日本学術会議「幹事会だより No.145」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.145
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                           平成29年7月25日発行
                              日本学術会議会長
                                  大西 隆

 今回は7月14日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
6月23日(金)に開催された第247回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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  会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
 2017年9月で私を含めて半数の会員が会員任期を終えます。ただ、日本学術会議
外部の動きは、こちらの任期制などの事情とは無関係に進んでおり、可能な限りそ
れに対応していかざるを得ません。特に、国際活動にはこのことが当てはまります。
 その一つが、SCA(アジア学術会議)です。2018年には、毎年行われてきたシン
ポジウムと、2年一度の総会が、バングラデシュで開催されることになっていまし
た。しかし、最近のバングラデシュ情勢を考えて、バングラデシュ開催を数年遅ら
せて、来年は日本で開催することが6月のマニラでのSCA理事会で決定されました。
例年多数の研究成果発表も行われるSCAなので、是非成功させたいと考えています。
事務局長の吉野博先生(第三部会員)をはじめとしてSCA関連の役割を担っている
会員・連携会員はできるだけ継続的に担当していただくとともに、交代する担当者
はバトンタッチをスムースに行って、準備が中断しないようにしたいと思います。
 先日の幹事会では、もう1件、ICSU(国際科学会議)とISSC(国際社会科学評議
会)の合併に伴い新組織設立総会が、今年10月に台北で開催されるISCUとISSCの合
同総会で、投票によって決定されるとの連絡が両組織会長からあったことを紹介し
ました。候補地は、福岡とパリです。福岡については、もともと、ISSC主催で日本
学術会議も主催に加わるイベントであるWSSFを開催することが決まっていました
(2018年9月末)。ちょうど新組織の設立総会が、ほぼこの時期を目途に開催され
る見通しとなったことから、ISSC側からメンバーの利便性を考えて、同時期に連続
的に開催できないかという要望があったものです。パリはICSUとISSCの事務局が立
地しているという縁があるのですが、会議時期の集約も現実的には大きな利点なの
で、要望に応じて、福岡での開催が可能であることを両国際組織に提案してきたも
のです。ICSUの総会開催地は、毎回、前総会で投票によって決められているので、
今回もその慣例に従って台北での投票となったようです。投票ですから不確定要素
を伴うことは言うまでもありません。新組織の設立総会は文字通り画期的なイベン
トであり、意義深いと考えて、福岡開催提案の準備を始めています。こちらについ
ても、会員・連携会員、執行部のバトンタッチを適切に行って、対外活動が滞らな
いようにしたいと思います。

〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
 月に一度の幹事会開催を契機に発出される「幹事会だより」は、私にとって、一
か月間の学術会議関連の活動をふりかえる良い機会となってきました。もっとも、
今回の「たより」は少し事情が違います。6月の幹事会だより執筆後、7月14日の
臨時幹事会まで(さらに、7月28日の臨時総会中に予定されている幹事会まで)イ
ンターバルが小刻みで、しかも、大学の前期講義終了、続く前期試験関連スケジュ
ールに追われる時期と重なったことで、「さて、何を書こうか・・・」といつも以
上に考えてしまいました。
 思案のあげく、思い浮かんだのは、やはりこの時期特有の話題――次期への引継
ぎ、でした。いやはや・・・。前回の「幹事会だより」の冒頭、私は「提言等、意
思の発出ラッシュ」と記しましたが、それと表裏一体を成すのが、「申し送りラッ
シュ」だからでしょうか。 
 過日行われた「国際人権対応分科会」(後藤弘子委員長)でも、委員全員が「24
期に何を申し送るか」に知恵を絞りました。それは、「23期の3年間とは何だった
のか」をふりかえることでもあり、その中身は委員それぞれなのでしょうが、共通
して再確認したことがいくつもありました。そのひとつが、2014年から2017年とい
う3年間のうちに、それ以前にもまして、本分科会が考えるべき科学者・学者の人
権の「射程」が大きく変わってきたことです。
 これまで、「国際人権分科会」(そして親委員会である「科学者に関する国際人
権問題委員会」)では、「国際人権ネットワーク」から出される人権侵害情報への
対応基準――具体的には、学術会議として、人権侵害の関係者(多くの場合、当該
政府やその関係部局)に異議申し立てや救済を求めるアピール文を発出するかしな
いかの基準を、「逮捕・拘束・拘留といった具体的な人権侵害が起きた原因と、科
学者・学者の専門分野、研究活動がどのように関わっていたか」に置いてきました。
専門分野とは無関係に、市民としてやむにやまれず行動を起こした科学者・学者の
逮捕・拘束事例は、「民主化」運動をはじめ、世界各地で確認できます。その場合、
科学者・学者の専門性と逮捕・拘束の因果関係は必ずしも明確ではなく、そうした
事例については、学術会議としてアピール文の発出は控えてきました。海外の科学
者コミュティの多くも似たような対応をとっています。
 しかしながら、過日の分科会で議論されたのは、「上記の基準でいいのか」とい
うこと――科学者の身柄拘束自体に研究活動が直接関係していない場合でも、逮捕
後の拘留期間が長引けば、すなわち、研究室や研究資料・情報等の研究環境から切
り離される期間が長くなれば、「学者生命」が危うくされる、そこへの配慮が必要
ではないか、ということでした。今年3月、アメリカ大統領が署名したイスラム圏
6カ国に対する入国制限は、「研究の自由とは何か」とともに、移民・難民のみな
らず、学術連携や共同研究等を含めて、国境を超える科学者・学者に、「暴力とは
何か」を考え直す機会にもなったと思われます。暴力のありようを進化、深化、多
様化させつつある現代世界で、科学者・学者が守るべき人権の「質」とは何か――
この問題は、「内政干渉にならずに」とは別に、科学者・学者に共通する問題とし
て、今後学術会議で継続審議してもらいたい論点です。
 次期への申し送りを考えることは、既存・既成(だと思ってきた)事実を見直す
ことでもあり、その言語化は、委員会や分科会の意思と意識を語ることに他なりま
せん。国際人権対応分科会は特に提言等意思の発出をいたしませんが、「申し送り」
という形での意思の表現もあるのだと、分科会の議論に加わって感じました。
 学術会議のみならず、人間の意思というものは発出しないと伝わりませんが、そ
の形はさまざまです。「申し送り」を含めて、各委員会・分科会の活動に見合った
意思の発出、その確認をよろしくお願いいたします。
 7月臨時総会が迫ってきました。第23期として最後の総会です。その意味でも、
皆様、上記重ねてよろしくお願いいたします。

〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
 23期も終わりに近づいてきました。私自身は、個別学術分野の国際活動に直接関
わるというよりは、横断的な学術団体(ICSU, IAPなど)の交流、毎回テーマが変
わるGサイエンスなどや二国間交流、それぞれの専門研究者の国際活動へのコーディ
ネートを担当してきました。言い換えれば、それぞれの学術分野に対しては、専門
とされる会員、連携会員の皆様方、さらには特任連携会員の皆様に日本学術会議の
国際活動を委ねる形になっており、ここに改めて感謝致します。
 これらの方々にお願いした、というよりは科学者として自主的にしていただいて
いる貢献にはいろいろなタイプのものがあり、国際的な学術団体の運営に携わられ
ている方もおられましょうし、専門分野の国際共同研究を深く掘り下げられている
方もおられるでしょう。
 日本学術会議としては、加盟している国際的な学術団体の総会、理事会等へ参加
される方には代表派遣として行っていただいております。しかしながら、予算の制
約があり、参加会議の制約、一つの会議に派遣される人数の制約、遠距離出張での
エコノミークラスへの制限など、参加いただく方々には制約が多くて心苦しく感じ
ております。非常に多数の方々に務めていただいた代表派遣については、その過去
10年程度の会議出席報告を、代表派遣会議出席報告として公開しています
( http://www.scj.go.jp/ja/int/haken/index.html )。
読んでみると、実に多様な規模、多様な会議形式、多様な議論内容の報告がなされ
ています。報告をいただくときには、ある程度標準的なフォーマットで作成してい
ただいていますが、基本的には書く内容は報告いただく方におまかせしていますの
で、所感を含め詳細に書かれる方、主観を入れずに淡々と書かれる方、写真をつけ
られる方、などさまざまで、それは良いと考えています。
 このような報告を作成される立場としては、「一体誰が読むのか」という疑問を
持たれることもあるでしょう。しかし、後から読み直すとそれぞれの学術団体の抱
えている問題の違い、開催された会議の性格などがわかり、興味深いものがあり、
また国際活動の戦略を考える上でも有用です。この報告は、国の予算を用いて行っ
た出張についての説明責任を果たす、という面が対外的にあります。しかし、科学
者の皆様にとって重要なのは、自分のご専門以外の分野でも活発な研究や教育の交
流がなされていることを知る機会が得られることです。是非ご覧になって、ご自分
の分野の活動へのヒントを得ていただければと思います。また、ご覧いただくほう
が、報告を作成する側にとっても作りがいがある、というものです。
 出張者に報告いただいてから公開されるまでに時間を要していることもあり、ま
だ報告が公開されていない会議も結構あるようです。私の出張分については、抜け
た穴を埋めていきたいと考えています。未報告の方がおられれば、今からでも事務
局宛に報告書を出していただければ大変ありがたく存じます。
 このような記録の積み重ねが皆様個々人と日本学術会議にとって有用なものにな
ることを願っています。
 
