日本学術会議「幹事会だより No.174」について

 

 

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幹 事 会 だ よ り No.174
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                           令和2年1月29日発行
                              日本学術会議会長
                                  山極 壽
 

 今回は12月19日(木)に開催された幹事会で議事要旨が確認されましたことを受け、
11月28日(木)に開催された第284回幹事会の議事概要を御報告いたします。
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今後の幹事会・総会日程
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●幹事会
第286回幹事会 令和2年 1月30日(木) 13:30から
第287回幹事会 令和2年 2月27日(木) 13:30から
第288回幹事会 未定(令和2年 3月12日(木) 13:30からを予定)
第289回幹事会 令和2年 3月26日(木) 13:30から

●総会
第180回総会 令和 2年 4月15日(水)-17日(金)
第181回総会 令和 2年 7月 9日(木)
第182回総会 令和 2年10月 1日(木)- 3日(土)
第183回総会 令和 3年 4月21日(水)-23日(金)

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会長・副会長より
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〔 会長 山極壽一 〕
  新年あけましておめでとうございます。今年は子年、ねずみの年です。ねずみにちなん
で、私は今年の目標を「小さい命を遊ばせる」としました。かつて、アフリカの山奥でゴ
リラの調査をしているとき、ゴリラがねずみによく似たハイラックスという小動物と遊ん
でいる姿を思い出したのです。200キログラムを超えるゴリラが1キログラムもないハイ
ラックスと遊ぶ様子は、見ていて微笑ましいものでした。手をそうっと出してハイラック
スをくすぐり、相手が突っかかってくると手を引っ込め、また手を伸ばす。それを何度も
繰り返しながら、とても楽しそうな様子が印象的でした。
  実は、自分と体力の違う動物と遊ぶ能力が最も高いのは私たち人間です。だからこそ、
ペット動物や飼育動物を作り、人工的な環境に動物たちを迎え入れて賢く利用できるよう
になったのです。これらの動物たちを遊ばせながら、その力を借りて、私たちは人間の持
つ能力を拡大してきました。科学技術についても同じことが言えます。昨年ノーベル化学
賞を受賞された吉野彰先生は、軽量で高い出力をもち、繰り返し充電可能なリチウムイオ
ン電池を開発しました。今や携帯電話をはじめ、多くの機器に使われており、私たちの生
活を豊かに小型化することに貢献しています。これから再生可能エネルギーと組み合わさ
れて地球環境への負荷を軽減することも期待されています。まさに、小さいものを遊ばせ
ることによって世界観を変えたのです。これからの科学技術の方向性を見事に示している
と思います。
  昨年12月17日と18日にはムーンショット計画についての国際シンポジウムが開かれ
ました。これは、野心的な目標掲げ、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑
戦的な研究開発を推進する新しい研究開発制度です。目標として掲げられたのは6課題で、
いずれも2050年までに実現することを目指します。1)調和のとれたエンパワーメント
により人が身体、脳、空間、時間の制約から解放される社会、2)健康社会に向けた超早
期疾患予測・予防、3)AIとロボットの共進化による自ら学習・行動し人間と共生する
ロボット、4)地球環境再生に向けた持続可能な資源循環、5)未利用の生物機能等のフ
ル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食糧供給事業、6)経済・産業・安
全保障を飛躍的に進展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータ。これらは互いに関係し、
重複する課題で、将来の人間の福祉に大きく貢献するとともに、地球環境の劣化を防ぐこ
とが主たる狙いとなっています。これらの科学技術が「身軽で負荷のかからない、幸福な
暮らし」を実現できるよう願ってやみません。今年度の補正予算で助成される予定なので、
もうすぐ公募が始まります。ぜひ、多くの研究者の方に挑戦してほしいと思っています。
  10月の総会で紹介した「日本の展望2020」(仮称)も12月の幹事会で内容と執筆者が
決まり、現在原稿のとりまとめを開始しています。ムーンショット計画と同じく、2050年
を見据えて世界や日本の動向を予想し、これからの学術の役割やその在り方を提示するこ
とになっています。3月30日にはその内容についてフォーラムを予定していますし、4月
の総会では会員の皆さんに紹介してご意見をうかがうことにしています。楽しみにしてい
てください。

