日本学術会議「幹事会だより No.165」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.165
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                           平成31年4月24日発行
                              日本学術会議会長
                                  山極 壽
 

今回は3月28日(木)に開催された幹事会で議事要旨が確認されましたことを受け、

2月28日(木)に開催された第275回幹事会の議事概要を御報告いたします。

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今後の幹事会・総会日程

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●幹事会
第277回幹事会 平成31年 4月24日(水) 17:30から
第278回幹事会 平成31年 5月30日(木) 13:30から
第279回幹事会 平成31年 6月27日(木) 13:30から
第280回幹事会 平成31年 7月25日(木) 13:30から
第281回幹事会 平成31年 8月29日(木) 13:30から
第282回幹事会 平成31年 9月26日(木) 13:30から
(予備日 平成31年10月16日(水))
第283回幹事会 平成31年10月31日(木) 13:30から
第284回幹事会 平成31年11月28日(木) 13:30から
第285回幹事会 平成31年12月26日(木) 13:30から
第286回幹事会 平成32年 1月30日(木) 13:30から
第287回幹事会 平成32年 2月27日(木) 13:30から
第288回幹事会 平成32年 3月26日(木) 13:30から
●総会
第178回総会 平成31年 4月24日(水)-26日(金)
第179回総会 平成32年10月16日(水)-18日(金)


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会長・副会長より
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〔 会長 山極壽一 〕
 平成もいよいよ終わりを告げ、5月1日から令和になることが決まりました。この4月が平成最後の総会となります。平成が始まったときも最初は年号の響きになれず、おかしな感じがしましたが、次第に慣れていったことを思い出します。今度もそうでしょう。「降る雪や 明治は遠くなりにけり」という中村草田男の句があります。これは昭和11年に詠んだもので、明治時代の日本への憧憬がこめられています。昨年は明治維新150年でしたが、明治とはいったいどんな時代だったのか。昭和生まれの私には、多くの謎が隠された、決して知りえない時代の空気を感じます。これから生まれてくる人々にとって、昭和とは同じように謎めいて映るのかもしれません。

 年度末と年度初めは、大学の学長を務める私にとっては最もモーニングを着る機会の多い時期です。卒業式、学位授与式、学部入学式、大学院入学式と4回も学生に向かって式辞を読みました。式辞の内容を考えるのに毎年四苦八苦しているのですが、今年は大学院の入学式で、先月日本学術会議で開かれたサイエンス20の国際会議について話をしました。かつて世界に材料革命を引き起こした魔法の人造素材プラスチックが、今海洋生態系と人類の大切な資源を劣化させ、健康被害まで懸念される原因となっていることを述べました。これからの科学技術は人間の生活を便利に豊かにするだけでなく、これまで人類が行ってきた活動を地球史や人類史の観点から検証したうえで、持続的な未来を目指さねばならないからです。それを、これから大学院に進んで研究にいそしむ学生たちの心に留めておきたいと思ったのです。

 さて、内閣府で毎週開かれている総合科学イノベーション会議(CSTI)では、若手研究者の研究環境の改善について日本学術会議への依頼がありました。そこで、人材の流動化と雇用の安定についての課題やそのための方策、若手研究者を支援するための有効な対策について会員にアンケート調査を実施し、その結果をまとめて報告しました。要約すると、1)独創的な研究成果を創出するためには、研究者が研究に専念できるような環境を整備することが何より重要、2)流動性を高めるために、研究資金、身分保障、柔軟な制度、評価と報酬等のインセンティブを作る、3)この際、若手研究者や女性研究者のライフステージに配慮する、自然科学と人文・社会科学との研究システム・スタイルの相違に配慮するなど画一的な制度とはしないこと、メンタリング等、必ずしも経済的支援によらない支援も考慮すること、でです。意見をいただいた皆様にあらためて感謝します。これが政策に反映するように力を尽くしていきます。

 CSTIでは基礎研究力の強化へ向けて集中的な対策協議を行っており、日本学術会議からも1部から3部まで数人の代表者が参加して意見を述べました。さらに日本学術会議からの意見を幅広く聴取したいということで、1)基礎研究力を測る指標(定義)はどのようなものにするべきか、2)国際化・国際頭脳循環の在り方、3)国際共同研究推進のための方策、4)学術誌への投稿及び購読に関する課題対応(例えば、海外の学術誌に対抗し、日本の学術誌を高めるための方策等)、5)技術職員、URA等のキャリアパスの在り方、6)女性研究者支援の在り方、の6つの課題について今度は会員・連携会員のみなさまにアンケート調査を実施しています。もうすぐ締め切りますが、ぜひ多数の方々から意見をお寄せいただきたいと思います。よろしくお願いします。


