日本学術会議「幹事会だより No.147」について
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幹 事 会 だ よ り No.147
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平成29年9月29日発行
日本学術会議会長
大西 隆
今回は9月22日(金)に開催された幹事会で、議事要旨が確認されましたことを受け、
8月17日(木)に開催された第250回幹事会及び8月31日(木)に開催された第251回幹事会
の議事概要を御報告いたします。
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会長・副会長より
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〔 会長 大西隆 〕
最後の幹事会だよりとなりました。6年間で一番ありがたかったことは、幹事会議長
として提言や報告に関する審議の最終取りまとめ役となり、それらに目を通すことにな
ったことです。繁忙期には熟読とはいかないものもありましたが、まさに日本学術会議
の幅広い対象範囲を反映して、様々な分野における議論のエッセンスに触れることがで
きたのは、自分にとって有意義な体験でした。提言等の数は6年間で、250編ほどにな
りました。これらの審議に参加された会員・連携会員の皆様に改めて感謝申し上げます。
自分自身でも、多数の委員会に参加しました。そうした折に、熱心な傍聴者がいるこ
とに気づきました。そういう方と話す機会があると、議論を聴いていると勉強になると
いう感想を伺うことが少なくありませんでした。取り上げるテーマに関連して、我が国
を代表する研究者が様々な角度から、自由闊達に議論するので、贅沢な傍聴なのかもし
れません。
会長として、時に感じたのが、社会からの期待の強さと、日本学術会議ができること
のギャップです。社会を構成する人々やグループは、日本学術会議に対して様々な要望
や期待を持っています。しかし、会員・連携会員のすべてが非常勤であることもあり、
こうした期待に全部応えるというわけにはいきません。テーマを選択し、そこに議論を
集中させるという方法をとらざるを得ないのです。そうなると議論が十分に及ばない分
野が出てきて、外部から期待外れという不満を聴くことになります。これはやむを得な
いことですが、しかし、そうは言っても重要なテーマを逃さないようにして、社会の関
心にも対応した議論を進めるという姿勢は、堅持するべきものでしょう。この6年間で
は、原発問題や安全保障と学術等、しばらくの間、日本学術会議が議論の対象としてこ
なかった問題を取り上げました。これらのテーマに限らず、苦手を作らずに積極的に取
り組む姿勢を保てば、自分が関わりを持つ分野に日本学術会議が何らかの見解を示して
くれて参考になる、と実感する人が増えて、日本学術会議への信頼や、あるいは少なく
とも関心が高まるはずです。
来期以降も、社会の期待に応えるという視点も重視しながらテーマを選び、活発な審
議を継続させることを期待しています。
〔 政府・社会・国民との関係担当副会長 井野瀬久美惠 〕
9月22日、第23期最後の幹事会が無事終わりました。2014年10月の副会長就任以来、
一度も欠かさず書いてきた「幹事会だより」も、今回で最後となります。これまで読者
となってくださった会員・連携会員の皆様、ありがとうございました。
ふり返れば、あっという間の3年間。その時間をなつかしく思い起こすには少し早い
気がいたしますので、今は、学術会議の最もわかりやすく見やすい活動――提言等意思
の発出について、思うところを書き残しておこうと思います。8月、9月は幹事会が月
に2度行われましたが、その大きな理由も、この時期に集中した提言等の審議にありま
した。このこと自体が、学術会議のあり方を問いかけていると思われます。
23期における提言等意思の発出の最終的な件数は、幹事会審議後の修正作業が今なお
進行中であるため、未確定です。しかしながら、9月22日の最後の幹事会時点で判明し
ている数字によると、23期最後の半年間(2017年4月~9月)に、23期全体の約6割
(公表が確定した91件中55件)が集中しています。しかも、その後半の3か月(2017年
7月~9月)に45件、すなわち約半分が集中しているのです。9月30日までに公表確定
予定の提言等を含めれば、その比率は半分を大きく超えます。
「学術会議からの提言等は、発出すればいいのではなく、それがどれくらい読まれ、
どのような効果を及ぼしたのかの検証である」と、外部評価報告書でも何度か指摘され
ました。22期から続くこの傾向を何とかしたいと思いながら、23期も似たような結果と
なってしまいました。この「最後の3か月集中問題」は、なかなかに手強い。「任期の
終わりに活動の中身をまとめたい」と思う気持ちは変わらない、からなのでしょう。そ
れはよく理解できます。
しかしながら、自戒を込めて申したいのは、学術会議発出の提言等に求められている
のは、外部評価委員の指摘通り、「意思を発出した」という事実以上に、その意思が
「届けたいところに、届けねばならない時期に、きちんと届いたのか」であり、その検
証を通じた次へのステップなのです。その意味でも、学術会議の提言等は学会報告とは
違うのです。
