日本学術会議「幹事会だより No.156」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.156
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                           平成30年7月24日発行
                              日本学術会議会長
                                  山極 壽

 

今回は6月28日(木)に開催された幹事会で議事要旨が確認されましたことを受け、

5月31日(木)に開催された第264回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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会長・副会長より
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〔 会長 山極壽一 〕
 この6月末に、政策研究大学院大学で大学改革シンポジウム「研究大学の再々定義」が開催さ

れました。甘利明衆議院議員が冒頭にあいさつを述べられ、続いて神田眞人財務省主計局次長、

赤石浩一内閣府官房審議官、義本博司文部科学省高等教育局長がそれぞれ意見を述べられた

後、神田氏に加えて上山隆大総合科学技術・イノベーション会議議員、五神真東京大学総長、小

林喜光経済同友会代表幹事、中西宏明経団連会長、橋本和仁国立研究開発法人物質・材料研

究機構理事長と私がパネルディスカッションを行いました。

 まず、甘利議員から知識産業隆盛の時代を迎え、大学は知的産業体となるべきであり、企業的

な経営を心掛けてほしいという希望が述べられました。予想された発言ではありましたが、国立大

学の運営費交付金が減少する中で、アメリカの研究型大学のように自律的な資金を増やし、研究

力を上げていくという政府の方針が明確に示されました。続いて神田次長からは、これまで大学

に対する資金は減額されておらず、研究費をはじめとする競争的資金はむしろ増えている。それ

を的確に使えなかったのは大学のマネジメント不足であるという批判がございました。義本局長か

らは法人化の当初の目的は、大学の自由度を増して外部から人材や資金を導入し、経営力を強

化することであったが、政権交代などもあってうまく政策誘導が進まなかった点などが総括されま

した。赤石審議官からは、この度閣議決定された統合イノベーション戦略の内容が示され、大学の

研究力を増すために人事給与マネジメント改革が不可欠であり、年棒制の全面導入により教員の

流動性を高めて若手教員の割合を増やしていくことが目指されていること、大学の自律的資金を

増やすために企業の投資を呼び込む方策を企画するのが急務であることが指摘されました。

 これらの意見を受けてパネルディスカッションでは、今アメリカや中国が主導するデジタル専制

主義に対抗するためには、技術的な対応だけでなく人文・社会学的な知を取り入れた未来を構想

することが重要である点が指摘されました。それには、SINETの学術ネットワークを利用して公的

なビッグデータをサイバーインフラで結びつけるのが最適な戦略であり、全国に拠点を持つ日本の

国立大学を活用することで大きな利点を得ることができます。そこで、産官学が目的を共有して、

人材、知財、資金が有機的に交流するエコシステムを構築することができれば、破壊的イノベー

ションに結び付く可能性が広がります。これからは国内外の企業の「投資先」としていかに魅力的

な大学を作れるかが重要な目標となる、といった議論が展開されました。私からは、アメリカでは

無名の若手科学者の起業を後押しする制度があり、目利きの科学行政官がプロデュースしてい

ることを紹介しました。また、フラウン・ホッファー研究所などドイツやイギリスをモデルにした産官

学連携の方法もあることを指摘し、ギャップ・ファンドなど国が支援すべき仕組みが必要であるこ

とを述べました。時間の制限もあり、十分な議論とはなりませんでしたが、これから立ち上がる内

閣府の産官学連携フォーラムで様々な問題点や方策が審議されるだろうと期待しています。

 このシンポジウムは、日本の研究が産学連携へ向かって大きく舵を切る象徴だったように思うと

同時に、産業界が大学や国研の基礎研究に大きな期待を寄せており、とくに未来の産業を考える

うえでは人文・社会学の力が重要と考えていることもわかりました。この議論も踏まえて、日本学

術会議で何ができるかについて考えていきたいと思います。

〔 組織運営及び科学者間の連携担当副会長 三成美保 〕
文科省中教審大学分科会将来構想部会は、「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間