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 以下、第247回幹事会の概要となります。

◎第247回幹事会(平成29年6月23日(金)13:30~17:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 国際委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件)および分科会委員
(新規1件)を決定しました。
(2) 分野別委員会における委員会(追加1件)及び分科会委員(追加1件)を決
定しました。
(3) 平成29年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することについて承認
しました。
(4) 提言「若者支援政策の拡充に向けて」について、社会変動と若者問題分科会
の本田委員長より説明があり、審議の結果、承認しました。
(5) 提言「学術振興の観点から国立大学の教育研究と国による支援のあり方につ
いて」について、学術振興の観点から国立大学の教育研究と国による支援のあり
方を考える検討委員会の福田委員長及び三成幹事より説明があり、審議の結果、
承認しました。
(6) 提言「新たな情報化時代の人文学的アジア研究に向けて―対外発信の促進と
持続可能な研究者養成―」について、アジア研究・対アジア関係に関する分科会
の月脚幹事及び川島幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを
条件に承認しました。
(7) 提言「科学的発見に資する可視化に向けて」について、計算科学シミュレー
ションと工学設計分科会の萩原副委員長及び小山田委員より説明があり、審議の
結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(8) 提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」について、地理教育
分科会の碓井委員長及び井田委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行
うことを条件に承認しました。
(9) 提言「我が国の地球衛星観測のあり方について」について、地球・惑星圏分
科会の佐藤幹事、同分科会地球観測の将来構想に関する検討小委員会の中村委員
より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(10)提言「材料工学から見たものづくり人材育成の課題と展望」について、材料
工学将来展開分科会の中嶋委員長及び中野委員より説明があり、審議の結果、所
要の修正を行うことを条件に承認しました。
(11)提言「音声言語および手話言語の多様性の保存・活用とそのための環境整備」
について、科学と日本語分科会の木部委員及び酒井委員より説明があり、審議の
結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(12)提言「災害軽減と持続可能な社会の形成に向けた科学と社会の協働・協創の
推進」について、地球・人間圏分科会の氷見山委員長及び春山副委員長より説明
があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(13)報告「持続可能な都市農業の実現に向けて」について、農業生産環境工学分
科会の大政委員長及び荊木幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行う
ことを条件に承認しました。
(14)報告「パリ協定を踏まえたわが国のエネルギー・温暖化の対策・政策の方向
性について」について、エネルギーと科学技術に関する分科会の鈴置委員長及び
秋元幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しま
した。
(15)提言「精神・神経疾患の治療法開発のための産学官連携のあり方に関する提
言」について、脳とこころ分科会の斉藤幹事及び池田幹事より説明があり、審議
の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(16)平成29年度第3四半期における学術フォーラム及び土日祝日に講堂を使用す
るシンポジウム等につき決定しました。(1件の学術フォーラム及び1件のシンポ
ジウム等)
(17)14件のシンポジウム等の開催、4件の国際会議の後援、4件の国内会議の後援
を決定しました。
(18)「Statement:Statement on Research for Military Security」として、3
月24日公表の声明「軍事的安全保障研究に関する声明」について、英訳版を決定
しました。
(19)日本学術会議の活動状況等に関する年次報告(平成28年10月~平成29年9月)
の作成について決定しました。
3 その他事項として、第175回総会、今後の幹事会及び総会の開催日程につい
て確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 補欠の連携会員候補者について決定しました。
(2) 若手アカデミーにおける分科会委員(特任連携会員、2分科会)を決定しま
した。