提言等の検証サイクルを図るには、2つの方法がすぐに思い浮かびます。ひとつは、
作成を早めて、同じ期の中で検証サイクルを回すこと。もうひとつは、期を超えて検証
サイクルを機能させる仕組みを具現化すること。そのためにも、発出のタイミングとそ
の対象が、何よりも重要です。何のための提言か、誰に読んでほしいのか、どの省庁な
いしは関係部局の机上資料としたいのか。それを明確化するには、その提言等が扱う課
題の「少し先」を読む必要があります。いや、それ以上に、「少し先を読めなかったこ
との検証」が重要かもしれません。人間は成功事例よりも失敗事例から多くを学ぶ生き
物ですから・・・。
「わかっているよ、そんなこと」とおっしゃる皆様。だからこそ、学術会議が設立当
初から人文・社会科学、生命科学、理学工学という学術の全分野から成る「日本を代表
する学術組織」であることを、その大いなるメリットを、今一度、噛みしめてみてくだ
さい。このメリットは、3つの部をまたぐ機能別委員会や課題別委員会の議論とともに、
提言等の内容にも発揮されます。今期も、「安全保障と学術」「ゲノム編集」「大学等
における研究資金」といった課題に、この分野横断的議論のメリットが反映されている
ように思います。
また、分野別委員会・分科会発出の提言等にも、専門分野以外の目が入る機会があり
ます。各部の査読、そして幹事会での審議です。寄せられる意見のなかには、専門家か
らすると、「それはこの分野の常識。何を質問しているのだろう?」「そこにどんな問
題があるのか?」と、時に腹立たしく、時に訝しく思われることがあるかもしれません。
しかしながら、それこそが日本学術会議から発信する提言等の大きなメリット!情報化
時代の昨今、関心を抱く国民の検索に耐えるためには、できるだけ誤解・誤読を生まな
いように言葉や表現を吟味し、専門知識に裏付けられつつも読みやすくあるための工夫
が必要とされます。また、「エビデンスに基づいて(evidence-based)」が強調される現
在、説得的であるために別の目線・視線を絡めることは、現代的なニーズに応えること
にもなりましょう。
学術誌に書き馴れている多くの会員・連携会員の皆様にとって、各部や幹事会におけ
る「別の目線・視線」は、時に「想定外」かもしれません。それでも、腹立たしさを抑
え、訝しさを抱えながら、まずは対話へと一歩足を進めてください。多様な分野の専門
家から成る学術会議の面白さも楽しさも(そして時として難しさも)、この対話から始
まるのですから。
・・・などと、いつもながら少し熱が入り過ぎたようです。話は尽きませんが、この
あたりで幕引きといたしましょう。
会員・連携会員の皆様には、さまざまな場、さまざまな形で支えていただいた3年間
でした。本当にありがとうございました。今後も連携会員として、学術会議の活動を精
一杯支えていきたいと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。
〔 国際活動担当副会長 花木啓祐 〕
会員・連携会員の皆様のお力添えをいただきまして、まだ仕事は若干残っていますが、
国際担当副会長の任期を全うすることができましたこと、最初に御礼申し上げます。ま
た、国際担当をはじめとした事務局の方々のご尽力、会員・連携会員の方々からは良い
面が見えにくいのですが、感謝しております。
日本学術会議の国際担当副会長として他国の方々と接するとき、私のうしろには日本
の学術界の存在があり、それによって、敬意を持って接していただくことが多々ありま
した。そこには、各分野での優れた研究者の方々、また日本の科学者および日本全体に
対する敬意と信頼があります。また、国内や学術会議内のさまざまな場でも副会長とし
て立てていただきました。自分としては、国内外で専門分野を究め、あるいは科学と社
会のために貢献されてきた方々からそのように重要視されるのは、率直なところ居心地
が悪いことも多々ありました。
しかし、そこでへりくだったり、遠慮をしたりしてみても、それは学術会議にとって
も、誰にとってもプラスではありませんし、わたしもそのような謙虚すぎる言動は苦手
で疲れます。そのため、気持ちは謙虚に持ちながらも、自由に活動させていただきまし
た。もっとも、判断がむつかしいことや、交渉が必要なことは会長にお願いしましたの
で、その点も気が楽でした。
海外のアカデミーとの交流を通じて感じることは、折に触れて申し上げているように、
学術会議が全学術分野を網羅しているという強みです。それは、ある特定の事柄を取り
上げるときに、その専門家が学術会議の中におられる、と言うことに留まりません。提
言、報告を始めとして学術会議が打ち出す方針や声明には、多様な学術分野の考え方が
反映されています。提言や報告の作成に携わられた方は、最後の幹事会の査読段階でま
ったく違う観点の意見が出て、戸惑われた経験をお持ちかもしれません。しかし、この
ように違う観点からチェックするということが、学術会議から出される提言などの妥当
性を高めています。
日本学術会議の国際活動を進める上では、課題も残されています。その一つは、声明、
提言、報告のほとんどが英訳されていないことで、以前から指摘されている課題です。
2013年に作成した声明「科学者の行動規範-改訂版-」のパンフレットの英語版は、各
国アカデミーに参照されています。軍事的安全保障研究に関する声明、人文社会科学に
