日本学術会議「幹事会だより No.150」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.150
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                           平成30年1月24日発行
                              日本学術会議会長
                                  山極 壽

 

 今回は12月22日(金)に開催された幹事会で議事要旨が確認されましたことを受け、
11月24日(金)に開催された第257回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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会長・副会長より
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〔 会長 山極壽一 〕
 明けましておめでとうございます。
  今年は日本列島を寒波が覆い、京都でも雪がちらつく正月でした。
  でも今年は戌年。イヌは極寒のアラスカでも酷暑のジャングルでも元気いっぱい人を
導いて活躍します。その精神に倣って、私たちも今年は強い心をもって課題に立ち向かいましょう。
  さて、昨年末に来年度の予算の内示が公表されました。国立大学の運営費交付金等は10,971億円
(対前年度同額)。私学助成(経常費補助)は4,188億円(対前年度13億円増)。リカレント
・職業教育の充実に取り組む大学・専修学校等への支援は30億円(対前年度4億円増)。
大学等奨学金事業の充実として1,063億円(対前年度108億円増)。授業料減免等の充実として
480億円(対前年度45億円増)。科学研究費は2,286億円(対前年度2億円増)。世界トップレベルの
研究拠点形成として70億円(対前年度10億円増)。新規の事業として、卓越大学院プログラム
56億円、Society 5.0実現化研究拠点支援事業5億円、オープンイノベーション促進システムの
整備18億円、官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の推進2.3億円が挙げられています。
全体的に昨年度並か増となっているため、ずいぶん頑張ってくれた印象がありますが、高等教育に
ついては奨学金予算の増があったため、非常に厳しい予算となっています。残念に思うのは、秋の
行政レビューの結果を受けて若手人材支援事業が廃止となったことです。卓越大学院プログラムに
ついても100億円の要求で15件を計上していたのが56億円、10件に減らされました。施設整備費でも
公立学校、国立大学ともに減らされており、私立学校もほぼ前年度並で、今年度の補正予算がついた
とは言え、老朽化の著しい施設をこれからどう維持していくかが大きな課題となりました。
  国が力を入れている予算では、文化芸術関係予算が1,077億円(対前年度35億円増)、
未来社会創造事業(ハイリスク・ハイインパクトな研究開発の推進)に55億円(対前年度
25億円増)が目立ちますが、国家的・社会的重要課題(健康・医療分野研究開発、防災・減災分野
研究開発、省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発)や国家戦略上重要な技術の
研究開発(宇宙航空分野の研究開発、海洋・極域分野の研究開発、原子力分野の研究開発・
安全確保対策等の推進)については昨年度並か微増、微減といったところです。国の財政難を
考えるとこれが精いっぱいのところかと思うのですが、もう少し元気の出る予算をつけて
もらいたいものです。
  大学の運営費交付金を上げずに、競争的資金を導入して大学運営の向上を図るのが最近の
文部科学予算のつけ方ですが、大学間の競争をあおりすぎるとその弊害が出てくると思います。
もともと学問の業績や科学的な発見という栄誉は、科学者コミュニティの中で評価され共有され、
それが社会のために供されることによって成果として認められてきました。しかし、基盤的経費が
削られ、自分の思うような研究環境が得られず、資金の獲得をめぐる競争が激化すると、
研究者としての知識や立場を利用して資金を得ようとする人が増えてきます。社会の共有物で
あるはずの学問の成果が個人の所有物となり、それを囲い込んだり、占有権をめぐって仲間と
争ったりし始めます。そういった事態は研究者同士の連携や協力を阻害し、早く成果を
出そうとするあまり仲間の研究を妨害したり、実験結果を改ざんしたりするなど研究不正が
増加します。何より、資金獲得競争に疲れ果て、チャレンジ精神が低下して、可もなく不可も
ないような研究生活を送ろうとする風潮が助長されるのではないでしょうか。日本の研究力が
近年顕著に落ち始めていると指摘されているのは、こうした過度の競争による弊害が
蓄積しているからではないでしょうか。この事態を打開するには、研究者コミュニティが
もっと力を持ち、大型の予算を獲得し、研究者間の連携のもとに創造的な研究開発事業を
展開しなければなりません。マスタープランの実現がそのひとつですが、今年は他の方策も
考えながら、日本の科学者コミュニティの強化へ向けて検討していきたいと思っています。
  そのためには、日本学術会議が社会へ向けて学術の成果や科学者の意見をもっと積極的に
発出しなければなりません。これからはマスコミ対応や広報の充実を図ろうと考えており、
昨年12月22日に開催された幹事会の後に四役で記者懇談会を開きました。とくに重大なニュースが
あったわけではないのですが、これからも定例で記者会見を開き、学術会議の活動内容を積極的に
提供していこうと思っています。また、1月の幹事会の後には記者との懇親会を予定しており、
記者たちが日本学術会議をどう見ているかについて意見を聞き、互いに理解を深め合おうと
考えています。メディアは社会の重要な窓口であり、公共圏を作る大事な役割を担っています。
記者たちと意見交換することで、日本の科学や科学者が社会からどう評価されているかについて、
われわれも認識を新たにする必要があるでしょう。
  今年1年、どうかよろしくお願いいたします。