まとめ(案)」を公表しました(2018年6月25日)。そのなかで「高等教育機関の教育研究体制」では、

「多様な教育」「多様な学生」など、「多様性」がキーワードになっています。「ジェンダー平等(男

女共同参画)」を含む「多様性(ダイバーシティ)」の実現は、21世紀国際社会の重要課題ですが、

日本の教育研究にとっても必須の課題なのです。

 しかし、現実には、多様性を否定するようなハラスメントが後をたちません。ハラスメントを告発す

る側がバッシングにあうなど、言論の自由もまた十分に保障されているとは言い難い状況です。こ

のような現状に鋭く切り込もうとするのが、7月27日に予定されている公開シンポジウム「ハラスメン

トを鏡に、日本社会を検証する—なぜまっとうな議論ができないのか?」(男女共同参画分科会主

催)です。同シンポジウムは、ジェンダ−・サミット10フォローアップ小分科会が中心になって企画し

たもので、6月に開催された学術フォーラム「ジェンダー視点が変える科学・技術の未来〜GS10

フォローアップ〜」の続編となるものです。前半は、若手アカデミーを中心に「若者は社会の変革者

か、それとも従属者か」と問いかけ、後半は、経験豊かな科学者たちが「科学者は社会にまっとうな

議論を広めることができるか」と自問します。ぜひ、「まっとうな議論」へのご参加をお願いいたします。

 6月には、来年、ILOがハラスメント禁止条約を制定することが公表されました。条約批准の条件

は、ハラスメント禁止法の制定です。EU諸国にはすでにハラスメント禁止法があるのですが、日本

では、ハラスメント防止は男女雇用機会均等法に雇用主の義務として定められているだけで、実

効性がきわめて乏しい現状です。こうした動向を受け、条約批准・禁止法制定に向けて論点を整理

するのが、9月3日開催予定の公開シンポジウム「セクシュアル・ハラスメントをめぐる法政策の現

状と課題—ハラスメント根絶に向けて」(法学委員会ジェンダー法分科会主催)です。上述の「日本

社会検証」とつながるテーマです。

 一方、すでに報道されている通り、お茶の水女子大学が、2020年度から、性自認が女性のトラン

スジェンダーを受け入れることを表明しました。「女子大」としてのアイデンティティは変更せず、時

代にあわせて「女子」の定義を拡大するというものです。記者会見では、学術会議提言「性的マイ

ノリティの権利保障をめざして—婚姻・教育・労働を中心に—」(2017年9月29日)の文言が引用さ

れました。この間の国内外の動きや女子大学の取り組みについては、高橋裕子津田塾大学学長

(連携会員・男女共同参画分科会委員)がわかりやすく総括しています(7月14日記事、

https://toyokeizai.net/articles/-/229478)。

 男女共同参画分科会及び学協会連携分科会では、ダイバーシティ達成の現状及び教育研究環

境の実態について全国規模のアンケート調査を計画しています。アンケート項目は、若手研究者

の意向を十分に汲んだものとし、調査結果は匿名性を確保したうえで公表し、政府や大学・研究

機関及び学協会に対して教育研究環境の改善を求めていく予定です。実施に当たっては改めて

ご案内いたしますが、ぜひとも、みなさまのご協力をお願いいたします。

〔 政府、社会及び国民等との関係担当副会長 渡辺美代子 〕
 今年も暑い夏がやってきました。7月初めの西日本の豪雨被害ではたくさんの方が犠牲になって

しまい、改めて自然の驚異を感じざるを得ません。そして、科学がこのような悲劇にもっと貢献でき

ないのか、人間生活は自然との調和をどう保つのか、真剣に考える必要があるように感じます。

 7月第2週には、南フランスのToulouseで開催されたユーロサイエンスオープンフォーラム(ESOF)

に参加してきました。85カ国から4,000人以上の科学の関係者が集まり、科学と社会のあり方を議

論しました。

 開幕セッションでは、粘土を使った像づくりの実演やオーケストラ演奏、ダンス披露など芸術と科

学の関係を考える演出がなされました。欧州委員会のモエダス・コミッショナーは中国の科学と経

済の台頭に触れ、また開幕セッションの人工知能に関する議論では、中国登壇者がスマホを用い

て中国語を英語に自動翻訳するデモもなされました。欧州の中国に対する注目度が印象的でした。

現時点では、中国の技術の成熟度は決して高いとは言えませんが、世界のトップに出るのは時間

の問題であり、その時に日本は世界においてどのような位置づけにいるのかを今からよく考え、早

急に実践する必要があると感じました。アジアにおいて中国一国が台頭するのか、日本あるいは

他の国が中国にない特徴を持って世界に出て行くのか。今回の会議では、シンガポールが必死に

世界に入り込もうとする姿を目にしました。

 この会議中、世界科学フォーラム(World Science Forum:WSF)の運営委員会が開催され、これ

にも出席しました。WSFは1999年に現代社会における科学のあり方を明確に示したブタペスト宣言

がもととなって出発した会議であり、ブタペスト宣言から20年を迎える来年11月、その本拠地である

ブタペストで開催されるWSF2019に向けた議論がされました。テーマは「科学と倫理」に決まり、今

世界中で起きている科学の自由に対する侵害、政治に都合のよいデータの氾濫に科学者がどう対

応し社会に責任を果たすのか、具体的には科学研究投資の倫理、オープンサイエンスにおける倫

理、科学をめぐる対話の倫理などを議論することになりました。それをもとに新たな宣言を作り、公

表する予定です。この委員会には20名が参加し男女が半々という構成でしたが、科学が社会の多

様性を重視すべきであるという観点から、登壇者は男女半々にする方針も決まりました。また、WSF

2019 の次のWSF2021は南アフリカで開催されることも、本委員会で決まりました。

 世界中で起きている科学をめぐる社会の激しい変化に対し、日本学術会議がもっと大きな貢献が

できるのではないか、もっと積極的に世界に出て声をあげるべきではないかと感じた一週間でした。

 