〔 組織運営及び科学者間の連携担当副会長 三成美保 〕
 関西では桜がほぼ終わり、アスファルトの道路の上にはなびらが敷き詰められたように散っていま

す。ときおり、風が花びらを舞い上げると、連れた愛犬が大喜びで花びらを追いかけます。

 今年度の科学者委員会は、いくつかの課題を果たす予定です。

 第一に、研究評価について、目下、分野別委員会委員長にあてて緊急アンケートを実施中です。研究評価の現状を把握し、研究評価の多様性を尊重しつつ研究を発展させるような評価のあり方をめぐって、5月24日(金)13:00-17:30(於:学術会議講堂)にシンポジウムを開催予定です。ぜひ、ご参集ください。

 第二に、男女共同参画の取り組みについては、昨年度末に大学・研究機関向けにアンケート調査を実施し、現時点で300余りの回答を得ました。回答を待ってほしいとの要望が強かったため、夏まで回答可能としましたので、今後とも回答数は増える見込みです。今後、学協会及び研究者個人に対するアンケートを実施して、秋にシンポジウムを開催し、提言をまとめる予定です。また、昨年度実施した医学系入試問題に関するシンポジウムをふまえ、提言をまとめる予定です。

 第三に、ジェンダー・サミット10のフォローアップとして、7月4日(木)にJSTでシンポジウムを開催予定です。今後、中高生向けに「ジェンダーにもとづくイノベーション」に関するHP記事を充実したいと考えています。

 第四に、学協会連携については、かねてより課題となっていた「日本学術会議協力学術研究団体」の定義を見直し、あわせて「研究者」の定義も再検討する予定です。「研究者」定義の見直しをふまえて、科学者委員会で「科学者」の定義についても審議したいと考えています。

 第五に、軍事的安全保障に関して、今年度は学協会にアンケートを実施し、昨年度の大学・研究機関向けアンケート結果とあわせて結果をまとめる予定です。

 第六に、大型研究計画については、秋に審査を行い、候補計画を決定します。

 このほか、科学者委員会附置分科会でそれぞれの課題に向けて取り組みを進めていきます。

 財務委員会は、今年度も毎月開催し(幹事会と同日開催)、予算執行の現状把握につとめます。10月総会が終わった時点を目途に、上半期の執行状況をとりまとめ、残予算の状況次第で予算配分の再調整を行う予定です。その場合、各部と若手アカデミーは、年度当初にそれぞれ配分した予算の範囲内での調整をお願いいたします。機能別・課題別委員会は財務委員会で調整します。現在のところ、機能別・課題別委員会も年1回の開催分しか予算を確保できません。審議依頼を受けた課題別委員会をはじめとする数件の委員会に優先的に予算配分しますが、それでも2回分の予算を確保するのがギリギリです。みなさまの積極的な活動に水を差す結果となり、まことに恐縮ですが、現状をご理解のうえ、どうぞよろしくご協力のほどお願い申し上げます。

〔 政府、社会及び国民等との関係担当副会長 渡辺美代子 〕

 美しい桜が満開の中、このたよりを書いています。今回は、委員会で活発な議論をしている3つのテーマをご紹介しますが、その議論の多くは「あれかこれか」ではなく、「あれもこれも、その比重と組み合わせをどうするのか」であり、「選択と集中」から一歩先をいく内容です。最後には、天皇皇后両陛下ご臨席のもとに行われた日本国際賞授賞式についてご報告します。

 課題別委員会の1つである「オープンサイエンスの深化と推進に関する検討委員会」は、山極会長の要望を受けて立ち上げた委員会ですが、今年夏に提言を出すことを目指し、急ピッチで審議を進めています。昨年12月18日に最初の委員会を開催し、4月5日には第4回委員会を開催しました。データがデジタル化されたために多くの人たちの間で共有が容易となり、データ駆動型社会に向けて急速に社会が進展する中、研究データの健全な相互利用と発展を目指して、各分野の状況を把握しながら学術全体としてどうあるべきかを議論しています。これまで、大学の研究データ管理の現状に加え、農業や海洋分野の状況を議論しました。オープンサイエンスではオープンとクローズの境界がよく議論されますが、その境界には共有(シェア)という領域があり、実はこの共有部分が大きい比重を占めること、民間のデータが公共性を持ち共有の対象に含めることの必要性、競争と共存の両立が最も強い科学を生み出すことなどを議論しています。また、理念に沿って提言を出してもその内容はなかなか実現されず、今困っていることを解決する要素があってこそ関係者が提言内容を実現することを認識し、そのような提言内容にすることを議論しました。