〔 組織運営及び科学者間の連携担当副会長 三成美保 〕
 第24期科学者委員会の二大課題は、声明「軍事的安全保障研究に関する声明」と提言
「我が国の医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方」に関する取り組みである。
これらについては、諸大学・研究機関や学協会の協力を仰ぎながら、政府諸機関の動向も見定めつつ、
ていねいな対応を心がけたい。
  科学者コミュニティに関わる個別の課題は、5つの附置分科会で検討する。今期は、
「男女共同参画分科会」「学術体制分科会」「研究資金と研究計画分科会」「学協会連携分科会」
「学術と教育分科会」という5つの分科会を立ち上げた。これらの分科会は、科学者委員会委員
(2~5名)、3つの部から推薦された委員(各部2名)、副会長等が推薦した委員若干名、
若手アカデミーからの推薦委員1名から構成される。それぞれの活動目的に即した幅広い委員構成を
考え、連携会員にも委員として積極的にお入りいただいた。また、今期からはじめて若手アカデミーの
推薦枠を設けた。科学者委員会及び同附置分科会が世代間交流の架け橋になればと願っている。
  2017年12月末、第24期第1回若手アカデミー総会が開催された。若手アカデミーは、45歳未満の
会員・連携会員から構成され、今期の構成員数は65名にのぼる。若手アカデミーには4つの分科会が
存在する。「若手による学術の未来検討分科会」「若手科学者ネットワーク分科会」
「イノベーションに向けた社会連携分科会」「国際分科会」である。総会では新役員が決まり、
体制が整った。若手科学者ならではの視点や問題意識を活かした活動が展開されると期待している。

〔 政府、社会及び国民等との関係担当副会長 渡辺美代子 〕
 明けましておめでとうございます。今年は第24期学術会議にとって、その方向が確定し、
前半の大半を占めるとても大切な年になります。会員と連携会員の皆様との連携を重視しながら
進めていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
  12月22日に開催された幹事会には、会長と副会長3人が初めて揃いました。10月初めに会長と
副会長が決まり、11月までは日程調整が難しかったために全員揃うことができませんでしたが、
これからは基本的に幹事会には4人が揃うこととなります。幹事会に向けて行う四役会議でも、
4人で闊達な議論をし、学術会議が本質的な課題に取り組むための体制は整いつつあります。
  幹事会では、科学と社会委員会のもとに5つの分科会を設置することが決まりました。
科学者と市民の対話のあり方を考える「市民と科学の対話分科会」、学術会議とメディアとの
懇談の方法を考え相互の信頼関係を築くための「メディア懇談分科会」、政府及び産業界との
連携から学術会議としての課題を抽出し発信を考える「政府・産業界連携分科会」の3つの分科会を
新たに設置することになりました。「年次報告検討分科会」と「課題別審議等査読分科会」は
従来通りに設置しました。ぜひ、広い意味での社会と科学のよりよい関係を作ることができるように
進めていきたいと考えています。
  今期は広報を強化するという会長の方針のもと、広報委員会を大幅に増強し、強化します。
これまで「学術の動向」を中心に活動をしてきましたが、今期は「学術の動向編集分科会」、
「ホームページ編集分科会」、「国際発信推進分科会」の3分科会を設置しました。「学術の動向」は
日本学術協力財団と協力しながら、より多くの方々が関心を持って読める雑誌にしていきます。
ホームページは発信手段としてますます重要性を増していますので、学術会議ホームページの充実も
大きな課題です。さらに、国際発信のあり方はこれまであまり議論されてきませんでしたが、
日本語の発信とは内容を異にする必要性についても、12月13日に開催した広報委員会で議論しました。
  また、12月の幹事会懇談会では、部を越えて学術会議全体で取り組む今期の課題について
議論しました。第23期から継続して進めるべき課題となっていたものに加え、第一部、第二部、
第三部から提案された課題も検討し、課題別委員会として取り組む課題、機能別委員会で
検討する課題、委員会や分科会ではなく会長が直接政府関係の会議と幹事会との議論で進める課題、
学術会議以外で対応すべき課題などに分けて取り組むことを議論しました。これからも会員や
連携会員からの提案を積極的に受け入れ、検討し、進めていくこととなります。
  幹事会と同じ日には、新聞記者の方々との記者懇談会を開催いたしました。第24期初めての
記者懇談会であったため、山極会長への会長としての抱負に対する質問が多々ありました。
安全保障研究や学術会議と社会との関係についても、多くの記者からたくさんの質問を受け、
相互理解の第一歩を踏み出すことができたように感じました。新設した「メディア懇談分科会」の
議論も反映させながら、新たなメディアとの信頼関係を目指します。さて、今期の学術会議は
メディアにどのように書かれるか、楽しみです。

