日本学術会議「幹事会だより No.163」について

 

 

---------------------------------------------------
幹 事 会 だ よ り No.163
---------------------------------------------------
 

                           平成31年2月28日発行
                              日本学術会議会長
                                  山極 壽
 

 今回は1月31日(木)に開催された幹事会で議事要旨が確認されましたことを受け、12月19日(水)に開催された第273回幹事会の議事概要を御報告いたします。


=================================================
会長・副会長より
=================================================
〔 会長 山極壽一 〕
 今年に入って、産官学の合議による大学改革の審議が活発化しています。1月31日には経団連で「今後の採用と大学教育の未来」に関する産学協議会が開催され、国公私立の学長の代表と経団連の幹部が初めて顔を合わせました。これは経団連が昨年末に公表した「今後の採用と大学教育に関する提案」をもとに大学側と継続的な対話の枠組みを設置するために開かれたもので、私は国大協や日本学術会議の代表ではなく、京都大学の総長として出席しました。今後、(1)Society 5.0の推進へ向けた人材育成、(2)採用・インターンシップ、(3)地域活性化と人材育成、という3つのテーマを10~15名程度の双方の関係者からなる分科会で検討していくことになります。また、2月7日には内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)で「大学改革産学官フォーラム」の準備会合が開かれ、経団連、経済同友会やその他の産業界の代表と国立大学や国立研究開発法人の長が顔を合わせ、産業界と大学が研究力を高め、イノベーションを創出するためにどのような連携が可能かについて討議する相談を始めました。経済産業省や文部科学省からも参加しており、大規模で継続的な共同研究の実施、大学のシーズと産業界・社会のニーズのマッチング、博士号取得者のキャリアパス、人材流動性、大学のガバナンスや経営課題、地方自治体との連携など、かなり具体的な項目についてこれから話し合いを始めます。CSTIでは、昨年来「基礎研究力の強化」について日本学術会議の1~3部からそれぞれ代表を出して審議していますが、2月14日の会合では、文部科学省や内閣府の提案を受け、「若手研究者の支援と人材流動性」について研究現場からの意見を募ることになりました。そこで、日本学術会議では若手研究者が安定した研究活動を行うために有効な対策について、会員の皆様に急遽アンケート調査を行い、それらの意見をまとめて3月初めのCSTIで報告することにしました。ぜひ積極的にご意見を述べていただくよう、よろしくお願いいたします。3月7日には14:30より経団連会館で「Society5.0に向けた産学共創のあり方」と題した経団連・日本学術会議共催のシンポジウムを開催します。これは、昨年11月に日本学術会議の科学と社会委員会の「政府・産業界連携分科会」が発出した「産学共創の視点から見た大学のあり方-2025年までに達成する知識集約型社会-」という提言を基に企画したシンポジウムです。ぜひ会員・連携会員の皆様のご参加を期待しています。現在、「日本の展望2020委員会」では、未

来へ向けて学術の展望をまとめるべく、1部から3部までの委員がそれぞれの将来展望を出し合っているところです。夏の各部会までに具体的な提案をしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。


〔 組織運営及び科学者間の連携担当副会長 三成美保 〕
 国立大学法人がふたたび大きな波にさらされています。2018年12月に、運営費交付金1兆1千億円の1割にあたる1千億円を評価に基づく傾斜配分にすることが決まりました。あまりにも唐突な決定であったため、多くの大学は混乱のなかで対応に追われました。2019年予算はすでに決定し、各大学に通達されています。激変緩和措置がとられたので、どの大学もさほど大きな変化はなかったようです。しかし、次年度からは緩和措置がなくなり、評価の対象となる金額も大きくなると見込まれています。

 問題は、評価指標です。1千億円のうち、700億円が「共通指標」による評価配分とされました。「共通指標」は5つです。(1)会計マネジメント改革の推進状況(100 億円)、(2)教員一人当たり外部資金獲得実績(230 億円)、(3)若手研究者比率(150 億円)、(4)運営費交付金等コスト当たりトップ 10%論文数(試行)(100 億円)、(5)人事給与・施設マネジメント改革の推進状況(120 億円)。

 このように、研究評価指標(第2指標・第4指標)と管理運営評価指標(第1指標・第3指標・第5指標)が混在しています。大学評価が、「教育・研究水準の向上」という本来の目的を逸脱し、「大学改革のための評価」に手段化・矮小化されていることに本質的な問題があると言えるでしょう。これらに代わる適切な評価指標を提案するべく、国立大学協会では委員会をつくって審議を始めたと聞いています。

 上記の研究評価指標は、いずれも研究評価の有効な指標であることは確かです。しかし、運営費交付金の額を左右する指標としては一般性を欠きます。すなわち、第2指標は、科研費を含まないため、人文社会科学にはきわめて不利となります。第4指標は、「世界的大学」をめざすタイプの大学(第三類型)限定の試行指標とされ、人文社会科学系の一橋大学を対象からはずすとの「配慮」がなされるほど、特定分野や一部の大学にしか適用できない指標です。