関する幹事会声明といくつかの提言・報告は英訳されていますが、ほとんどの提言・報
告は読者が国内に留まる形になっています。海外からの問い合わせや交流の場において、
「日本学術会議ではこの問題に関して提言を作成した」と返答したり発言はできるので
すが、お渡しできる英語の文書が全くないという、残念な状況にあります。制度的には
英訳を作ることはもちろん可能なのですが、翻訳のための人材と予算の制約が課題とな
っています。
もう一つの課題は、制度的な問題で、3年毎に会長と担当副会長が同時に交代してし
まうということです。各国アカデミーとの交流では人と人との交流関係が基本となって
いますので、それが断ち切れてしまう感があります。しかしこれについては、国際交流
に関わる人が特定の少数に固定されるのではなく、多くの人が関わり、国内において広
がりを持つというプラスの面も日本の制度にはあると考えております。
最後に、来期も更に活発な国際交流が行われることを期待したいと思います。
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以下、第250回及び第251回幹事会の概要となります。
◎第250回幹事会(平成29年8月17日(木)13:30~17:30)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 「日本学術会議の一部移転について」の幹事会決定案について、一部修正の上
決定しました。
(2) 提言「心理学教育のあるべき姿と公認心理師養成-「公認心理師養成カリキュ
ラム等検討会」報告書を受けて-」について心理学教育プログラム検討分科会の利
島委員長及び健康・医療と心理学分科会の丹野委員より説明があり、審議の結果、
所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(3) 提言「生きる力の更なる充実を目指した家庭科教育への提案-教員養成の立場か
ら-」について家政学分科会の小川委員長、片山委員より説明があり、審議の結果、
所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(4) 報告「「知の統合」の人材育成と推進」について工学基盤における知の統合分
科会の原委員長、鈴木委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを
条件に承認しました。
(5) 提言「社会課題と連携する「総合工学」の強化推進」について総合工学委員会
の渡辺委員長、吉村忍委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを
条件に承認しました。
(6) 提言「生命科学の発展を加速する次世代バイオイメージング科学の研究推進」
について生物物理学分科会の難波委員長、上田幹事より説明があり、審議の結果、
所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(7) 提言「「持続可能な国づくりに向けた知の基盤形成」-学術領域、人材育成、
ガバナンス」について国土と環境分科会の道奥委員長より説明があり、審議の結果、
所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(8) 報告「工学システムに対する社会安全目標の基本と各分野への適用」について
工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会安全目標の検討小委員会の成
合委員長、野口副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条
件に承認しました。
(9) 提言「数理科学と他の科学分野や産業との連携の基盤整備に向けた提言」につ
いて数学分科会の坪井委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うこと
を条件に承認しました。
(10) 報告「放射性元素の移行機構の解明と環境浄化に関する国際共同基礎研究の
推進」について放射性核種による汚染に係る環境浄化の基礎科学に関する委員会の
花木委員長、前川幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件
に承認しました。
(11) 提言「我が国の原子力発電のあり方について―東京電力福島第一原子力発電
所事故から何をくみ取るか」について原子力発電の将来検討分科会の大西委員長、
松岡幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(12) 平成29年度代表派遣について、実施計画の一部を変更することを承認しました。
(13) 6件のシンポジウム等の開催、1件の国内会議の後援を決定しました。
3 その他事項として、今後の幹事会開催日程について確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 国際業務に参画するための特任連携会員の任命を決定しました。
◎第251回幹事会(平成29年8月31日(木)14:00~18:30)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われました。
2 以下の公開審議が行われました。