〔 組織運営及び科学者間の連携担当副会長 三成美保 〕
  24期も残すところ9ヶ月となりました。目下、多くの委員会・分科会で提言作成やシン
ポジウム企画が進められています。科学者委員会では、今年の9ヶ月間に以下のような取
り組みを企画していますので、ご紹介します。
  男女共同参画分科会(三成委員長)では、2つの提言を予定しています。「男女共同参画
社会推進のための学術からの提言(仮)」と「学術におけるジェンダー平等の実現に向けて
ーーアンケート結果をふまえて(仮)」です。前者は日本社会全体の課題について論じ、後
者は大学・研究機関・学協会における男女共同参画の実態と今後の課題を示すものです。
なお、2019年11月17日開催の学術フォーラム「学術の未来とジェンダー平等-大学・
学協会の男女共同参画推進を目指して-」の全資料は学術会議HPに掲載されています
http://www.scj.go.jp/ja/event/index.html)。
学術体制分科会(佐藤委員長)では、2020年5月9日に学術フォーラム「日本の学術
の現状と展望--第6期科学技術基本計画に向けて--(仮)」を企画責任者として開
催予定です。本フォーラムは、日本の学術を取り巻く環境の厳しさと研究活動の弱体
化をめぐる現状と課題を整理し、2019年11月6日に発出された提言「第6期科学技
術基本計画に向けての提言」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t283-1.pdf)の普及を目指すも
のです。
研究計画・研究資金検討分科会(藤井委員長)では、これまでの2年間にわたる議論・
検討の集大成として、提言(案)「第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン
(マスタープラン2020)」をまとめました。まもなく幹事会で審議・公表される予定で
す。
学協会連携分科会(米田委員長)では、「日本学術会議協力学術研究団体規程(平成17
年10月4日日本学術会議第1回幹事会決定)」の改正案をまとめました。「日本学術会
議協力学術研究団体の指定に係る必要な要件及び手続」において記載されている「協力
学術研究団体」の定義を「研究者の自主的な集まりで、研究者と研究者とみなされる者
が構成員の半数以上であること」に改正するという案です。「研究者とみなされる者」と
は、「研究者の具体的範囲」に含まれる者ではないけれども、学会発表の経験、学術論文、
著書、特許等の研究業績を有する者(高校教員や医師・薬剤師、弁護士などの方々)を
指します。これにあわせて、現在ホームページ上にある説明文(「○○士(師)」の方々
を除くなど)を全面的に削除する予定です。
ゲノム編集技術に関する分科会(武田委員長)は、第一部哲学委員会いのちと心を考え
る分科会(田坂委員長)と協力して、2019年11月24日に学術フォーラム「ゲノム編集
技術のヒト胚等への応用について考える」を企画・主宰しました(資料は学術会議HP
に掲載http://www.scj.go.jp/ja/event/index.html)。すでに提言案がまとめられており、
今後、査読・幹事会審議等を経て発出される見込みです。
研究評価分科会(三成委員長)では、2020年5月にシンポジウムを開催し、各種アンケ
ート結果もふまえて提言をまとめる予定です。評価指標をめぐっては、国立大学協会が
「2020年度の運営費交付金の配分における共通指標の活用について(考え方の整理)」
(2019年11月8日)(https://www.janu.jp/news/files/20191115-wnew-kyotsushihyo.pdf
を公表し、評価について11の分野・領域単位(11学系)で行い、教育を「教育課程」
と「学修成果」、研究を「研究成果」と「研究環境」のそれぞれ2つで構成する指標を使
うよう求めました。「成果を中心とする実績状況に基づく配分」額は、700億円(2019年
度)から850億円(2020年度)に増額されました。教育100億円(2019年度にはなし)、
研究355億円、経営395億円という配分となり、国大協の提案はかなりの範囲で盛り込
まれています。研究については、若手研究者比率(120億円)、TOP10%論文(重点支援
第3類型=世界レベル目標型:85億円)という2019年指標に加えて、11学系別基準に
よる研究業績数(75億円)、科研費獲得実績(75億円)が追加されました。しかし、た
とえば「学術図書」から、「大学、研究所等の研究機関及び学術団体等がその事業として
翻訳・校閲・刊行すべきもの」や「出版社等の企画によって刊行するもの」が除外され
るなど、人文社会学分野の実態にあわない現状です。また、国立大学法人では、上記「経
営」指標に「年俸制」の導入が入っており、各人の研究業績評価が研究者個人の給与・
賞与に直接反映される傾向が強まります。研究評価のあり方が激変するなかで、学術の
発展を維持するために何が必要なのか。みなさんとともに考えたいと思います。