 もう1つの課題別委員会「自動車の自動運転の推進と社会的課題に関する委員会」は3月29日に第3回委員会を開催し、心理学を含む社会学の観点、農業における自動運転、リスク検討について議論をしました。人間は人間に道徳性を求めるものの、現状のAIには道徳性より合理性を求め、AIが人間らしくなるためにはデザイン、動き、認知の個人差などを考慮する必要があること、リスクはベネフィットと共に考える必要があり、最低限守らなければならない範囲とあったら望ましい範囲のどこにリスクを設定するかがマネージメントであること、リスクは未来の指標でありながら現状をもとに考えがちであることなどを議論しました。

 また、3月28日のメディア懇談分科会と4月3日の広報委員会では、学術会議の発信について議論しました。新聞や出版、テレビ、ホームページやSNSはそれぞれ信頼性とアクセス数が異なり、これらを有機的につなげて活用することの必要性や、動画配信の検討などを議論しました。ホームページ改修を含め学術会議の発信は限られた予算でできることを考える必要がありますが、今あるTwitterをより活用することや大事な情報をタイミングよく発信することなど、予算に頼らない改善策も議論しました。学術会議が誰に対して何を発信したいのか、この根本的な問題について会員や連携会員の皆さんのご意見もお聞きしたいと考えています。

 4月8日には第35回日本国際賞の授賞式が国立劇場で開催され、学術会議副会長として出席いたしました。天皇皇后両陛下は1985年の第1回から毎回ご出席、今回が最後のご臨席となります。今回受賞されたのは、らせん高分子の精密合成とその医薬品等開発に貢献された岡本佳男博士と、食糧安全保障と気候変動緩和の土壌管理手法を確立された米国のラタンラル博士でした。この授賞には多くの会員と連携会員が審査委員などで貢献され、授賞式では舞台に列席されていました。


〔 国際活動担当副会長 武内和彦 〕

 本年3月24日-26日にかけて、フランス科学アカデミー(パリ)で開催されたGサイエンス学術会議に出席した。フランスが主催する今年のG7首脳会議に対する学術界からのインプットを目的とした会議で、テーマは「科学と信頼」、「人工知能と社会」、「インターネット時代のシチズンサイエンス」であった。これらのテーマに対して、岩崎渉連携会員、辻井潤一特任連携会員、新福洋子特任連携会員に専門的な立場から議論に参加していただき、共同声明に反映させることができた。とくに岩崎さんと新福さんは、若手アカデミーの代表としてその存在が注目され、各国が今後どのように若手アカデミーの参画を進めていくべきかを考える契機となったことは、大変喜ばしいことであった。この声明文については、近日中に首相官邸で山極会長から安倍総理に手交するべく調整中である。

 翌27日-28日は、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が主催する「持続可能な開発に関するアジア太平洋フォーラム(APFSD)」に出席するため、地球環境戦略研究機関(IGES)理事長としてバンコクに滞在した。この会議で私は、第五次環境基本計画で提唱された「地域循環共生圏」が、SDGsのローカル化に大きく貢献しうることを訴えるとともに、日本での具体的な適用事例を踏まえながら、この概念がアジア太平洋にも展開可能であると訴えた。また、この機会に、ESCAPのアルミダ・S・アリスジャバナ事務局長と面談した。彼女は、私が数十年にわたって研究交流を続けているインドネシア・バンドンのパジャジャラン大学で、最近まで初代SDGsセンター長を務めており、シンポジウムで一緒に講演し、また私が同大学からオット・スマルオト賞を受賞した際には、授賞式に参列してもらった仲である。こうした、交流のある仲間として、ESCAP事務局長への就任を心よりお祝いするとともに、今後とも連携していくことを約束した。

 その後一旦帰国して、4月1日-3日には、再びヨーロッパに戻り、コペンハーゲンで開催された国連経済社会局(UN DESA)主催による「SDGsと気候アクションのシナジーに関する会議」に出席した。国連の地球環境関連条約(気候変動枠組条約、生物多様性条約、砂漠化対処条約等)とSDGsは相互に密接な係わりを持ちながら、これまでは十分な連携が図られているとは言い難かった。そこで、国連として初めて気候アクションとSDGsの連携強化を図るための国際会議が開催されたのである。この会議で私は、日本を対象としたIGESの分析結果を紹介し、気候変動対策は若者の雇用には貢献しているが、経済成長は阻害しているというシナジーとトレードオフの関係の一例を紹介し、いかに両者をともにシナジーの関係に導いでいくかが、これからの重要な政策課題になると述べた。