(1) 提言「我が国におけるがん創薬を目指した基礎研究の推進と臨床試験体制の整
備について」について腫瘍分科会の馬場幹事より説明があり、審議の結果、所要の
修正を行うことを条件に承認しました。
(2) 報告「気候変動に対応する育種学の課題と展開」について育種学分科会の倉田
委員長、西尾幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承
認しました。
(3) 提言「東日本大震災に関する学術調査・研究活動―成果・課題・提案―」につ
いて東日本大震災に係る学術調査検討委員会の岩澤委員長、山川幹事より説明があ
り、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(4) 提言「我が国における医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方」につ
いて医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方検討委員会の五十嵐委員長、
阿久津幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しま
した。
(5) 報告「労働時間の規制の在り方に関する報告」についてワーク・ライフ・バラ
ンス研究分科会の永瀬委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うこと
を条件に承認しました。
(6) 提言「働く世代の生活習慣病予防―健診・保健指導の今後の展開と若年期から
の対策の重要性―」について生活習慣病対策分科会の磯委員長、八谷幹事より説明
があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(7) 報告「社会に貢献する医療系薬学研究の推進」について医療系薬学分科会の望
月委員長、高倉幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に
承認しました。
(8) 提言「超スマート社会実現による健康寿命延伸のための材料戦略-医療を支え
るバイオマテリアル研究に関する提言-」についてバイオマテリアル分科会の塙副
委員長、岸田幹事より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承
認しました。
(9) 報告「環境政策における意思決定のためのレギュラトリーサイエンスのありか
たについて」について環境リスク分科会の秋葉委員長、浅見幹事より説明があり、
審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(10) 報告「情報通信人材育成の連鎖構築について」について通信・電子システム
分科会の津田委員長、吉田副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行
うことを条件に承認しました。
(11) 報告「グローバル化と地方再生のための人材育成―シンクタンク・ネットワ
ーク形成と若者の未来―」について比較政治分科会の小川副委員長より説明があり、
審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(12) 提言「性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―」
について社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会の三成委員長、二宮副委員長
より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認しました。
(13) 日本学術会議協力学術研究団体を指定することを承認しました。
(14) 平成29年度代表派遣について、実施計画に基づく10-12月期の会議派遣者を決
定することを承認しました。
(15) 平成29年度代表派遣について、会議の追加及び派遣者の決定をすることを承認
しました。
(16) 平成29年度フューチャー・アースに関する基本方針に基づく、派遣会議及び会
議派遣者を決定することを承認しました。
(17) 「Future Earth Special Seminar “Science and Communication”(仮)」、
「世界科学館サミット」及び
「Future Earth Strategic Seminar “Future Earth and Communication”(仮)」
の共催及び外国人の招聘について承認しました。
(18) 「フューチャー・アース東京会議」の共催及び外国人の招聘について承認しま
した。
(19) 「地球大気科学国際協同研究計画(IGAC)国際会議準備会合」、「IGAC科学
運営委員会2017」及び「大気組成・化学の観測・モデル会議」の共催及び外国人の
招聘について承認しました。
(20) 8件のシンポジウム等の開催、1件の国際会議・5件の国内会議の後援を決定し
ました。
3 その他事項として、今後の幹事会開催日程について確認が行われました。
4 以下の非公開審議が行われました。
(1) 国際業務に参画するための特任連携会員の任命を決定しました。
(2) 日本学術会議連携会員の辞職の承認を同意することを決定しました。