日本学術会議「幹事会だより No.168」について
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幹 事 会 だ よ り No.168
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令和元年7月24日発行
日本学術会議会長
山極 壽
今回は6月27日(木)に開催された幹事会で議事要旨が確認されましたことを受け、
5月30日(木)に開催された第278回幹事会の議事概要を御報告いたします。
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今後の幹事会・総会日程
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●幹事会
第280回幹事会 令和元年 7月25日(木) 13:30から
第281回幹事会 令和元年 8月29日(木) 13:30から
第282回幹事会 令和元年 9月26日(木) 13:30から
(予備日 令和元年10月16日(水))
第283回幹事会 令和元年10月31日(木) 13:30から
第284回幹事会 令和元年11月28日(木) 13:30から
第285回幹事会 令和元年12月26日(木) 13:30から
第286回幹事会 令和2年 1月30日(木) 13:30から
第287回幹事会 令和2年 2月27日(木) 13:30から
第288回幹事会 令和2年 3月26日(木) 13:30から
●総会
第179回総会 令和元年10月16日(水)~18日(金)
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会長・副会長より
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〔 会長 山極壽一 〕
このところ、日本学術会議主催のシンポジウム等に2回続けて参加し、パネリストとし
て意見を述べました。一つは、6月28日に開かれた日本学術会議 in 富山で、富山大学の
全面的なご協力をいただき、大学内の黒田講堂ホールで第1部「学術研究:脳科学と和漢
薬」、第2部「学術研究とSDGs」に続いてパネルディスカッションが行われました。地方
学術会議は昨年度より開催されており、1回目は京都、2回目は札幌で、大学が会場とな
るのはこれが初めてです。アカデミックな雰囲気が心地よく、齋藤滋富山大学長が開会
挨拶で述べられたように、地方の小都市で行われるのも初めてで、内容も富山の産官学
の活動を盛り込んだ興味深いものでした。とくに、富山大学大学院理工学研究部の張勁
教授の「気候変動と富山の水循環」という話はとても感銘を受けました。富山湾では最
近海水温が上がっていて、ブリなどの漁獲量が急激に落ち込んでおり、それが地球の海
を循環する海流が変化していることにあるという話で、それを張教授が呼び掛けて世界
各地の海に断面観測地を設け、3D診断しているそうです。日本海は特に温暖化が顕著
で、それが栄養塩分布やプランクトンの分布に変化を引き起こし、それを栄養にしてい
る魚の生産量を下げているのです。また、富山は海岸から高山が急に立ち上がっており、
海底と合わせるとわずか幅50キロメートルで高低差が4000メートル以上になるという話も
衝撃的でした。そのため、富山湾の生態系は陸由来の栄養分で支えられており、森林域、
平野部、沿岸域の水循環、物質循環を健全に保つことが重要という指摘はとても納得がい
きました。さらに、富山市の本田信次政策監から人口減少と超高齢化に伴う富山市の交通
システムや居住地の改編など最近の特筆すべき政策が紹介され、産官学が一体となって地
域振興に取り組んでいることがよくわかりました。こうした研究や政策事例を日本全国に
発信していくことが、学術の発展と日本の地域振興に急務であることを強く感じました。
この学術会議 in 富山を企画していただいた戸山田和久会員をはじめ中部地区会議や関係
者の皆様に心よりお礼を申し上げます。
もう一つは、7月4日に科学技術振興機構(JST)で開かれた「Gender Equality 2.0から
SDGsを展望する―架け橋―」というシンポジウムで、2017年に東京で開かれたGender
Summit 10のフォローアップシンポジウムの2回目の試みでした。冒頭の濱口道成JST会長
の「Gender Summit 10以来、男女共同参画の理念は社会に急速に浸透してきていている
