのような具体的な内
容を付け加えて、その問題をどの方向に展開しようとするのか――こうした「流
れが読めること」だと、私は考えています。私自身、専門用語の隙間から、そう
した流れを読もうと思いつつ、提言等に向き合います。政府や社会、国民に広く
知ってもらわなければ、せっかくの提言等がもったいない――。
 それゆえに、会員、連携会員の皆様、今一度、作成に当たっては、上記、議論
の流れを確認するとともに、それを一番読んでもらいたい相手を含めて、その提
言等が発出された後の「ゆくえ」を意識してみてください。提言については、発
出から1年後をめどにインパクト・レポートの提出をお願いしていますが、23期
の終わりを見据えた今、「提言等のゆくえ」は来期への申し送り事項でもありま
しょう。23期は終わっても、学術会議の活動は(不滅ではないにせよ)まだまだ続
くのですから・・・。
 今年も亜熱帯を思わせる暑い季節がめぐってきました。皆様の思いが詰まった
提言・報告等が読んでもらいたい方々に届くように、発出後の成果も願いながら、
「最初の読者」としていい汗をたくさん流そうと思います。よろしくお願いいた
します。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 例年行われているアジア学術会議(SCA)の第17回会議が、6月14-16日の3日間、
マニラにて開かれました。今回のテーマは、
Science, Technology, and Innovation for Inclusive Development
(包摂的な発展のための科学技術とイノベーション)でした。ご存知のとおり、
日本学術会議はSCAの事務局を務めており、会議開催についてサポートしています
が、主に企画をし、費用を調達するのはホスト国です。フィリピン側では
National Research Council of the Philippines (NRCP)が
今回の企画に当たりました。13の国/地域から450名を超える参加者がある盛況で、
基調講演2件、Plenaryセッション6件、並行セッションでの発表が約120件、さら
にポスターセッションでの発表が約280件あり、これらが、フルに3日間かけて行
われました。言葉のハンディキャップがない事も一つの理由かもしれませんが、
地元フィリピンからの参加者も多く、様々な年齢層の研究者や実務者が多数参加
しました。日本からも多数の参加者がありました。
 ここで、発表論文の分野の分布を示すために並行セッションのテーマを見ると、
それらは、
  (1)Re-engineering Research
(in the Humanities, Social Sciences and Governance and Education)
towards Inclusive Growth
  (2)Eco-environmental Studies and Ecological Engineering
  (3)Human Health and Biotechnology
  (4)One Health: Connecting Human, Animal, and Ecosystems Health
  (5)Gender Integration and Mainstreaming in S&T Innovations
  (6)Disaster Risk Reduction of Natural Disasters
caused by Climate Change, Earthquake and Tsunami
 となっています。このことから分かるように、人文社会科学系も含む広いテーマ
の発表が行われました。
 これとは別に、日本学術会議が企画し、フィリピンで行われているさまざまな国
際共同研究を紹介するJoint Project Workshopが開催されました。
 またFuture Earthについては、フィリピンにおけるFuture Earthの活動が紹介さ
れた後、特に大気環境と健康の問題にスポットを当てる形でパネルセッションが行
われ、6件の報告と討議がなされました。
 最後に、以下の6項目を含む宣言が出され、活況のうちに閉幕しました。
宣言の内容は
  (1)多数のステークホルダーの協働の促進
  (2)研究パートナーシップと国際協働の強化
  (3)人間と持続可能な開発のための研究とイノベーションの活用
  (4)レジリアントな社会の重要性
  (5)ジェンダーの平等性とエンパワーメントに向けたコミットメント
  (6)研究倫理、です。
 来年のSCA会議は日本で開催する運びとなりました。まだ詳細は決まっておりま
せんが、皆様のご支援をお願いいたします。
 
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 以下、第246回幹事会の概要となります。

◎第246回幹事会(平成29年5月26日(金)13:30~17:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 科学と社会委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件)および分科会
委員(新規1件)を決定しました。
(2) 分野別委員会における委員会(追加1件)及び小委員会委員(新規1件・追加
1件)を決定しました。
(3) 日本学術会議協力学術研究団体を指定することについて決定しました。
(4) 平成29年度代表派遣について、実施計画に基づく7-9月期の会議派遣者を決定す
ることについて承認しました。
(5) 平成29年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することについて承認し
ました。
(6) 報告「飼育動物の安定的利活用を目指す畜産学の特性とその充実を図る教育・
研究課題」について、畜産学分科会佐藤委員長、柏崎委員より説明があり、審議の
結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(7) 報告「生産農学における学部教育のあり方について」について、農学分科会大
杉委員長、奥野委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に
承認しました。
(8) 提言「自動運転のあるべき将来に向けて―学術界から見た現状理解―」につい
て、工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会永井副委員長、須田幹事
より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(9) 報告「生態学の展望」について、生態学分科会吉田副委員長より説明があり、
審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(10) 提言「若者支援政策の拡充に向けて」について、社会変動と若者問題分科会
本田委員長、遠藤委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行い、再度の幹
事会審議を要することとしました。
(11) 16件のシンポジウム等の開催、1件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として、第174回臨時総会、今後の幹事会及び総会の開催日程につ
いて確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 科学と社会委員会における分科会委員(特任連携会員)(1分科会)を決定し
ました。
(2) 分野別委員会における小委員会委員(2小委員会)を決定しました。
(3) 国際業務に参画するための日本学術会議外国人アドバイザー(1名)の任命を
決定しました。