〔 政府、社会及び国民等との関係担当副会長 渡辺美代子 〕
  明けましておめでとうございます。今年は日本学術会議第24期の最後の年です。やり
残しのないよう、残り8カ月でできるだけのことを行い、第25期に引き継ぎたいと思い
ます。
1月13日には、皇居で行われた令和初の講書始の儀に、日本学術会議から武内副会長、
第一部溝端幹事、第二部石川部長、第三部高橋幹事と共に出席してきました。東野治之
先生による遣唐使のお話は、留学生を同行させていかに中国文化を日本に取り入れたか
という歴史のお話で、現代にも通じる内容が多々ありました。その他、斎藤修先生が歴
史のなかの工業化について、長谷川昭先生が地震メカニズムと海底プレートについて、
それぞれ異なる分野の貴重なお話をされました。天皇皇后両陛下に加え、女性が多数と
なる華やかな皇族の方々が参列されました。
  日本の展望2020は、山極会長の総論に加え、多くの執筆者で書き上げる各論の執筆が
始まり、お正月明けにはほとんどの最初の原稿が揃いました。私の担当するエネルギー・
環境の章は、誰一人締め切りに遅れないという素晴らしい揃いようでした。日本の展望
2020検討委員会では1月末にこの最初の原稿を議論し、2月には3回委員会を開催して
内容を議論します。3月30日には「持続発展的な未来社会を考える-日本の展望2020に
向けて-」と題する学術フォーラムを開催し、4月の総会では会員の皆さんにその内容を
ご紹介してご意見を伺う予定です。
  次は提言の提出についてお願いです。今期は、各委員会と分科会でとても活発に活動し
ていただいているため、提言、報告、回答の意思の表出(提言等)が従来よりも多く出る予
定です。委員会と分科会に調査した結果では、今期は133件の提言等が出る予定です。第
23期には117件、第22期には121件、第21期には134件、第20期には81件でしたの
で、予定通りの数となれば、東日本大震災のあった第21期と同程度の提言等が出ること
になります。数だけではなく、質の充実にも期待がありますので、幹事会は今年3月から
月2回開催して、対応していくこととしました。幹事会メンバーは事前に提言等を熟読し
ておくことが必要となりますが、皆さんから提出される案には丁寧に対応したいと考えて
います。そのため、分野別委員会から出る提言は4月末までに、課題別委員会等は7月末
までに査読済み案を提出いただくことになっています。ぜひ、このペースで進めていただ
きますようお願いいたします。また、学術会議の提言等には異なる意見があっても時機を
得て発することに意義があり、そのためには過去に発出された提言等を振り返り、異なる
意見との関係を解説することの必要性を近いうちに会長メッセージとして出す予定です。
こちらについてもお読みいただき、提言等がより社会にとって重要な力になるためにご協
力いただきますようお願いいたします。