が、その実装はまだ道遠しでJSTでも思うように実現できていない」という挨拶はとても印
象的でした。それは、このシンポジウムで発表された多くのパネリストに共通する思いだっ
たようです。今回は産業界から「日本の近代は男性のキャラクターに最適化した社会が作ら
れた」という発言や、コメンテータから「高度成長期に日本は男性中心社会で成功したとい
う思いが、女性の社会進出に負の効果を生んでいる」という意見など、日本の社会や産業界
の歩みとジェンダー平等への取り組みについての考えが述べられました。その負の環境を乗
り越える大学や病院の取り組みが紹介され、日本の女性研究者の現状について詳しいデータ
分析結果が発表されました。このシンポジウムの内容については、企画を担当された渡辺美
代子副会長から詳しい報告があると思いますが、今回特に注目されることは初めてLGBTを代
表する研究者が参加して意見を述べたことです。今まで私たちは「男女共同参画」という目
標に男女という区別を前提としてきました。しかし、その枠にははまりきらない人々もいる
という事実に目を向けるべきなのです。履歴書をはじめ人事書類では未だに男女の区別が当
然のこととされており、トイレも多目的トイレや身障者トイレの利用を促されるなど、社会
の認識はまだ遅れているのが現状です。日本学術会議は早くからこの問題を提起し、提言等
でも積極的に社会へ向けて発言してきました。最近、お茶の水女子大をはじめ女子大学が続
々とLGBTの学生を受け入れることを決めたのも、こうした発信が功を奏した結果だろうと思
っています。これからもぜひ、ジェンダー平等の議論にLGBTなどの人々の意見を交え、マイ
ノリティとされてきた領域にきちんと目を向けていきたいと思います。
〔 組織運営及び科学者間の連携担当副会長 三成美保 〕
2018年度の審議予算につきましては、みなさまに多大なご負担を強いることになり、ま
ことに申し訳ございませんでした。この幹事会だよりと前後して、財務委員会から決算報
告を添付ファイルでみなさまにお届けいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
7月12日付で大学改革支援・学位授与機構が「現況調査表ガイドライン、国立大学法人及
び大学共同利用機関法人の第3期中期目標期間の教育研究の状況についての評価(2020 年
度実施:4年目終了時評価)」を関連諸機関に通知しました。目下、研究評価は、11学系
(人文科学系、社会科学系、理学系、工学系、農学系、保健系、教育系、総合文系、総合
理系、総合融合系、大学共同利用機関)で実施予定です。同ガイドラインでは、研究評価
に関して、国大協の以下の文章が引用されています。「研究業績の評価においては、学術
的なインパクトの高い国際的な研究水準の業績はもとより、社会・経済・文化の発展やイ
ノベーションへの貢献などの社会的なインパクトや地域の発展への貢献も重視して評価し
ていただきたい。そのような視点から、研究業績説明書の限られた説明だけでなく、各大
学において、特色ある成果や研究のインパクト、取組を特記事項に記入することを促して
いただきたい。また、適切な指標の在り方についても検討していただきたい」。科学者委
員会研究評価分科会では、このような動向をふまえて、関係諸機関との連携・協力をはか
りつつ、早急に検討を進める予定です。
11月17日(日)には、学術フォーラム「学術の未来とジェンダー平等――大学・学協会
の男女共同参画推進を目指して」を開催予定です。企画は、科学者委員会男女共同参画分
科会及び同アンケート検討小分科会が担当しています。学術会議初となる企画が、「<座
談会>女性学長が語る大学の未来―男女共同参画の視点から」です。高橋裕子津田塾大学
学長、田中優子法政大学総長、林佳世子東京外国語大学学長にお集まりいただき、大学の
未来について存分に語っていただく予定です。多くのみなさまのご参加をお待ちしていま
す。
男女共同参画に関する総合アンケートは、9月以降、研究者個人向けと学協会向けの2種
を実施予定です。研究者個人向けアンケートは、これまでも学協会連合を通じて何度かな
されていますが、今回のアンケートはそれらとは少し異なる視点から、異なる性格をもた
せたものとして実施予定です。既存のアンケート成果と相補い合うようなものにしたいと
考えております。また、学協会の組織向けアンケートは、例年、学術会議が行っている学
協会への問い合わせを拡大したものとして10月ごろに実施予定です。こちらもユニークな
設問が用意される予定です。今後とも、みなさまのご協力をどうぞよろしくお願い申し上