 翌4日には、ストックホルムで開催されたフューチャー・アース評議会に出席した。会場は、私がボルボ環境賞の審査員として毎年2回訪れているスウェーデン王立協会内の会議室であり、私も以前そこで講演したことがある。この会議でとくに話題となったのは、いかに個別科学に従事している研究者のフューチャー・アースへの関心を引きつけるかということである。学術の分野を超えた学際研究にとどまらず、学術と社会の壁を超えた超学際研究を志向するフューチャー・アースに対して専門性を追究する研究者の理解をどのように得ていくのかは、本質的な課題であることを改めて認識した。評議会の議長の一人は、かつて国連大学で副学長として私と一緒に働いたヤコブ・リーナ-教授である。彼がボン大学に転出したのちの共同議長には、国連大学環境と人間の安全保障研究所(UNU-EHS)所長のディルク・メスナー教授が今期の任期終了まで就任することが決定した。

 さらに8日には、インターアカデミー・パートナーシップ(IAP)の合同理事会に出席するため、韓国仁川に出張した。このIAPは、科学(S)、健康(H)、政策(P)の3つの下部組織からなる緩やかな統合体であり、それぞれが共同議長と理事会を有している。今回の合同理事会では、IAPとしての一体化をさらに進める方向で議論がまとまり総会で決議されることとなった。9日-10日には、「科学と持続可能な開発目標(SDGs):アカデミーの役割」と題した会議が開催された。この会議でも、若手アカデミーを代表して新福さんが、SDGsに関する活動を報告した。合同理事会、シンポジウムとも、世界科学アカデミー(TWAS)会長でスーダン在住のモハマド・ハッサン教授など、旧知の研究者が数多く出席していた。パリのG7学術会議の出席者は、過半がここにも顔を揃えており、この世界の狭さを改めて実感した。



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日本学術会議HP
http://www.scj.go.jp/index.html

幹事会開催状況(議事要旨、配布資料)はこちら
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/index.html

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以下、第275回幹事会の概要となります。

◎第275回幹事会(平成31年2月28日(木)13:30-15:25

審議事項等

1 前回議事要旨の確認が行われ、修正のうえ承認された。

2 以下の公開審議が行われた。

(1)幹事会附置委員会の設置及び運営要綱の決定が行われた。
  ・危機対応科学情報発信委員会
(2)機能別委員会における分科会委員(新規1件)を決定した。
   ・科学者委員会軍事的安全保障研究声明に関するフォローアップ分科会

(3)分野別委員会における委員会等委員(【分科会】新規1件、【小委員会】追加1件))を決定した。

(4)報告「農業経済学の学部教育のあり方」について、農学委員会農業経済学分科会小田切委員長
  より説明があり、審議の結果、承認した。

(5)提言「我が国における微生物・病原体に関する教育リテラシー」について、基礎医学委員会病原
  体学分科会桑野委員長、岡本副委員長より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを
  条件に承認した。

(6)平成31年度代表派遣について、実施計画の決定及び4-9月期の派遣者の決定を行った。ま
  た、平成30年度代表派遣について、実施計画の変更を決定した。

(7)平成31年度フューチャー・アースに関する国際会議等への派遣の基本方針の決定及び代表者
  の派遣の決定を行った。また、平成31年度フューチャー・アースに関するAC(諮問委員会)及び
  GC(評議会)、海表面及び下層大気研究に関する国際会議(SOLAS)への招へい者を決定し
  た。
(8)平成31年度アジア学術会議に関する国際会議等への代表者の派遣の基本方針を決定した。

(9)平成31年度第1四半期における学術フォーラムについて、1件につき追加を決定し、1件につき
  補足説明を求めて保留とした。

(10)5件のシンポジウム等の開催と2件の国内会議の後援を決定した。

3 その他事項として、今後の幹事会等の開催日程及び報告「子どもの放射線被ばくの影響と今後
  の課題-現在の科学的知見を福島で生かすために-」に関する質問に対する前回回答につい
  て確認が行われた。

4 以下の非公開審議が行われた。

(1)分野別委員会における分科会委員(特任連携会員)(追加1件)及び小委員会委員(追加3件)
  を決定した。

(2)課題別委員会における特任連携会員(追加1件)を決定した。

(3)国際業務に参画するための特任連携会員の任命を決定した。

(4)2019年本田賞受賞候補者を推薦することを決定した。

(5)外部委員候補者の推薦について承認した。