 一面的な研究評価指標が一人歩きすることは、大学の種別を問わず、日本の高等教育をゆがめ、学術研究の多様性や豊かさ、可能性や未来を損ないかねません。研究評価は、広く「研究水準の向上」や「次世代研究者の育成」につながってこそ意味があります。一方で、大学という公的資源を使い、公費(資金)と時間を費やして研究する以上、研究の意義や成果、あるいは、その研究が属する学術分野の存在意義について、科学者自身が社会や政府を説得すべきとの期待や要請はますます高まっています。

 研究評価は、「社会への説明責任」を果たし、「多様な研究を促進する」ためのものであらねばなりません。しかし、隣接分野の研究評価のあり方についてさえ、さほど情報をもっていないのが実情です。まして分野が大きく異なると、ほとんどの研究者が何も知らないのではないでしょうか。考えてみれば、あたりまえかもしれません。研究評価は専門家集団に閉じられた共通の価値尺度によって行われました。それらが他分野に向けて言語化されることはほとんどなかったのですから。したがって、まずは「研究評価の多様性」の実態を明らかにすることが必要です。研究評価指標を一元化するためではなく、多様性を理解・共有するためです。

 このたび、科学者委員会研究評価分科会では、分野ごとの研究評価のあり方について実態調査をすることにいたしました。今後、分野別委員長をはじめ、会員・連携会員のみなさまのご協力をいただきながら、取り組んでいきたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

〔 政府、社会及び国民等との関係担当副会長 渡辺美代子 〕

 一年の中で一番寒い時期となりました。インフルエンザで大変な思いをされた方も多いでしょうが、この幹事会だよりが皆さんに届く頃には少し暖かくなっていることと思います。

 1月30日には、スポーツ庁から審議依頼を受けて発足した課題別委員会「科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方に関する委員会」の最初の会議が開催されました。ここで議論したのは、最近の世界大会においては刻々と変化する状況をいかに的確に捉え、その対応を考え、判断し、行動できるかが勝敗を決める状況にあり、これは社会の縮図とも言え、スポーツのあり方の議論は社会の多くに適用できるということでした。一方、社会から見たスポーツの世界に残された問題もあり、これにも対応していくこととなりました。この委員会には、スポーツ科学の専門家だけではなく、元アスリート、医学、心理学、歴史、情報、障がい者スポーツの専門家が揃い、委員全員にとって刺激的な意見交換ができました。東京オリンピック・パラリンピックに向け、日本のスポーツが変わるきっかけとなる回答をスポーツ庁にできるよう、多角的な意見を交えて議論をしていきます。

 もう1つの課題別委員会「オープンサイエンスの深化と推進に関する検討委員会」は、最初の会議を昨年12月18日に、2回目を2月5日に開催しました。海外の状況とこれまでの歴史を踏まえながら、日本のデータをどのように守っていくのかなどを議論しました。データの保存と共有には試料の保存とも関係し、分野によってその成度が大きく異なること、その成熟度をどのように測っていくのか、データ管理の人材をどう育成するのかなどが話題となり、これからデータとその周辺のデザインについて検討していきます。

 1月23日には、総合工学委員会エネルギーと科学技術に関する分科会が主催した日米合同シンポジウム「ハイパワーレーザーによる高エネルギー密度科学技術の展望」がワシントンの駐米日本大使館で行われ、参加してきました。日米から約30名ずつが参加し、円卓を囲んで今後のエネルギー研究について議論しました。

米国は米国エネルギー省(DOE)とローレンスリバモア国立研究所、日本は大阪大学レーザー科学研究所と文科省にご協力いただきました。学術会議が海外でシンポジウムを開催するためには、外部機関や学協会のご協力が必須ですが、今回海外シンポジウムを実現できたことは大きな進展です。

 この出張に合わせて、米国科学アカデミー(NAS)を訪問し、意見交換をしてきました。政府から完全に独立した組織であるものの年間予算400億円弱は7割が政府機関から配分されること、人文・社会科学のアカデミーはマサチューセッツにある別組織であること、米国籍以外の科学者が参加する制度もあること、地球温暖化を現大統領が理解しないことは大きな問題と捉え市民への発信を積極的にしていることなどの情報を得ました。各国のアカデミーについては俯瞰的な比較をし、日本学術会議の国際的立ち位置を明確にできるようにまとめていきます。

 2月14日から17日には、サイエンス誌を発行しているAAASの年次総会が同じくワシントンで開催され、これに参加してきました。開幕式では、この1年間で最も優れたサイエンス誌の論文に賞が贈られましたが、受賞したのは中国の量子もつれ情報通信に関する研究グループでした。中国の基礎研究が世界の舞台で台頭する状況に日本としてどう対応していくのか、単なる基礎研究費を増やすだけではなく、日本の科学の真価が問われているように感じました。