げます。
〔 政府、社会及び国民等との関係担当副会長 渡辺美代子 〕
今月は、日本学術会議におけるSDGsの取り組みをご紹介します。今期、2018年春の総会
では各部にSDGsの取り組みについて議論していただき、科学と社会委員会が中心となって
学術会議としてSDGsに取り組んできました。学術会議の方針として、SDGs達成に向けて貢
献するとともに、SDGs対応による学術会議の体質改善を図ることを掲げました。その方針
のもと、第23期の提言等がSDGsとどのように関連しているのか、ホームページで紹介し、
ここから提言を閲覧できるようにしました。このコーナーのアクセス数は当初より徐々に
増加し、最近では一日平均120回アクセスされるようになりました。今期から、提言提出
時にはチェックシートにてSDGsとの関係性を任意で明示いただくようにしました。公開さ
れた提言も、多くがSDGsとの関連性を提示いただき、このコーナーで紹介しています。こ
れから提出いただく提言についても、ぜひSDGsとの関係性を提示いただきますようお願い
いたします。そのことが、より多くの方に提言を読んでいただくことにつながります。
学術会議主催のシンポジウムなどでは、これまで学術会議副会長としてSDGsの取り組み
を既に8回講演してきましたし、これから4回の講演予定があります。このことから、学
術会議とその周辺で、さまざまな分野の科学者たちがSDGsに取り組んでいることがわかり
ます。今回、学術会議が主催した直近のシンポジウムで、SDGsを議論したことを2件紹介
いたします。
1件目は、山極会長の報告にもある6月28日に350名の参加を得て開催された「日本学術
会議 in 富山」です。人口40万人の中核市での開催には、開催地に連携会員はいるものの
会員が存在しないなど、いくつかの困難がありました。しかし、中部地区全体で開催を支
援し、富山大学や富山市と綿密な連携を図るなどの工夫がなされ、開催に至りました。今
回の会議は二部構成でしたが、第一部は「SDGsへの取り組み」をテーマに、学術会議とし
てのSDGs取り組みと富山大学でのSDGs取り組みを紹介し、中部地区の会員、連携会員、会
長、副会長、石川第二部長、齋藤富山大学長をはじめとする富山大学関係者など45名で意
見交換を行いました。第二部では、「富山から発信する学術研究とSDGs対応」というテー
マで学術講演会が実施され、和漢薬を基盤とした神経疾患治療薬開発や、気候変動と富山
の水循環など富山という地を活かした研究開発の発表に加え、富山市の取り組みも紹介さ
れました。富山という地域全体でSDGsに貢献し、そしてそれが世界の科学の発展に寄与す
る姿が印象的でした。
2件目も山極会長に既に報告いただきましたが、シンポジウム「Gender Equality 2.0か
らSDGsを展望する―架け橋―」について別の観点から報告します。「Gender Equality 2.0」
とはジェンダー平等を女性や女子だけの問題と捉えず、文化、地域性、宗教など様々な要
因と関係させながら広く捉え、共によい方向を見いだし、すべてのSDGsに貢献するという
考え方です。今回、LGBTである研究者、女性起業家、NHK記者、ミュージシャンを目指した
研究者など多彩な方々に登壇いただき、ジェンダー平等が様々な人たちを巻き込むことで
大きく広がることを参加者が実感できる会となりました。従来、ジェンダー関係のシンポ
ジウムには女性の参加が大半でしたが、今回は男性が41%、LGBTの方が1%、女性が58%と
いうバランスでの開催が実現でき、ジェンダーが多くの人の問題であるという認識が広まり
つつあるひとつの裏付けが得られました。
〔 国際活動担当副会長 武内和彦 〕
本年6月14日午前、慶応義塾大学三田校舎で開催された「資源循環型経済への躍進」と
題するパネル・ディスカッションに参加しました。パネルに先立ち講演を行ったのは、オ
ランダのスティンチェ・ファン・フェルトホーフェン環境大臣で、資源循環をすすめるオ
ランダの取組が紹介されました。興味深かったのは、自らが幼少を過ごした農村を例に、
伝統的な資源循環の知恵が残っており、それを自分の子供も含めた次世代に継承していく
必要があることを強調していたことです。彼女とは、同日の夕方長野県軽井沢町で開催さ
れた「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」の
地元主催歓迎ディナーでも隣席となり、さらに親交を深めました。