〔 国際活動担当副会長 武内和彦 〕
新年明けましておめでとうございます。どうぞ本年もよろしくお願いいたします。日本
学術会議の国際活動に関しては、これまでも、会員、連携会員、特任連携会員、事務局
の皆さんに大変お世話になり、心より感謝申し上げます。第24期の国際活動も、残すと
ころ8カ月余りとなりましたが、最後まで日学の国際的プレゼンス向上に努めていきた
いと思いますので、引き続き、ご支援、ご協力いただきますようお願いいたします。今
回は、今期末までに予定されている主な国際関係イベントを皆さまにお伝えしたいと思
います。
まずは、2月28日(金)に日学講堂において開催される「持続可能な社会のための科学と
技術に関する国際会議(持続会議)2019」についてです。今年度は、白波瀬佐和子連携
会員が主導し、「グローバル時代の包摂を考える」と題した会議が開催されます。この会
議では、国際学術会議(ISC)のダヤ・レディ会長が挨拶するほか、社会科学系のエリサ・
ライス副会長、専門家としてブレーメン大学のマーティン・コリー特別教授や東京大学
の大沢真理名誉教授がそれぞれ専門的な立場から基調講演されることになっています。
これまで理系分野主導で開催されることの多かった持続会議が、今回は社会科学系の研
究者が中心となって運営されることになり、私としても大変嬉しく思っています。
3月24日(火)-25日(水)には、アメリカのワシントンDCで、全米科学アカデミ
ー主催によるGサイエンス学術会議が開催されます。この会議のテーマは、1)デジタ
ルヘルス、2)基礎科学の重要性、3)昆虫の減少と生態系サービスの劣化、です。この
うち2)のテーマは、昨年10月7日、STSフォーラム時に開催されたアカデミープレジ
デントミーティングでも取り上げられたものであり、各国アカデミーともこぞって基礎
科学の重要性を訴えたことが強く印象に残っています。今回は3つのテーマに即して3
名の専門家を派遣することになります。昨年3月にパリのフランス科学アカデミーで開
催されたGサイエンス学術会議に2名の若手アカデミー会員を派遣し、私を含め比較的
高齢な出席者に対して大きな刺激を与えたことから、できれば若手の専門家を派遣した
いと考えています。
しばらく空いて、9月10日(木)-12日(土)には、中国の上海市で、中国科学技術協
会(CAST)主催でアジア学術会議(SCA)が開催されます。SCAは、日学の提唱で2000
年に始まったもので、これまで継続して日学が事務局を務めています。事務局長は、本
年1月1日をもって、吉野博連携会員から澁澤栄会員に交代となりました。現在のSCA
会長は、CAST副会長のワン・シー氏です。彼の強い意向もあって、会議のテーマは、
「ニューマテリアルの時代:持続可能な社会のためのイノベーション」となりました。
SCA会議が開催される上海テック会議センターは、中国におけるマテリアル科学技術の
最先端の研究拠点群に囲まれており、これまでのSCAの雰囲気とはやや異なり、最先端
科学技術に関する情報・意見交換や現地視察の絶好の機会となると考えられます。
また、9月25日(金)-26日(土)には、サウジアラビアのジェッダにおいてサイエ
ンス20(S20)が開催される予定です。G20各国を代表する科学アカデミーから構成さ
れるS20は、過去3年間G20開催国を代表するアカデミーが主催してきました。昨年
は、3月6日に日学が主催し、「海洋生態系への脅威と海洋環境の保全-特に気候変動及
び海洋プラスティックごみについてー」が討議され、その共同声明文は、G20エネルギ
ー・環境大臣会合やG20大阪サミットにも反映され、大きな成果をあげました。今年の
テーマはまだ決まっていませんが、主催者であるアブドルアジス国王科学技術都市
(KACST)のアナス・アルファリス所長からはすでに私が相談を受けています。開催予
定地のジェッダ近郊には国王の肝いりで創られたアブドラ国王科学技術大学がありま
す。私は、2009年9月に挙行されたこの大学の開講式と記念シンポジウムに出席した貴
重な経験があります。日学国際活動担当副会長としての最後の海外出張が、そのジェッ
ダで開催されるS20となるであろうと考えると、まことに感慨深いものがあります。



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日本学術会議HP
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幹事会開催状況(議事要旨、配布資料)はこちら
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/index.html

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以下、第284回幹事会の概要となります。
◎第284回幹事会(令和元年11月28日(木)14:00-17:00)
審議事項等
1 前回議事要旨の確認が行われた。
2 以下の公開審議が行われた。
(1) 機能別委員会における分科会委員(新規4件、追加1件)を決定した。
〇分科会委員の決定
・選考委員会
・科学と社会委員会
(2) 幹事会附置委員会における分科会委員 (新規3件)を決定した。
〇分科会委員の決定
・危機対応科学情報発信委員会
(3) 分野別委員会における運営要綱の一部改正(委員の構成の変更1件)及び委員(【委
員会及び分科会】追加3件、【小委員会】追加1件)を決定した。
(4) 提言「専攻医募集シーリングによる研究力低下に関する緊急提言」について、臨床
医学委員会天谷雅行委員より説明があり、審議の結果、所要の修正を行うことを条
件に承認した。
(5) 令和元年度代表派遣について、派遣者を決定した。
(6) 8件のシンポジウム等の開催及び1件の国内会議の後援について決定した。
3 その他事項として、今後の幹事会等の開催日程について確認した。
4 以下の非公開審議が行われた。
(1) 幹事会附置委員会における分科会委員(特任連携会員)(新規2件)を決定した。
(2) 分野別委員会における小委員会委員(追加2件)を決定した。
(3) 国際業務に参画するための特任連携会員の任命について決定した。
(4) 畑井新喜司メダル受賞候補者を推薦することを決定した。
(5) 外部委員候補者の推薦について承認した。