〔 国際活動担当副会長 武内和彦 〕

 本年2月11日-13日にニューデリーのハビタットセンターで開催された世界持続可能な開発サミット(WSDS)に参加するため、インドに出張しました。このWSDSは、TERIの略称で世界的に知られるエネルギー研究所が主催するもので、毎年2月に開催されます。今年のテーマは「2030アジェンダの達成に向けて」で、欧米諸国も含め、政治家、研究者、国際機関や企業のリーダーなどが多数集まり、とくにインドのような開発途上国に焦点をあて、持続可能な開発目標(SDGs)をいかに達成していくかが議論されました。

 毎年2月に開催されるのは、最高気温が時には50℃にも達するニューデリーがこの時期は涼しく、参加者が過ごしやすいためです。しかし、大量の車の排ガスなどによってもたらされるこの街の大気汚染は世界最悪のレベルに達しており、街をしばらく歩いていると目が痛くなってきます。こうした大気環境のもとでSDGsやパリ協定の議論をしていると、地球的課題と地域的課題の同時達成を目指すことがいかに重要かを実感します。

 私がスピーカーを務めたプレナリーのテーマは、国連家族農業の10年(2019-2028年)を記念して、アジアでは99.9%の農民が従事し、80%近くの食料が生産される家族農業が持続可能な開発に果たす役割についてでした。私は、理事長を務める地球環境戦略機関(IGES)が行ったインドでの調査結果を示しながら、有機農業は環境変動などのストレスに対してより耐性が高いことから、その推進が家族農業の将来にとって有効であると訴えました。スピーカーの一人として、2016年に完全な有機農業化を達成したシッキム州の高官がその成果を披露し、会場を埋め尽くした参加者から大きな拍手で迎えられました。

 TERIとIGESの間では共同研究や事業が進められています。その一つが日本・インド技術マッチメイキングプラットホーム(GITMAP)と呼ばれる、日本の低炭素技術を活用してインドの環境改善を図ることを目的にした共同事業です。このテーマに関するサイドイベントがTERIで開催され、私もその開会で、この事業を発展させる意義を述べました。このイベントでは、インドの自治体、日本の企業などの関係者がそれぞれの取組を発表し、今後の活動方針が討議されました。また、TERIとIGESのバイ会談では、IGESが7月末に横浜で開催する持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)にTERIのMathur所長を招待し、資源循環も含む幅広い連携についてさらに議論を深めることになりました。

 



=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・=・
SCJ Member Forum (会員・連携会員専用掲示板)
http://www.scjbbs.go.jp/bbs/index.php?sid=a2c3ea40e52950b0a4c8409bd62cdaff
ログインには、会員・連携会員に郵送でお送りしたユーザー名とパスワードが必要です。

日本学術会議HP
http://www.scj.go.jp/index.html

幹事会開催状況(議事要旨、配布資料)はこちら
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/index.html

--------------------------------------------------------------------------

以下、第273回幹事会の概要となります。

◎第273回幹事会(平成30年12月19日(水)15:30-18:10)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われた。
2 以下の公開審議が行われた。
 (1) 分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件)及び委員会等委員(【委員会及び分科会】
   追加1件、【小委員会】新規1件)を決定した。
 (2) 課題別委員会における委員会委員(新規1件)を決定した。
  ○委員会委員の決定
  ・科学的エビデンスに基づく「スポーツの価値」の普及の在り方に関する委員会
 (3) 提言「ハッブルの法則の改名を推奨するIAU決議への対応」について、物理学委員会IAU分科会、天文学・宇宙物理学分科会岡村定矩委員より説明があり、審議の結果、承認した。
 (4) 回答「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」について、国際リニアコライダー計画の見直し案に関する検討委員会家泰弘委員長及び国際リニアコライダー計画の見直し案に関する検討委員会技術検証分科会米田雅子委員長より説明があり、審議の結果、承認した。
 (5) 日本学術会議協力学術研究団体を指定することを承認した。
 (6) 平成31年度第1四半期における学術フォーラム及び土日祝日に講堂を使用するシンポジウム等につき決定した。(1件の学術フォーラム、4件のシンポジウム等)
 (7) 10件のシンポジウム等の開催と3件の国内会議の後援を決定した。
3 その他事項として、今後の幹事会等の開催日程についてについて確認が行われた。
4 以下の非公開審議が行われた。
 (1) 補欠の会員の候補者を推薦する部を決定した。
 (2) 分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(追加1件)及び小委員会委員(新規1件)を決定した。 
 (3) 課題別委員会における委員(特任連携会員)(新規1件)を決定した。
 (4) 外部委員候補の推薦について承認した。