翌15日には、G20軽井沢大臣会合のランチセッションにおいて、私は、中央環境審議会会
長という立場で、最近の日本の環境政策について紹介する機会を得ました。その際に説明
した「地域循環共生圏」は、第五次環境基本計画で提唱したSDGsのローカル化を目指す取組
であり、日本国内はもとより、国際社会にも広げていきたいと考えています。それゆえ、
G20軽井沢大臣会合で発表の機会を得たことは、大変ありがたいことでした。また、この機
会に、日本学術会議副会長の立場で、本年3月6日に開催したS20「海洋生態系への脅威と海
洋環境の保全」の成果についても報告しました。とくに、G20で大きなテーマとなった海洋
マイクロプラスティックごみ問題に関しては、S20共同声明を踏まえ、科学的知見の蓄積と
データ共有、陸域でのローカルな資源循環システム確立の必要性などを訴えました。これら
は、「G20海洋プラスティックごみ対策実施枠組」にも適正に反映されており、S20を開催し
た意義がさらに高まったものと思います。
最終日の16日午前には、原田義昭環境大臣出席のもと、アジア太平洋適応情報プラット
ホーム(AP-PLAT)の立ち上げ式が開催され、私は地球環境戦略研究機関(IGES)理事長
の立場で出席しました。この会合には、インドネシアの環境林業大臣やタイの自然資源環
境省事務次官も出席しており、アジア各国から大きな期待が寄せられていることが伺われ
ました。このAP-PLATは、気候変動影響予測などの科学的知見をアジア太平洋各国に提供す
るための情報プラットホームですが、私としては、これまでIGESがアジア各地で展開して
きたフィールド研究と結びつけ、気候変動適応計画の策定や自然災害に対応するレジリエ
ントな社会づくりに貢献していきたいと考えています。
さらに6月22日には、持続可能な社会に向けたSDGsジャパンユースプラットホーム(JYP
S)が神戸市外国語大学で主催したG20ユースサミットにIGES理事長として出席しました。
テーマは「地方創生とパートナーシップ」でした。私は、久元喜造神戸市長とともに冒頭
に挨拶を行うとともに、パネル・ディスカッションにも参加しました。私は、昨年ニュー
ヨークの国連本部で開催されたハイレベル政治フォーラム(HLPF)での経験から、様々な
ステークホルダーがSDGsの議論に参加することが必要であること、またSDGsのローカル
化を実現するには、次世代を担うユースへの期待がとくに大きいことを述べました。
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幹事会開催状況(議事要旨、配布資料)はこちら
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以下、第279回幹事会の概要となります。
◎第278回幹事会(令和元年5月30日(木)13:30~16:30)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われた。
2 以下の公開審議が行われた。
(1)機能別委員会における分科会の設置及び運営要綱の一部改正(新規設置1件)並び
に分科会委員(新規1件、追加3件)を決定した。
(2)分野別委員会における運営要綱の一部改正(新規設置1件)を決定した。
(3)提言「ゲノム医療・精密医療の多層的・統合的な推進」について、基礎生物学委員
会・統合生物学委員会・基礎医学委員会合同ゲノム科学分科会菅野純夫委員長より
説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条件に承認した。
(4)令和元年度代表派遣について、実施計画の変更及び派遣者の決定を行った。
(5)令和元年度フューチャー・アースに関する国際会議等への代表者の派遣について決
定した。
(6)令和元年度第2四半期における学術フォーラム及び土日祝日に講堂を使用するシン
ポジウム等について、追加を決定した。(1件の学術フォーラム、1件のシンポジ
ウム等。)
(7)4件のシンポジウム等の開催と4件の国内会議の後援を決定した。
(8)日本学術会議の活動状況等に関する年次報告(平成30年10月~令和元年9月)の作成
について決定した。
3 その他事項として、今後の幹事会等の開催日程について確認した。
4 以下の非公開審議が行われた。
(1)補欠の会員の候補者を推薦する部を決定した。
(2)分野別委員会における小委員会委員(追加1件)を決定した。
(3)国際業務に参画するための特任連携会員の任命を決定した。