〔 国際活動担当副会長 武内和彦 〕

  本年7月3〜5日、パリにおいて国際学術会議(International Science Council; ISC)の設立総会が開

催されました。このISCは、すでにお知らせしたように、国際科学会議(ICSU)と国際社会科学評議会

(ISSC)という、自然科学と社会科学を代表する2つの国際学術組織が合併したものであり、山極壽一

会長らとともに、国際学術界の歴史を飾る、学術の統合化に向けた大きな変革の場である設立総会

に出席できたことは、まことに得難い経験でした。

 この設立総会で役員選挙が行われ、初代会長には、前ICSUの次期会長で、南アフリカのケープタ

ウン大学教授のDaya Reddy氏が、また次期会長には、前ニュージーランド首相科学顧問のSir Peter

Gluckman氏が選出されました。残念ながら、日本からの役員は選出されませんでした。それゆえ、今

後のISC運営で日本学術会議の貢献度をどう高めるかは大きな課題です。なお、2021年の第2回総

会開催地は、投票の結果、オマーン国マスカットに決定しました。

 この設立総会の期間中に、ISSC最後の会長となったAlberto Martinelli氏や、新たにISC副会長(社

会科学)に選出されたElisa Reis氏を交えて、本年9月25-28日に福岡で開催される世界社会科学

フォーラム(World Social Science Forum; WSSF)に関する打ち合わせが行われました。このフォーラム

は、ISC設立後初めての大きな学術的な国際会議であり、ISCの将来にとっても重要な会議になると

思われます。初代会長に選出されたReddy氏も出席を約束してくれました。私は、たまたま本年8月

上旬に南アフリカ訪問を予定しており、Reddy氏に直接お目にかかって、プログラムの詳細につい

て説明をする予定です。

 パリに出張した翌週の7月8-14日には、国連本部で開催された持続可能な開発のためのハイレベ

ル政治フォーラム(High Level Political Forum; HLPF)に出席のため、ニューヨークに出張しました。

ここでは、国連・国際機関、国連加盟国のみならず、学術機関、地方自治体、企業、NGO、若者グ

ループなど、さまざまなステークホルダーが参加して持続可能な開発目標(SDGs)について活発な

議論を展開していることが非常に印象的でした。自然科学と社会科学の壁を取り払う大きな挑戦を

眼にした翌週に、環境・社会・経済の統合的向上を目指すSDGsの国際社会での主流化の動きを肌

で感じることができたのです。



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幹事会開催状況(議事要旨、配布資料)はこちら
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/index.html

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以下、第264回幹事会の概要となります。

◎第264回幹事会(平成30年5月31日(木)14:50〜16:30)

審議事項等

1 前回議事要旨の確認が行われた。

2 以下の公開審議が行われた。

 (1)「委員会及び分科会等に係る特任連携会員の選考の在り方について」の一部を改正する

    ことについて、所要の修正を行い再度の幹事会審議を要することとした。

 (2)幹事会附置委員会の設置(新規設置1件)を決定した

 (3)機能別委員会における運営要綱の一部改正(委員構成の変更1件)及び分科会委員(新

    規2件、追加2件)を決定した。

  (4)分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置5件、委員構成の変更1件)及び

    委員会等委員(【委員会及び分科会】新規2件、追加5件【小委員会】新規4件)を決定した。

 (5)分野別委員会における第三部合同分科会の設置(新規設置1件)及び分科会委員(新規

    1件)を決定した。

 (6)課題別委員会における委員会委員(追加1件)を決定した。

 (7)平成30年度代表派遣について、実施計画に基づく7−9月期の会議派遣者を決定した。

 (8)平成30年度第2四半期における追加の学術フォーラム及び土日祝日に講堂を使用する

    シンポジウム等につき決定した。(学術フォーラム1件、土日のシンポジウム1件)

 (9)13件のシンポジウム等の開催、4件の国内会議の後援を決定した。

3 その他事項として、第23期放射線防護・リスクマネジメント分科会報告「子どもの放射線被ば

  くの影響と今後の課題−現在の科学的知見を福島で生かすためにー 」に対する質問状等に

  ついての対応、今後の幹事会等の開催日程及び第1回「防災に関する日本学術会議・学協会・

  府省庁の連絡会」について確認が行われた。

4 以下の非公開審議が行われた。

 (1)補欠の会員の候補者を推薦する部を決定した。

 (2)機能別委員会における分科会委員(特任連携会員)(新規1件)を決定した。

 (3)分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(追加5件)及び小委員会委員(新規

    2件、追加4件)を決定した。

 (4)国際業務に参画するための特任連携会員の任命について決定した。