 

〔 国際活動担当副会長 武内和彦 〕
 新年、明けましておめでとうございます。会員、連携会員、事務局の皆様がた、どうぞ今年も
よろしくお願いいたします。国際活動担当副会長に就任してから、あっという間に3か月が
経過しました。出席すべき幹事会、委員会、分科会等の数の多さにおののきつつも、
何とか務めております。
  昨年末に開催された国際委員会ISC等分科会では、前回の幹事会だよりでお伝えしたように、
国際科学会議(ICSU)と国際社会科学評議会(ISSC)を統合して新たに設立される
International Science Council(ISC)をどう和訳するかが議論されました。その結果、
日本学術会議の国際版という意味も含めて、「国際学術会議」とすることに決定いたしました。
  日本学術会議が加盟する国際学術団体は他にも数多くありますが、日本学術会議が行う重要な
事業の一つにアジア学術会議(Science Council of Asia・略称「SCA」)があります。SCAは、
日本学術会議が主催していた「アジア学術会議-科学フォーラム-
(Asian Conference on Scientific Cooperation)」が母体となり2000年に設立されたもので、
アジアの18カ国と地域の31の学術機関から構成されています。日本学術会議が主導して設立された
経緯もあり、事務局は日学事務局が務めています。
  この会議は、加盟各国・地域の持ち回りで毎年開催されていますが、今年は、日本で開催することが
既に決まっています。新年になって国際委員会のアジア学術会議等分科会が開催され、
アジア学術会議の事務局長である吉野博先生を委員長として、開催日や会議のテーマが
話し合われました。その結果、会議の開催は本年12月5~7日とし、テーマとしてはアジアにおける
持続可能な開発目標(SDGs)の達成を軸に検討することになりました。
  私自身、長年、アジア各地において、自然環境保全や持続可能な土地利用システムの確立を目指す
研究活動に従事してきたことから、アジア学術会議の開催には大きな関心をもっています。
2017年1月に「持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた超学際研究とマルチステークホルダー協働の
推進」をテーマとする日学主催の国際会議を開催した経験なども生かし、アジアと世界の学術界に
情報発信できるような成果の取りまとめに貢献したいと考えています。



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 以下、第257回幹事会の概要となります。

◎第257回幹事会(平成29年11月24日(金)13:40~15:45)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われた。
2 以下の公開審議が行われた。
  (1)機能別委員会における運営要綱の一部改正(委員の構成の変更1件、新規設置12件)、
   委員会委員(追加1件)及び分科会委員(新規7件)を決定した。
   ○新規設置及び分科会委員決定
   ・国際委員会国際会議主催等検討分科会
   ・国際委員会アジア学術会議等分科会
   ・国際委員会日本・カナダ女性研究者交流分科会
   ・国際委員会Gサイエンス学術会議分科会
   ・国際委員会ISC等分科会
   ・国際委員会国際対応戦略立案分科会
   ・国際委員会フューチャー・アースの国際的展開対応分科会
   ○新規設置
   ・科学者委員会男女共同参画分科会
   ・科学者委員会学術体制分科会
   ・科学者委員会学協会連携分科会
   ・科学者委員会研究計画・研究資金検討分科会
   ・科学者委員会学術と教育分科会
   ○委員会委員の決定
   ・科学者委員会
  (2)分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置77件、委員構成の変更1件)、
   委員会委員及び分科会委員(新規51件、追加7件)、小委員会委員(新規8件)を
   決定した。
  (3)フューチャー・アースの推進と連携に関する委員会の委員を決定した。
  (4)若手アカデミーにおける運営要綱の一部改正、幹事会申し合せ、若手アカデミー会員を
   決定した。
  (5)平成29年度代表派遣について、実施計画に基づく平成30年1-3月期の会議派遣者を
   決定するとともに、実施計画の一部を変更することを承認した。
  (6)地区会議運営協議会委員の追加(5地区会議)を決定した。
  (7)6件のシンポジウム等の開催を決定した。
3 その他事項として、今後の幹事会の開催日程について確認が行われた。
4 以下の非公開審議が行われた。
  (1)補欠の会員(1名)の候補者を推薦する部を第二部とすることを決定した。
  (2)分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(5分科会)及び小委員会委員
   (8小委員会)を決定した。
  (3)フューチャー・アースの推進と連携に関する委員会の委員(特任連携会員)を決定した。
  (4)若手アカデミーの会員(特任連携会員)を決定した。
  (5)国際業務に参画するための特任連携会員の任命の決定を承認した。
  (6)外部委員候補の推薦について承認した。
5 その他非公開事項として、科学技術を生かした防災・減災政策の国際的展開に関する
   検討委員会において特任連携会員を15名推薦するに至った理由について、
   小池委員長より説明があった。